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竹内佐千子と三人の担当編集者――『沼の中で不惑を迎えます。』刊行記念座談会

号泣する竹内佐千子、背中をさするA達、駆けつけたM田

エイチ 私は竹内さんとは2年くらいのお付き合いで、まだまだよくわからないところが多いのですが、竹内さんってどんな人なんでしょうか。

M田 すごく行動力がありますよね。私は竹内さんがいなかったら、多分経験してこなかったことばかりなので。竹内さんからの影響をすごく受けていますね。

エイチ Ⅿ田さんはもともとイケメンをおっかけるのが好きだったわけではない?

M田 もともとイケメン好きではありましたけど、地元とか、職場でも1ミリも言ったことはなかったんです。『イケメン』の連載が始まって、それから社内でも「イケメンと言えばM田」というキャラとして認識されるようになりました。だから、竹内さんと出会っていなかったら、こんなに握手会とかイベントとか行ってないと思います。

A達 竹内さんの行動力はすごいですよね。同じ熱量で一緒にはまっていた時期があるから人のことは言えないんですけど、エネルギーの9割おっかけて、残り1割で仕事してるような。その頃に比べたら竹内さんもずいぶん落ち着いたなと思います。

エイチ A達さんと竹内さんは同じアイドルが好きで仲良くなったんですよね?

A達 そうです。私と竹内さん、2012年にデビューしたEXOというK-POPのグループにどハマりして、一緒にライブに行ったり、CDやグッズを買い漁ったりと日々の糧にしていたんですけど、メンバーが相次いで脱退するという事件が起こって……。その騒動の直後のライブのチケットが取れていたから、竹内さんと呆然とした状態で行ったんですよ。でも、私たちはメンバーが抜けたという事実を全然受け入れられてなかったから、ステージに彼らが登場した瞬間に、周りがわあああってすごい盛り上がって一斉に立ち上がるんですけど、全く動けなくて。立ち上がることもできなくてずっとゲンドウポーズで。メンバーが抜けたのに、周りが何事もなかったみたいに盛り上がってて、それがつらすぎて……。竹内さんが、途中から「こんなのって、ないよ……」って泣き出してしまって。私も全く同じ気持ちだったから、そうだね、そうだねって背中をさすることしかできませんでした。

M田 その後、渋谷でご飯を食べている二人に呼び出されて、とりあえず行かないと!と思って合流しました。何が起こったのかよくわかってなかったんですけど、ただ一緒にご飯を食べて。

A達 そう、お通夜状態の我々の元に、訳もわからずM田さんが駆けつけてきてくれて(笑)。他にも、竹内さんの前の担当編集とか、友達とか、みんな来てくれて、慰めてくれました。

エイチ すごくいいエピソード……会社とか公私とか超えて繋がっているんですね。

オタク心のグラデーション

A達 私にとっては、EXOがたぶん人生で一番はまったグループだったと思うし、これから先、同じ気持ちになれる存在はもう現れないだろうなと思ってて……。オタクをやってて一番つらかった時期を共有しているから、竹内さんとはいつまでも戦友みたいな気持ちがあります。結局、脱退事件がつらすぎて、私も竹内さんもおっかけ続けることができなくなっちゃったんですけど。竹内さんはその後も後輩のグループを見つけて応援してるし、タイBLとか、なんだかんだずっと夢中になれるものを引っ張ってくる力はすごいなと尊敬してますね。

M田 そうですね。竹内さんのそのエネルギーはどこから湧いてくるんだろうって思います。コロナもあって、連載でもしばらくイケメンの現場には全然行けていないんですけど、私はその間に役職が変わったりとか、去年はすごくつらいこともあって……今はもう、前みたいな、何時間でも握手会の整理券に並んだりとか、すごい遠くまで会いに行ったりとか、そういう気持ちが失われちゃった感じがします。

