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都内の落とし物は年間280万件超! 人はなぜ落とし物をするのか? “失敗のプロ”が教える心理学的原因と対策

スキマ時間の活用に潜むリスク

――心のゆとりを作るために必要なことはなんでしょうか。

時間のゆとりを持つことです。タイムプレッシャーがあると心の余裕がなくなって、他の情報を受け付けなくなってしまいますから。
時間に追われる忙しい日々を過ごされている方が多いと思いますが、朝10分早く起きるだけでもゆとりが作り出せるはずです。

――でも朝早く起きても、結局スマホでネットサーフィンしていたら、ゆとりにはならないわけですよね?

そう! 今、みんなそうやってちょっとした空き時間に何かやろうと必死になっていますよね。あらゆる時間を効率的で生産性のあるものにしなければならないという考えに慣れ親しんでしまっている。

――確かに、電車の中でスマホも読書もせずぼーっとしているのは罪悪感があります。時間の貧乏性というか……。

でしょう? 時間がもったいない、時間を有効に使おうという思いに支配されすぎちゃって、プレッシャーからミスが生まれやすいライフスタイルになってしまっているのかもしれません。
確かに時間はもったいないかもしれないけれど、本当の効率性や生産性を考えたら、絶対にゆとりが必要なんです。
電車の中でスマホを見ていてもいいですが、降りる1、2駅前にはスマホをしまって、持ち物をまとめ、下りる支度をしてから今日の予定を考えるくらいのゆとりは持つとか。

少し話は逸れますが、昔の国鉄(現在のJR)では、赤信号の見落としや脱線をしてしまったら「運転手はまず一服しろ」と言われていました。今の時代、もし脱線させた運転手がタバコなんて吸っているのが見つかったら大炎上ものだと思いますが、実はこれは心理学的には正解なんです。
焦りや不安といったゆとりのなさから引き起こされるさらなる失敗を減らすためには、無理にでも休憩して、何もしない時間を持つことが必要だからです。

――なるほど! では財布を落としたことに気づいても、慌てずにまずコーヒー1杯飲むくらいの方が、失敗の悪循環を防げる、と。

まあ、先にクレジットカードを止めることくらいはした方がいいとは思いますが(笑)。時間と心のゆとりを作ることはそれだけ大事ということです。

――でも、例えば仕事とか、今のゆとりを作るために、作業を先送りにしたら、未来の自分は余計にゆとりがなくなる……なんてことになりませんか?

うーん、それは難しい問題ですね。ただ、先送りにして、そこでさらにゆとりがなくなるというということは、結局オーバーロード(負荷のかけ過ぎ)なので、上司などに相談の上、自分でも気をつけて、仕事量や進め方の調整をすべきだと思います。
とはいえ、赤ちゃんの世話など、現実の生活の中ではスケジュールのコントロールが効かないことも多いですよね。そういう私も締め切りに終われる日々ですし……。
もし、なかなか時間にゆとりが持てないとしても、大切なのは、自分に意識を向けて、オーバーロードであることを認識することです。自分は大きなリスクを抱えている、無理をしているということに気づくだけでも、少し心にゆとりが生まれて、人に助けを求めたり、意識的に休憩を取ったり、後々の大きな失敗につながりうるリスクを回避することができるようになります。
とにかく、自分自身のことも周りの人のこともプレッシャーをかけず、あまりギスギスしないことです。意識的に時間と心の空きスペースを作っていただきたいな、と思います。

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芳賀繁

はが・しげる●株式会社社会安全研究所技術顧問、立教大学心理学名誉教授、博士(文学)。
1977年に京都大学大学院修士課程(心理学専攻)を修了して国鉄に就職。鉄道労働科学研究所、鉄道総合技術研究所で鉄道の安全に関わる心理学、人間工学の研究に携わる。2006年、立教大学現代心理学部心理学科教授などを経て2018年4月から現職。専門分野は産業心理学、交通心理学、人間工学。
主な著書に『うっかりミスはなぜ起きる ヒューマンエラーを乗り越えて』(中央労働災害防止協会)『あなたのその「忘れもの」コレで防げます』(NHK出版)などがある。

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