2021.5.16
コロナが明けたらぜひ行きたい! 元飼育員が明かす「動物園」の魅力を120%満喫する方法
当たり前を疑うトレーニングの場に
――動物園を訪れた際のおすすめの回り方はありますか。
時間が許すのであれば、一日中動物園にいて、朝と夜、時間によって同じ動物がどう違うのか観察してみてください。動物は夜行性が昼行性のどちらかと思われている方も多いですが、薄明薄暮性といって、オオカミなど、明け方と夕方にもっとも活動的になる動物も多いです。そう考えると、開園から閉園までたっぷり楽しめる! と思うのは私だけでしょうか(笑)。
あるいは違う季節に再訪して違いを比べてみるのも面白いと思います。気温や恋の季節によっても変化があるはずです。
先ほども言いましたが、美術館などとの最大の違いは、実際に生きている動物がいること。来園者に対して何か行動を起こすこともありえます。
人間が全く同じ動きや表情を繰り返すことはないように、午前と午後、今日と明日では、動物が見せる表情は違いますから、まずはそれを体感してほしいです。
あとは、飼育員による動物の解説イベントがあったり、解説ボランティアが常駐したりしている園があります。都立四園(上野動物園、多摩動物公園、葛西臨海水族園、井の頭自然文化園)などは解説員の歴史も長く、有名です。
こうした解説員のいる施設を訪れた際には、ぜひ解説を聞いて、積極的に質問してください。
子供の発想や、いわゆる素人のみなさんの素朴な質問に、私のような解説をしている側がハッとして勉強になることも多いものです。
そうした人と人とのコミュニケーションがあってこそ、よりより飼育や展示活動につながっていきます。
さらに誤解を恐れずに言えば、解説員による解説や質問に対する回答を聞いたら、「本当かな」と、まず疑ってみることです。科学は疑うことから始まりますし、何よりも、実際に動物の生態など生物科学の分野はまだまだ明らかになっていないことも多く、今の常識が将来の非常識となっている可能性も十分にあるからです。
動物園をはじめとする博物館を、「当たり前を疑う」トレーニングの場として使っていただくのもいいかもしれません。
――今はコロナ禍ということもあり、休業中の施設も多く、気軽に動物園などに出かけることが難しくなっています。
そうですね。私の仕事も、中止や変更になった動物関連の講義やイベントがたくさんあります。
ただ、以前連載でも書いたのですが、もともと動物園は、動物由来の感染症を防ぐために、人にも飼育動物にも厳しい検査や対策が設けられている場所なんです。
ですから、国や施設が定める感染対策のルールを守ることを大前提として、比較的安全に楽しむことができる場所ではないかとも思います。
もちろん、今の世界的な状況を考えると、できるだけ移動や他者との接触を控えて、感染防止に努めることが重要であることは言うまでもありません。
今は、図鑑やネットなどを通して動物の情報に触れて、コロナが落ち着いたら動物園で実物を見て、頭で考えていたものとどう違うのか、そのギャップを楽しみにするのも良いのではないでしょうか。
――動物園に興味がない、好きではないなど、ネガティブな印象を持っている人に伝えたいことはありますか。
「動物は好きだけど、動物園は好きではない」「人間の都合で檻に閉じ込められてかわいそう」といった声を耳にすることはあります。
ただ、動物園の役割の一つには「種の保存」があり、今や動物園でしか生息・繁殖ができない動物がいることも事実です。また、海外には檻や柵のない施設が多くあり、日本でもそうした展示方式が増えてきています。
そして、動物園の多くは、公営です。皆さんの税金によって運営され、国内の動物だけでなく、日本にはいなかった動物も導入され、保全のために飼育や繁殖活動が行われています。そこから、地球環境、生態系への理解へとつながる知見が得られていくことも少なくありません。
そういったことをどう思うか、それに良し悪しはなく、様々な考えがあって良いと私は思っています。大切なのは、それぞれが自分で考えて、意見を交わすことではないでしょうか。
そのためにも、実際に動物園を訪れて、皆さんご自身の目や耳で、動物をじっくりと観察したり、そこで働いている人とコミュニケーションをとったりしていただきたいな、と思います。
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ぶっちーさん、ありがとうございました! 安心して全国様々な動物園に出かけられる日が待ち遠しいですね。
今回インタビューに応じてくださった、ぶっちーこと、大渕希郷さんの連載「動物ふしぎ観察記」では、身近な動物の意外な生態や観察ポイント、動物園職員時代の珍事件などが紹介されています。
ぜひこちらもお読みください! 連載一覧はこちら。