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聞かない女〜男への平和的質問の手法なんてある? の話

聞かない女〜男への平和的質問の手法なんてある? の話

 昨年の夏、私が同年代で最も尊敬する(仕事っぷりだけ)女友達の一人が、クエスチョンの残る朝を迎え続けて半年、そういったブービーカエル核兵器卵みたいな爆発を起こした。

 新年会で男友達に紹介されるがままに番号交換した一コ下の男子から、春一番が吹くくらいまで猛烈なアピールがあり、ちょうど別れようと思っていた男を断ち切るキッカケになるかも、くらいの軽めの動機で一緒に観劇に出かけ、映画に出かけ、ちょっと友人も交えた食事会なんかにも一緒に参加し、いつのまにか彼の家のアイロンの位置まで知る仲に。

 本妻と愛人の使い分け機能がデフォルトでついてる男と違って基本的に不器用な女なので、その頃には前の男とはすっかり別れる手続きを済ませ、準備万端になっていたわりには、彼から言語化された申し入れはない。

「なんか毎週末、大抵土曜だけど、何かしらのお誘いがくるのよ」とは彼女の当時の言葉で、彼の彼女への好意を裏付けるには結構十分な事実でもある。
「で、彼の家にも泊まるし、うちに泊まったこともあるのよ」というのは彼が既婚者だったり同棲中だったりすることはなく、彼女に男がいないことも了解済みという説明である。
「ただ、付き合うとかは言われないのよ」というアルアルは当然ついてくる。
「でね、なんか彼の家にちっちゃいクレンジングとか化粧水の入ったポーチが2 つあるのよ。あと、この間なぜか洗濯機の横にコテがあったのよ」というところまでは、36年間培った良識によって飲み込まれ、騒ぎ立てられることもなかった。もちろん、そういった事実を許すほどのナントカ教の信仰心が強いとか、そういった事実の残酷さに気づかないほど馬鹿だとか、そういった事実を全て飲み込めるほどメンタルが強いとかいうわけではなく、ただただ、そういったことでギャーギャー騒ぐ女になどならないという意志と、良識という名のプライドによって。

 で、カエルの破裂までの時限爆弾は刻々と爆発までの時を刻んでいって、SNS関連のトラブルで、彼には彼女とまったく同じ立場の女がいることと、彼女にはそれを責める権利がないということを知った彼女は、ついにハイボール三杯と、「お互い明日が早いから今日は解散しようか」という彼の一言でブチギレ、恵比寿駅西口ロータリーで号泣しながら男に詰め寄るという黒歴史をまた積み上げたわけです。

 彼と出会った新年会からちょうど一年、私も含めた女4 人で行った正月のプーケットで彼女は「この歳で爆発まで半年もモヤモヤと引っ張った時間の無駄遣いは私が悪いよ」と、30代後半の女に向こう見ずな誘い方をした彼を責めるのにも飽きて反省の誓いを口にした。
「詰める女になりたくないけど、詰める女はこんな時間の無駄遣いはしないよね。見習おう」。

 で、そんな正月旅行から3ヶ月、私はこの原稿を書いている本日も昨日も実はちょうどたまたまそんな良識ブービーカエルな彼女と飲み歩いていたのでありますが、話題はいつの時代も変わらず、男の悪口とそんな男に心を擦り減らす自分の悪口でございました。

「なんか、向こうから次はいつ会える? 映画行かない? って誘ってくるのね」。
 彼女は昨日はサムギョプサルを、本日は唐揚げを食べながら言っていました。
「で、最初はうちに泊まりに来ててね、そういう関係になっても、どういう関係なのか特に向こうからは言われなくて。でもいきなりエッチする前とかに、付き合うの? とか聞くのも情緒がないじゃん。こないだ向こうの家にも初めて泊まったんだけど、大きい瓶の化粧水と新品の化粧水があってね」

※1「Love impact」(作詞:森浩美) ※2「First Love」(作詞:宇多田ヒカル)

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鈴木涼美

すずき・すずみ●1983年東京都生まれ。作家、社会学者。慶應義塾大学環境情報学部を卒業後、東京大学大学院学際情報学府の修士課程修了。大学在学中にキャバクラ嬢として働くなど多彩な経験ののち、卒業後は2009年から日本経済新聞社に勤め、記者となるが、2014年に自主退職。女性、恋愛、世相に関するエッセイやコラムを多数執筆。
近著に『女がそんなことで喜ぶと思うなよ 愚男愚女愛憎世間今昔絵巻』など
公式Twitter @Suzumixxx

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