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ニッポンの不倫男〜罪悪感がないにもほどがある権利主張の話
8月5日に、鈴木涼美さんの新刊『非・絶滅男女図鑑 男はホントに話を聞かないし、女も頑固に地図を読まない』が発売されました。 「よみタイ」でも大好評だった連載コラム、「○○○な女 オンナはそれを我慢している」「×××な男 酒と泪とオトコと美学」から厳選された30人の男女の話が1冊に! 令和を生き抜く現代男女の生態を、いまや各メディアで引っ張りだこの涼美さんが独(毒?)自の視点で分析します。 この刊行を記念し、本書の中から著者みずからが「特に思い入れが深い!」と厳選した各篇を、その理由と書籍未収録の画像(涼美さん自撮り!)とともに特別掲載。 毎週1篇ずつ、全6回の特別企画です!

ニッポンの不倫男〜罪悪感がないにもほどがある権利主張の話

セクシャル類ニッポン目依存科
【ニッポンの不倫男】
分類詳細:不倫属自己解放種
生息環境:妻のいないエリア全域
特徴:不倫は男の甲斐性…なのか

@鈴木涼美
不倫男についてたくさんの文章を書いてきたけど、そもそもなんであんなにも自然に不倫出来るのか?

  私の叔母は小学校の時に桜の枝を折って、担任の教師に「戦争に負けた日本には、世界に誇れるものはもう富士山と桜しかないんですよ!」と叱られて以来、富士山と桜を非常に愛でているのだが、私は先日、米国育ちの台湾人の男に「日本のイメージというと不倫がとてもカジュアルで、若い学生の女の子たちがみんな風俗で働いている」と言われて以来、何ともいえない気持ちになっている。

 ちなみにその男は「だから日本の女の子と付き合うとしたら、もしプロスティテュートの過去があってもオーバーリアクトせずに、ちゃんと彼女が過去と向き合っているなら許す腹づもりでいるんだ。僕はオープンマインデッドだから、過去は過去、きちんと話して乗り越えるさ」とおおらかな笑顔を作った後に、「まぁでも、流石の僕も、もしガールフレンドがポルノ女優をやってたなんて聞いたら正気で乗り越えようなんていう気にはとてもなれないけどね」と爽やかに言っていたので、全米が泣く前に白目剥いて固まって全涼美が死んだ。

 何はともあれ、そんな、富士山・不倫・風俗という3つのFと、年に1週間ほど咲き誇るチェリーブロッサムの国ニッポンでは当然、不倫男が富士山のように堂々と猛々たけだけしく誇らしく生きている。
 それは米国在住のベンチャーキャピタリスト(って何?)から見れば、富士山や桜やNARUTOやPUFFYを超えるほどのナニコレ珍百景なのだろうが、世界には一夫多妻の国もあるし、歴史をひっくり返せば中国の宮廷の側室たちなんて日本の大奥が可愛く見えるほどだったらしいし、別にとりたてて騒ぐ必要も恥じる必要もない。サザエさんに見られるような日本の理想的な家族からは、仕事の話とセクシャルな香りは一切排除されているわけで、仕事と性を外で処理して家に持ち込まない文化が美徳とされてきたのは否定し難い。横槍を入れてくる西洋キリスト教的価値観に惑わされ、既存価値観との間で混乱しながら芸能人の不倫をまるで性犯罪のように扱うのもよし、不倫再興を睨んでパパ活ビジネスの新しいモデルを模索するもよしだ。

日本の誇れる3Fは尊いのだけれども
日本の誇れる3Fは尊いのだけれども

 というわけで私は不倫に対して台湾VCがポルノ女優に対して持っているほどのジャッジメンタルな気分を持ち合わせているわけではない。早めに結婚して人妻となった友人たちは、相手の家柄や結婚への道のりばかり意識していたあの頃よりもずっとずっと美しい笑顔で純粋で綺麗な恋愛を家庭外にて楽しんでいるようだし、いい条件で店を選ぶにはややほうれい線がきつくなってきた風俗嬢の友人たちは既婚男性から個別にお金を引き出せるアプリを歓迎しているようだし、面倒な男が嫌いで意外に性欲の強いキャリア女性の友人は既婚男性のアレをああして満足しているようだし、イマイチ自宅に居場所のない男性はそんな女たちにアレをああされて満足しているようだし、AVでは相変わらず美熟女の人妻ものは鉄板の検索数を誇る。その様子は割と最大多数の最大幸福に近いような気もする。しかし最大多数の最大幸福を実現しようとすると、どこかの歪みでできた穴に大量の汚水が流れ出し、たまたま穴の下にいるやつが泥水ガブガブ飲みながら耐えている、というのはあらゆる社会に言えることでもある。

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新刊紹介

鈴木涼美

すずき・すずみ●1983年東京都生まれ。作家、社会学者。慶應義塾大学環境情報学部を卒業後、東京大学大学院学際情報学府の修士課程修了。大学在学中にキャバクラ嬢として働くなど多彩な経験ののち、卒業後は2009年から日本経済新聞社に勤め、記者となるが、2014年に自主退職。女性、恋愛、世相に関するエッセイやコラムを多数執筆。
近著に『女がそんなことで喜ぶと思うなよ 愚男愚女愛憎世間今昔絵巻』など
公式Twitter @Suzumixxx

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