2021.7.25
貞子を生んだ鈴木光司氏が20年封印していた無人島のビデオに映っていたもの
問題は、そのような修繕が「いつ為されたか」である。
1970年以前であったなら、他の木造家屋と同様に、倒壊の憂き目に遭っていたはずである。したがって、ヒトの手によって修繕されたのは1970年以降ということになりそうだ。しかもごく最近とみるべきである。
疑問をキープしたまま拡大画像を等倍に戻し、右手にある山の斜面へと焦点をずらした。そこに鎮座まします、ピサの斜塔のように傾いた巨大な石灯籠に、好奇心をくすぐられたからだ。
巨大といっても、写真では縮尺がわからず、祠と比較して不釣り合いに大きいというだけである。実際に目の当たりにすれば、思いのほか小さいのかもしれない。
石灯籠には妙な存在感があった。今にも祠に倒れかからんばかりに身を傾け、岩の台座で踏ん張る姿が、滑稽でもある。
眺めているうち、目は徐々に、石灯籠の背後にある山の斜面へと吸い寄せられていった。
なだらかな斜面に太い樹木はなく、ところどころに低木の茂みを残しつつ、湿った草に覆われて鈍い緑色を放っている。
その緑色の斜面の中央には、またしても、他と色合いを異にする長方形のスペースがあり、大地に施された「継ぎ接ぎ」のように見えてくる。
緑色の草とコントラストを成す茶褐色の部分を拡大してみると、長方形の形に土が掘り起こされていて、その部分だけ不自然に盛り上がっている。山側の端には、細長い板切れが立てられているのがわかった。板の表面には文字らしき模様が描かれているのだが、墨を流したように滲んで文字を読み取ることができない。
……戒名ではないか。
そんな発想が浮かぶや、細長い板切れにぴったりの名称を思いついた。
……卒塔婆。
となると、褐色の長方形は墓であり、土の下には死体が埋まっている……。
死んだ人間が自ら土の下に潜り込んで卒塔婆を立てるはずがなく、別に、埋めた人間がいることになる。
……どこにいるのか?
モニターに顔を近づけて人の痕跡を探すうち、今にも観音開きの板戸がバンと開き、黒い影が飛び出してきそうな気配が前方から押し寄せ、思わず映像をストップさせていた。
このあとの展開は見なくても覚えている。獣道を登った先から鹿が現れ、「誰か、いる」という雰囲気の原因がわかったとばかり、われわれは胸を撫で下ろしたのだ。
しかし、映像を見終わった今は、「誰か、いる」という異様な雰囲気の正体は鹿ではなかったと、確信を持って言える。
現実に、「誰か、いた」のだ。
貞子よりも恐ろしい…海をめぐる18話
ホラー界に金字塔を打ち立てた鈴木光司さんが、実話をもとに語る海への畏怖と恐怖に彩られた18のエピソード。
世界を船で渡った男だからこそ知る、海の底知れぬ魅力とそこに秘められた無限の恐怖とは……。
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