2020.8.29
ニッポンの不倫男〜罪悪感がないにもほどがある権利主張の話
【ニッポンの不倫男】
分類詳細:不倫属自己解放種
生息環境:妻のいないエリア全域
特徴:不倫は男の甲斐性…なのか
@鈴木涼美
不倫男についてたくさんの文章を書いてきたけど、そもそもなんであんなにも自然に不倫出来るのか?
私の叔母は小学校の時に桜の枝を折って、担任の教師に「戦争に負けた日本には、世界に誇れるものはもう富士山と桜しかないんですよ!」と叱られて以来、富士山と桜を非常に愛でているのだが、私は先日、米国育ちの台湾人の男に「日本のイメージというと不倫がとてもカジュアルで、若い学生の女の子たちがみんな風俗で働いている」と言われて以来、何ともいえない気持ちになっている。
ちなみにその男は「だから日本の女の子と付き合うとしたら、もしプロスティテュートの過去があってもオーバーリアクトせずに、ちゃんと彼女が過去と向き合っているなら許す腹づもりでいるんだ。僕はオープンマインデッドだから、過去は過去、きちんと話して乗り越えるさ」とおおらかな笑顔を作った後に、「まぁでも、流石の僕も、もしガールフレンドがポルノ女優をやってたなんて聞いたら正気で乗り越えようなんていう気にはとてもなれないけどね」と爽やかに言っていたので、全米が泣く前に白目剥いて固まって全涼美が死んだ。
何はともあれ、そんな、富士山・不倫・風俗という3つのFと、年に1週間ほど咲き誇るチェリーブロッサムの国ニッポンでは当然、不倫男が富士山のように堂々と猛々しく誇らしく生きている。
それは米国在住のベンチャーキャピタリスト(って何?)から見れば、富士山や桜やNARUTOやPUFFYを超えるほどのナニコレ珍百景なのだろうが、世界には一夫多妻の国もあるし、歴史をひっくり返せば中国の宮廷の側室たちなんて日本の大奥が可愛く見えるほどだったらしいし、別にとりたてて騒ぐ必要も恥じる必要もない。サザエさんに見られるような日本の理想的な家族からは、仕事の話とセクシャルな香りは一切排除されているわけで、仕事と性を外で処理して家に持ち込まない文化が美徳とされてきたのは否定し難い。横槍を入れてくる西洋キリスト教的価値観に惑わされ、既存価値観との間で混乱しながら芸能人の不倫をまるで性犯罪のように扱うのもよし、不倫再興を睨んでパパ活ビジネスの新しいモデルを模索するもよしだ。
というわけで私は不倫に対して台湾VCがポルノ女優に対して持っているほどのジャッジメンタルな気分を持ち合わせているわけではない。早めに結婚して人妻となった友人たちは、相手の家柄や結婚への道のりばかり意識していたあの頃よりもずっとずっと美しい笑顔で純粋で綺麗な恋愛を家庭外にて楽しんでいるようだし、いい条件で店を選ぶにはややほうれい線がきつくなってきた風俗嬢の友人たちは既婚男性から個別にお金を引き出せるアプリを歓迎しているようだし、面倒な男が嫌いで意外に性欲の強いキャリア女性の友人は既婚男性のアレをああして満足しているようだし、イマイチ自宅に居場所のない男性はそんな女たちにアレをああされて満足しているようだし、AVでは相変わらず美熟女の人妻ものは鉄板の検索数を誇る。その様子は割と最大多数の最大幸福に近いような気もする。しかし最大多数の最大幸福を実現しようとすると、どこかの歪みでできた穴に大量の汚水が流れ出し、たまたま穴の下にいるやつが泥水ガブガブ飲みながら耐えている、というのはあらゆる社会に言えることでもある。