2021.10.17
紀州のアクリル王に直撃取材! コロナ対策で需要マシマシの「アクリル」、その意外な歴史と業界事情とは?
――不躾ですが、だいぶ利益も出てウハウハなのでは……?
多少の利益増はありますが、正直、飛沫防止に使われるようなアクリルパネルは、うちにとってはそこまでおいしい商売というわけではないんですよ。
飲食店にあるようなアクリルパネルって、せいぜい3mmくらいの厚さでしょう? うちのような手作業によるキャスト製法で枚数を増産しても、手間のわりにアクリルの製造販売量が急増するというわけではないので、利益にはそこまで直結しないんです。
かといって、アクリル板が厚すぎると、それはそれで製造に時間も手間もかかってしまうので、うちの場合は、8mmくらいのアクリル板が一番利益率が高いかと思います。小さめの水槽などに使われる厚さのアクリルです。
ただ、もちろん、うちが作りやすいものと市場の需要は全く別ですからね。飛沫防止パネルに限らず、うちの「カナセライト」を求めてくださる方の需要に常に応えていきたいという考えです。
増産よりも地元の雇用を守ることが大事
――アクリル需要が高まる中でも、大量生産ができる押し出し製法ではなく、手間のかかるキャスト製法にこだわる理由とは?
アクリルの魅力はなんといっても、透明で加工しやすく、色が黄変しないのでいつまでもきれいに保たれるところにあります。さらに、うち独自のキャスト製法で、職人の目と手が加わることによって、着色や厚みが自由に調整できて、あらゆる注文に対応可能となります。様々な要望にお応えできる醍醐味、プライドというのはあります。
また、創業者である祖父の代から地域貢献を企業理念に掲げてやってきました。創業時と現在の本社は上富田町ですが、長年、上富田町の隣にある田辺市に本社工場を置いてきたため、今でも「カナセは田辺を代表する企業」と言ってくださる方が多くいて、ありがたいです。
単に機械化して生産量を増やすのでなく、地元田辺や上富田、その周辺市町村に暮らす多くの方に働いていただき、雇用を維持していくことも責務と思っています。
そうした考えから、2020年始めには、コロナ対応で非常事態の中、田辺市役所や近隣の公共施設にアクリル板を寄付しました。
また、各工場には、災害時に地域住民の方に使っていただくための非常食や水、毛布などを常備しています。だいたい200人が一週間過ごせる量です。
――すごい地元愛と貢献度ですね。金谷社長は小さな頃から地元を支える家業を継ぎたいという思いでやってこられたんでしょうか。
いや、若い頃は正直全然(笑)。中学卒業後すぐに地元を離れて東京に下宿して、桐朋高等学校というところに進学したくらいですから。そのまま東大法学部に進んで、国際政治の道にいきたいと思ってシカゴ大学政治学部の博士課程まで進みました。