よみタイ

堀江ワナビー男〜いいからお前は会議に出ろの話
8月5日に、鈴木涼美さんの新刊『非・絶滅男女図鑑 男はホントに話を聞かないし、女も頑固に地図を読まない』が発売されました。 「よみタイ」でも大好評だった連載コラム、「○○○な女 オンナはそれを我慢している」「×××な男 酒と泪とオトコと美学」から厳選された30人の男女の話が1冊に! 令和を生き抜く現代男女の生態を、いまや各メディアで引っ張りだこの涼美さんが独(毒?)自の視点で分析します。 この刊行を記念し、本書の中から著者みずからが「特に思い入れが深い!」と厳選した各篇を、その理由と書籍未収録の画像(涼美さん自撮り!)とともに特別掲載。 毎週1篇ずつ、全6回の特別企画です!

堀江ワナビー男〜いいからお前は会議に出ろの話

無敵類ハッテン目ガラパゴス科
【堀江ワナビー男】
分類詳細:ホリエモン属猿マネ種
生息環境:スマホの世界が俺の場所
特徴:今を輝くあの人の言葉多用

@鈴木涼美
キャッチーで偉そうな態度に憧れても、それは何のアンチテーゼにもなってない上に、自分の言葉を失ってるとしたら、もはや惨劇……

 私はアムラー世代で、元来の夢見がちな性格も相まって、安室ちゃんが結婚会見をした次の月にはバーバリーのチェックを模したプリーツスカートをSUZUTANで3000円くらいで買って、ダイエーの黒タートルと唯一持っていたストレッチブーツを合わせて恥ずかしげもなく街を闊歩し、年が明ける前にはシャギーヘアを真似てひたすら伸ばしていた髪をバッサリ前下がりのショートカットに切って、本人的には安室ちゃん、客観的に見ると山田花子、よく言ってもせいぜい有森裕子みたいな髪型で中学に通っていた。ので、人が自分とポテンシャルの違うものを真似た時に起きるのは、奇跡ではなく惨劇だということを、身を以て知っている。

 とはいえ人は何度だって夢を見る生き物なので、個人的アムラーブームが去った後も、森本容子や中根麗子など、私とは強調すべきボディ・パーツから似合う色から顔面偏差値から随分と違うものを真似ては何か違うものに近づき、次はスカーレット・ヨハンソンやジェシカ・アルバなど、もはや人種まで違うものを追いかけては無駄に散財し、本来的に自分にはどういったスタイルが似合うのかを学ぶ機会をことごとく逃し、資生堂マキアージュが4人のモデルカラーとともに発売された暁には篠原涼子カラーを買い揃え、今でも「寝る時はどんな格好してるの?」と聞かれれば「シャネルの5番よ〜」と答えてみたくてしょうがない。

 しかし森本容子プロデュースブランドのデニムを穿くと20センチ歩幅でしか歩けなかったし、スカーレット・ヨハンソンのメイクを真似ると何故かすごくタイ人に間違えられたし、篠原涼子カラーは篠原涼子と同じ唇の色には近づくものの篠原涼子的な顔に作り変えられるわけでもなければ、37歳の文筆業の女は寝る時の格好を聞かれるチャンスにはあまり恵まれないので、「いつかは私も」はとっくに「どうせ私なんて」にすり替わっているし、生きててすみませんと思いながら生きてはいる。しかし別に私が篠原涼子的なカラーの口紅をつけて本人ちょっと篠原気分で周囲には篠原より夏川りみに似ているわ、と思われていても、そんなに誰も傷つけていないので可愛いものではある。

篠原涼子カラーの後、栗山千明カラーも買い揃えた
篠原涼子カラーの後、栗山千明カラーも買い揃えた

 先日、私としてはちょっとバッファロー’66の時のクリスティーナ・リッチを意識したワンピースでいそいそと出かけた女子3人、男子3人の飲み会で、私以上の惨劇を起こしている男に出くわし、2週間経った今も同席した女友達一人と共に彼について批判的なレディキュールを続けている。彼はとあるエリートな金融系の会社員で、先日香港の駐在から戻ってきたばかり、来月に30歳になる、というご経歴。同期二人を連れて、結婚のふた文字に目が眩む私たち30代後半の知識と経験だけは無駄にあるけど愛嬌と謙虚さは最初からありません、という女性三人の前に現れた。

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新刊紹介

鈴木涼美

すずき・すずみ●1983年東京都生まれ。作家、社会学者。慶應義塾大学環境情報学部を卒業後、東京大学大学院学際情報学府の修士課程修了。大学在学中にキャバクラ嬢として働くなど多彩な経験ののち、卒業後は2009年から日本経済新聞社に勤め、記者となるが、2014年に自主退職。女性、恋愛、世相に関するエッセイやコラムを多数執筆。
近著に『女がそんなことで喜ぶと思うなよ 愚男愚女愛憎世間今昔絵巻』など
公式Twitter @Suzumixxx

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