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「一生お酒をやめ続けること」はできるのか? アルコール依存症・回復者インタビュー

「アルコール依存症」に完治はない

 断酒歴も10年になり、Kさんは今ではミーティングに毎日は行っていないものの、新しいメンバーのサポートや趣味のバンド活動など、AAで学んだことを社会に返していくことを目指して積極的に活動しています。先ゆく仲間として、お酒をやめるためのアドバイスはありますか、という質問に対して、Kさんは慎重に言葉を選びながら、アルコール依存症が「慢性疾患で進行性の病」であること、酒をやめ続けることでしか、回復は叶わないということを話してくれました。

「僕は、アルコール依存症の一番嫌なところって、見た目じゃわからないところだと思うんです。もちろん、飲んでる頃の、一日中酒が抜けずにふらふらしている状態のときは、誰が見たってわかりますよね。でも、飲んでいないときには、誰にも僕たちが病気だってことはわからない。下手したら、本人も忘れちゃう。もう俺は病気じゃない、って思えてしまうんです。
 AAでは、アルコール依存症は片足が使えない状態と同じだ、って話をします。片足が使えなければ、杖がないと歩いて行くことはできませんよね。でも依存症は見た目じゃわからないから、ちょっと酒をやめて回復したら、杖なしで歩いて行こうとして、すぐに転んで(再飲酒して)しまう。その杖にあたる存在が、AAだったり断酒会だったりするんですけど。
 僕は断酒して10年経ちましたが、これから先、一生酒を飲まなかったとしても、アルコール依存症者です。そのことを忘れちゃいけないと思っています。
 この10年、たくさんのアルコール依存症の人を見てきました。例えば100人新しいAAメンバーが来ても、1年後に残るのは3人くらいです。それくらい、ほとんどの人が続けられないですね。続けられたと思ってても、ふっと再飲酒して亡くなられたり。一番多いのが、飲んで転倒して頭を打って亡くなるケース。あとは自殺もあります。昨日まで一緒に冗談言って笑ってたのに……っていうことが何度もありました。そのたびに、怖くて仕方ないです。自分もいつそうなるのか、って思う。
 最近は、『この人はお酒の問題抱えてそうだな』とかぱっと見でわかるようになってきました。だからこそ、なんか先輩風を吹かしてしまいそうになるのが自分でも嫌なんですよね……。そういう悩みを、断酒歴20年の人に相談したら、『10年目くらいって、そういう感じになるよね〜』って言われました。10年くらいで何言ってんだ、俺って(笑)。だからこれからもずっと、生きている限り回復の途上なんです。
 アドバイスなんてことは偉そうにできないですが、断酒会でもAAでもいいから、『酒をやめようと思ってる』って、一度話をしに行ってみてください。必ず誰かがサポートしてくれます。僕がそうだったように」

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新刊紹介

斉藤章佳

さいとう・あきよし
精神保健福祉士・社会福祉士。大森榎本クリニック精神保健福祉部長。
1979年生まれ。大学卒業後、アジア最大規模といわれる依存症施設である榎本クリニックにソーシャルワーカーとして、アルコール依存症を中心にギャンブル、薬物、摂食障害、性犯罪、児童虐待、DV、クレプトマニアなどあらゆるアディクション問題に携わる。その後、2016年から現職。専門は加害者臨床で「性犯罪者の地域トリートメント」に関する実践、研究、啓発活動を行っている。また、小中学校での薬物乱用防止教室、大学や専門学校では早期の依存症教育にも積極的に取り組んでおり、全国での講演も含めその活動は幅広く、マスコミでもたびたび取り上げられている。著書に『性依存症の治療』『性依存症のリアル』『男が痴漢になる理由』『万引き依存症』『「小児性愛」という病——それは、愛ではない』がある。

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