A達 わかります。あのエネルギー、どこ行っちゃったんだろうって。今、40代50代でBTSにはまりだす人とかたくさんいらっしゃるじゃないですか。正直、もうそのエネルギー湧かないわと思って、ひたすら眩しいです。

エイチ お二人はたぶん、10年以上推し活してきて、今一段落しちゃった感じなんでしょうね。私は本当に遅れてきたオタクというか……オタクにカウントされるのはおこがましいんですけど、今BTSのおかげで、なんとか気力が保たれているなって思うんですよね。好きなメンバーの髪型をひたすら真似したりとか。

A達 そういう時期ありますよね(笑)。私も推しと同じ髪型にしたくて、ツーブロックにしてた時期あります。

M田 そういう気持ち、久しく忘れていますね~。

エイチ 20代の頃だったら、アイドルを好きになったとしても、付き合いたいとか、少しでも近づきたいっていう気持ちで、まずいことになっていたと思うんですけど、アラフォーの気力も体力も下降線のときに出会って、ある意味ですごく自由に純粋に応援できるというか。
アラフォー世代って、恋愛至上主義的な価値観が根底にあると思うんですよ。青春時代に、ケータイ小説とか、浜崎あゆみの歌が流行ったりとか……。私も、人と人との関係性において恋愛が一番上位だとずっと思ってきたんですけど、この歳になって、そんなこともないなと。ロマンティック・ラブ・イデオロギーみたいなものが幻想だと気づいたからかもしれないですね。だから、かつて金城武に対して抱いていたような感情を持って、今BTSをおっかけているわけではないということは言っておきたいです(笑)。

アイドルをおっかける人は、どうして付き合ったりできないのに応援できるんだ!?と最近まで思っておりました。byエイチ (©竹内佐千子/集英社)
アイドルをおっかける人は、どうして付き合ったりできないのに応援できるんだ!?と最近まで思っておりました。byエイチ (©竹内佐千子/集英社)

A達 私もテニミュ(ミュージカル『テニスの王子様』)にはまっていたときは、私もまだ若かったし、みんなまだデビューしたての若手俳優さんなので、どこかで遭遇できるんじゃないかと思ったりしてたけど、アイドルに対しては思ったことないですね。アイドルって偶像崇拝に近いというか、近づいちゃいけないし、現実に引き下ろしちゃいけない、みたいな気持ちがあって。身近にいないでほしい、遠くにいてほしい、みたいな。

M田 確かに、素敵な俳優さんとか、会ってみたいな、一緒に仕事できたらいいなとかは思いますけど、付き合いたいとかまでは思ったことないですね。付き合いたいと思って、10代の男の子の握手会とか行っていたら、それこそヤバいと思うので……。

エイチ でも、竹内さんとM田さんの目利き力ってすごいなって思うんです。今、テレビで見るイケメンたち、「あれ、この名前どこかで……」って思ったら、大体『イケメン』の既刊で数年前に竹内さんとM田さんがカレンダー買ったり、握手会行ったりしてる(笑)。

M田 目利きって言うんですかね?(笑) 最近、竹内さんとも話すんですけど、気になったり、話題になったりするイケメンの子たちがどんどん低年齢化していて、純粋に楽しんでいいのかな、10代の子たちをかわいいって言ってていいのかなって思い始めて。
握手会に行っても、14歳とか15歳とか、下手したら自分の子どもでもおかしくない。そんな子たちを、消費者である私たちが労働させているんだ……って思ってしまって。これからは、せめて20代以上を応援したいって思っています。

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新刊紹介

竹内佐千子

たけうち・さちこ●漫画家。おっかけ対象が男子で恋愛対象が女子のレズビアン。
自身の恋愛体験を描いたコミックエッセイをはじめ、おっかけ、腐女子、などをテーマにしたコミックエッセイを描き続け、最近はストーリー漫画も描いている。
赤ちゃん本部長』(講談社)、『これからは、イケメンのことだけ考えて生きていく。』(ぶんか社)など。
ホームページhttp://takeuchisachiko.jp/
Twitter @takeuchisachiko

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