2020.4.17
なぜ病気になるまで飲んでしまうのか? アルコール依存症・回復者インタビュー
飲まなきゃ生きていけない
アルコールに限らず、依存症の治療の過程で、「スリップ」はつきものです。依存症とは再発を繰り返しながら回復していく病気です。一見順調に回復に向かっていたかに見えたKさんも、デイケアに通い始めて4カ月がたった頃、スリップしてしまいます。治療が進み、だんだん焦る気持ちが生まれてきたことが原因でした。
「仕事もせず、昼間はデイケア、夜はAAに通う生活です。社会復帰に対するプレッシャーとかが、自分の中で高まってきて、周りに対してイライラしていました。『手っ取り早く、どうすればうまくいくのか教えてくれよ!』っていう気持ちでした。うまくいくっていうのは、解決方法を教えてほしいってこと。突き詰めれば、どうすれば酒なし で、この世の中をわたっていけるのか、ってこと」
アルコール依存症者や治療関係者から絶大な支持を受ける、漫画家・吾妻ひでおさんの『失踪日記2 アル中病棟』(イースト・プレス 2013)の中に、主人公の男性が「酒無しでこの辛い現実にどうやって耐えていくんだ?」と独白するシーンがあります。この台詞は、アルコール依存症者の心の叫びと言っても過言ではないでしょう。真面目に治療に向き合っていたKさんでさえ、「酒なしで生きていくことなんてできない」というのが本心だったのです。
「僕が飲んでた頃に、妻に言われて一番嫌だった言葉が『なんでそんなになるまで飲むの?』。なんでと訊かれるから、こっちもいろいろ理由を並べるんです。会社でこういうことがあった、あいつにこう言われた……とかって。でも『普通はそんなことで、そんなに飲まないよ』って返される。自分で言いながら、なんて説得力ないんだ、って、だんだん自分自身に腹が立ってきて。それでいつも最後は『しらふじゃやってらんないんだよ!』って捨て台詞吐いてました。
でも、やけくそで言った言葉だけど、これが真実だったんですね。僕は、酒の力を借りなければ、現実と向き合う勇気がなかった。飲まなきゃ生きていけないんだ、って、自分で白状してたんですよ」
スリップしたことをきっかけに、前述のAAでの「棚卸し」のステップに取り組み、そこから劇的に回復に向かっていったそうです。
順調に断酒を継続していたKさんを、さらなる再飲酒の誘惑が襲います。断酒中、どんなことに気を付けるべきなのか、飲みたい気持ちにどう対処するべきなのか……回復への長い道のりが語られる後編は、4/24(金)更新予定です。
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