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あなたの飲み方、大丈夫?
安く、飲みやすく、簡単に酔える、アルコール度数9%以上の「ストロング系チューハイ」の登場によって、お酒の問題を抱える人が増えています。

精神保健福祉士・社会福祉士である斉藤章佳が、酒飲みにやさしい国・日本のアルコール問題をさまざまな視点から考える『しくじらない飲み方 酒に逃げずに生きるには』(集英社)。
書籍の内容を一部変更し、かつてアルコール依存症の診断を受け、現在断酒歴10年の回復者・Kさんのインタビューを前後編でご紹介します。
後編では、「お酒をやめ続ける」ことでしか回復できない、アルコール依存症という病気の難しさが明らかに。

★インタビュー前編はこちら

「一生お酒をやめ続けること」はできるのか? アルコール依存症・回復者インタビュー

写真:PIXTA
写真:PIXTA

酒の匂いで「飲みたい、飲みたい」

 50歳を目前にしてアルコール依存症の診断を受けたKさんは、自助グループAA(アルコホーリクス・アノニマス)の回復ブログラムを順調にこなし、職業訓練校に通い、ホテルやレストランで派遣スタッフとして働き始めました。
 あるとき、ホテルの宴会でお酒の提供をする機会があったそうです。その時点で3年近く断酒していたKさんですが、ふと「どんな匂いがするんだろう」と手元のグラスに鼻を近づけたとたん、それは襲ってきました。

「ふわぁ〜って、ものすごくいい匂いが……鼻から突き抜けるように、脳のどこかをはっきり刺激するんです。ああ、飲みたい、飲みたい飲みたい……って。『これはまずい』と、仕事中でしたけどすぐにその場を離れました。それ以来宴会の仕事は受けていません。結婚式とかで、大きな日本酒の樽を割ったりするじゃないですか、あのお酒を片付けたり、飲み残しを大量にバケツに捨てていったり、ホテルの宴会の仕事はお酒の近くにいなきゃいけないから危険でしたね」

 再飲酒の誘惑を前に、自分でその場を離れる判断ができたKさん。断酒後3年ぐらいまでは、あらゆることが再発のきっかけになるため、お酒のある場所を避けるなど、気をつけて過ごさなければいけないそうです。

「再飲酒しちゃう人の理由で一番多いのが、キレちゃったとき。会社でうまくいかないことがあったとか、家族と口論になったとか。むしゃくしゃすること、怒りがたまるようなことがあると、危ないです。
 長年しらふで過ごしていると、そういう危険な感じから自分で距離を置けるようになりました。今は、雲の上から自分を見ているような感じって言うのかなあ……『あ、今自分怒ってるな』とわかるから、その場を離れるとか、回避行動が取れる。お酒を見たら、おいしそうだな、飲みたいなとは思うんですよ。でも、飲まなくてもいいやって思えるんです。
 飲みに誘われたり、楽しそうに飲んでる人を見たりすると、もう自分は一生飲めないんだ、って寂しくはなりましたよね。そうしているうちに、だんだん誘われなくなってくるし。
 今では、必要ならお酒の場にも出ていくようにしています。その場にいても飲まずにいられる、っていうことが本当に酒をやめたってことですから」

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斉藤章佳

さいとう・あきよし
精神保健福祉士・社会福祉士。大森榎本クリニック精神保健福祉部長。
1979年生まれ。大学卒業後、アジア最大規模といわれる依存症施設である榎本クリニックにソーシャルワーカーとして、アルコール依存症を中心にギャンブル、薬物、摂食障害、性犯罪、児童虐待、DV、クレプトマニアなどあらゆるアディクション問題に携わる。その後、2016年から現職。専門は加害者臨床で「性犯罪者の地域トリートメント」に関する実践、研究、啓発活動を行っている。また、小中学校での薬物乱用防止教室、大学や専門学校では早期の依存症教育にも積極的に取り組んでおり、全国での講演も含めその活動は幅広く、マスコミでもたびたび取り上げられている。著書に『性依存症の治療』『性依存症のリアル』『男が痴漢になる理由』『万引き依存症』『「小児性愛」という病——それは、愛ではない』がある。

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