2021.8.22
ザ・ノース・フェイス、パタゴニア…アウトドアスタイルはなぜカッコいいのか。そのルーツは「ヒッピー」にあり
本書は、「smart」元編集長の佐藤誠二朗さんが、モッズ、ヒッピー、ノームコアなど、ストリートスタイルの成り立ちや変遷を詳細に解説した1冊です。
このロングヒット重版を記念して、短期連載特集「なぜそれはカッコいいのか〜『ストリート・トラッド』でひも解くスタイルの原点」をお届けします。
ビッグシルエット、アウトドア、ドクターマーチンといった、今また多くの人々に支持されるファッションの源流となっているストリートスタイルについて、書籍『ストリート・トラッド〜メンズファッションは温故知新』から抜粋して解説。著者・佐藤さんの書き下ろしコメントとともに紹介します。
全3回の特別企画です!
2回目の今回、原点を探るのは、近年トレンドが継続中のアウトドアスタイル。
ザ・ノース・フェイス、パダゴニア、グレゴリーなど、人気アウトドアブランドのルーツが、実は、1960年代に広まったカルチャー「ヒッピー」にあることを知っていましたか?
●第1回 ビッグシルエットの原点「ズーティーズ」
*書籍『ストリート・トラッド 〜メンズファッションは温故知新』から一部抜粋・再編集してお届けします。
ビートからヒッピーへ
アメリカ西海岸では1960年代の中頃、東海岸からはじまったビート思想の洗礼を受け、フランスの実存主義とイギリスの反核運動にも刺激を受けたビートジェネレーションが、ヒッピーへと発展していく。
ヒッピーとは、HAPPY(幸福)、HIPPED(熱中)、HIP(先端的)、HIPSTER(感覚が鋭敏な人)などの言葉が入り交じった造語。サンフランシスコのヘイト・アシュベリー地区、あるいはロサンゼルス郊外のローレル・キャニオンなどで共同生活をはじめた、美術系の学生たちから広まったカルチャーである。
長く続いていた経済成長に陰りが見えはじめていた当時のアメリカは、長期化・泥沼化し枯葉剤が大量散布されていたベトナム戦争の惨状、資本主義と社会主義の対立からキューバ危機まで発展した東西冷戦の深刻化、世直しへの期待が託されていたリベラル派の若き大統領ジョン・F・ケネディの暗殺、がんをはじめとする病気の原因となる化学薬品DDTを使った殺虫剤の問題、自動車排気ガスや工業廃棄物などによる環境破壊問題などが重なり、若者の間ではますます厭世的な気分が広がっていた。
急激に反体制へと傾いた若者は、会社や大学を次々とドロップアウトしてヒッピーとなり、反戦・反核運動と、マーティン・ルーサー・キング牧師やマルコムXを中心にして巻き起こっていた人種差別反対(公民権)運動を支援し、盛り上げていくことになる。
同時期のフランスではやがて五月革命に至る学生運動がはじまっていたし、日本でも安保闘争から発展した全共闘運動が起こっていて、世界的規模で若者が立ち上がった時代でもあった。ここをターニングポイントとし、若者文化はカウンターカルチャー(対抗文化)とも呼ばれるようになる。
ヒッピーは、伝統や制度など社会の既成価値に縛られた生活を否定することを最大の信条とした。そして、文明が発達する以前の自然へ回帰し、半野宿で自給自足をする野性的な生活をも提唱するようになる。人間の本来あるべき姿として、自然、愛、平和、自由、音楽、そしてセックスを愛していると主張したヒッピーは、アメリカ全土に理想的な暮らしをするための共同体基地―コミューンをつくり上げていく。そんな彼らは、みずからの理想を端的に表す、〝ラブ&ピース〞という標語を見つける。