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ニッポンの不倫男〜罪悪感がないにもほどがある権利主張の話

ニッポンの不倫男〜罪悪感がないにもほどがある権利主張の話

 ついでに言うと、不倫にてしばし日常から解き放たれ、かりそめの自由と夢を味わおうとしている男は、ちょこちょこセックスで間違う。セックスの趣味は千差万別だが、男には日常的にそこそこ満足できるセックスの他に、いつか一度はやってみたいと思っているプレイがあって、それは当然相手の女にリクエストするのを躊躇ためらうほど馬鹿馬鹿しいか、汚さや痛さを伴うか、恥ずかしさの極みみたいな姿を晒すことになるか、そんなものが多い。 
 セックスは共同作業であるからして、女だって自分が満足したいと同時に相手に満足してほしいと思っている、という建前もあるし、相手がものすごい興奮状態にあればこちらの女としての自尊心が満足するという本音もある。

セックスの夢は寝てから見てほしい
セックスの夢は寝てから見てほしい

 しかし、男の夢想するそんな夢のセックスは女からすると「は?」とか「何が楽しいの?」とか「まじか」とか思うようなものばかりなので、基本的には口で交互にする時のようにベッドで完結するトレードではなく、何かしら別のトレードが成り立つ場合のみ受け入れられるものである。つまり、簡単にその分の金額をその日にもらう(要は風俗)か、その分の金額に余りある未来の給与明細を預けられる(要は結婚)かのどちらかだ。なのに男は、未来を約束している妻に頼みづらいことを風俗嬢でも妻でもない方の女に求めてきて、うっかり受け入れられると、自分は日常も非日常も充実した立派な男だ、と勘違いするのである。 

 私の聞いた不倫男のお願いセックスの中で一番笑えたのは、「英語で喘いで、アイムカミング!って言って」というもので、一番笑えないのは、「ギリギリまでおしっこ我慢して、ベランダでパンスト穿いたまま漏らして」なのだけど、どっちにしろこちらからすれば「は?」でもあるし「何が楽しいの?」でもあるし「まじか」でもある。何故なら既婚男にとっては非日常へのトリップであるその不倫セックスは、都会の片隅の不倫中の独身女にとっては非常に平坦な日常に組み込まれた1コマであるからだ。当然、ベランダ放尿プレイで患った膀胱炎を抱えて明日からも荒々しい日常は続く。

 手を出す女全員に同等の生活保障と子供とそこそこの遺産を残せるほどの財力がある場合を除いて、たまたま利害が一致した女が見つかって自宅に性を持ち込まずに済むことになった男がその非日常によってエクストラオーディナリーな男になれる可能性など微塵もないので、寛容さと良識と心苦しさを持って女体を味わう気がないのなら、自宅で未来を約束する女か、決められた時給を約束する女に絞って、かりそめのビッグマン気分を味わっていただきたい。

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鈴木涼美

すずき・すずみ●1983年東京都生まれ。作家、社会学者。慶應義塾大学環境情報学部を卒業後、東京大学大学院学際情報学府の修士課程修了。大学在学中にキャバクラ嬢として働くなど多彩な経験ののち、卒業後は2009年から日本経済新聞社に勤め、記者となるが、2014年に自主退職。女性、恋愛、世相に関するエッセイやコラムを多数執筆。
近著に『女がそんなことで喜ぶと思うなよ 愚男愚女愛憎世間今昔絵巻』など
公式Twitter @Suzumixxx

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