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せきしろさん新刊発売記念インタビュー。「余裕と心の声のボリュームのつまみをどこかに落としてきたのかもしません」

老眼鏡の落とし主はもうこの世にいないかもしれない

トレードマークのモヒカン姿からは、あまり心配性には見えないかもしれない著者。そのギャップも魅力!(撮影/「よみタイ」編集部)
トレードマークのモヒカン姿からは、あまり心配性には見えないかもしれない著者。そのギャップも魅力!(撮影/「よみタイ」編集部)

――これから絶対に落としたくない物ってありますか?

財布、スマホ、鍵……。あとは電車とかの切符ですね。切符は絶対に落としたくなくて、新幹線に乗っている時なんかはポケットを5分おきに確認します。でも確認して入れ直す時にまた落としたんじゃないかと気になっちゃって。

――すごく心配性なんですね。心配性だから他の人の落とし物も気になってしまうのでしょうか。

そうかもしれません。落ちている物が1万円でも漫画でも、もしかしたら落とした本人は実はたいして気にしていないのかもしれない。でも僕は「落ちているこの漫画が、子どもがお小遣いを貯めてやっと買ったものだったら……」と考えて、心配でたまらなくなってしまうんですよね。町の公共施設なんかにある落とし物箱に入っている老眼鏡を見たら、「もう亡くなったから取りに来れないのかな……」と悲しい気持ちになったり。

あとはエッセイにも書きましたが、買い物メモとか。僕もそうなんですけど、買い物メモというのは覚えられないから書いておくわけで。だからそのメモが落ちているということは、買い物ができなかったんじゃないかな……と。

――今回の『その落とし物は誰かの形見かもしれない』に登場する50の落とし物の中で、特に心配になったものはありますか?

それはもう全部ですね。実際に、連載の内容を振り返ってみると、落とし主を心配する記述が多かったので、単行本では似た表現にならないように、まとめ直しています。

――子どもの頃から心配性だった?

心配性でしたね。でも心配してないふりをしていました。“いくえみ男子”っぽくないから(笑)。

今も、仕事の打ち合わせとか取材とか、遅れるのが心配だから最寄りの駅にはたいてい早めに着いているんですけど、あえてちょっと時間を過ぎてから登場したちしてます。
早く来てるのがバレたくないから、例えば集合場所には地下鉄のA1の出口が一番近いのに、あえてA6から出て歩いて行ったり。少し遅れるくらいの方がカッコいいと思う世代なんです。

あと、飛行機も怖いですね。準備してチケット取ったり、行き先で待っている人がいたりするわけだから、ちゃんと遅れずに乗りたい。だから、国内線でも2時間前には空港に着いてます。空港までのバスも、交通渋滞などがあるので、念のため3本くらい前の羽田行きに乗ったりするから、けっこう早く着いちゃって。でも空港はいくらでも時間潰せるところがありますからね。

――今、心配なことはありますか?

外で食事をしている時にお金を持ってきてないんじゃないかと心配になりますね。だから食券形式のお店しか行きません(笑)。牛丼なら松屋じゃないと。吉野家で食べ終わった後、お金がないなんて考えただけで怖ろしい! 

最近はスマホでの電子決済もありますけど、あれはあれでうまく反応しなかったりバーコードが読み取れなかったりして、自分の後ろに列ができてしまうのが怖い。世の中怖いことばっかりですよ。

――せきしろさんにとって、心配につながる怖さとは具体的にどういうものでしょうか。

人に迷惑をかけてしまっている怖さもあるし、自分がスマートに、カッコよく見えていないという怖さもあるかもしれません。コピー機の後ろに人が並んでいたら、まだコピーが終わってなくてもすぐやめますね。

自分がこれだけいろいろ気にしてるから、他の人もちゃんとしてよ、と思っちゃうんですよね。
たとえば、会計前に5円玉と1円玉とか細かいお金を用意してから行くべきなのに、レジの前で探し出したり、会計が終わったのに財布をカバンに入れたりしてすぐに立ち去らなかったりする人がいると、ついつい早くしてよと思っちゃって。
でもそういうのって年を取って余裕がなくなったからなんですかね。ということはそれが僕が落としてしまったものかもしれませんね。昔ならその余裕、ありましたから。もはや老害ですよ。

近頃はすっかり徹夜もできなくなって、朝5時には目が覚めちゃうし。いつも早起きだったおじいちゃんの気持ちがよくわかるようになりました。寝ていられないんですよね。
独り言の声もデカくなっちゃって。なんか寒いなと思ったら、「さっむ!」と声に出てる。あとは「さてとっ!」とか。それも結構なボリュームで。だから「心の声のボリュームのつまみ」もどこかに落としてきたのかもしません。つまみがなくなっちゃったんで、言わなくていいことも無意識に口から出るようになっています。
……って、新刊のことじゃなく老化の話しかしてないけど、これで大丈夫でしょうか(笑)。

落とし物をめぐる、妄想エッセイ50選

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せきしろ

せきしろ●1970年北海道生まれ。主な著書に、映像化された『去年ルノアールで』や、映画化された『海辺の週刊大衆』、『1990年、何もないと思っていた私にハガキがあった』(共に双葉社)など。また、又吉直樹氏との共著『カキフライが無いなら来なかった』『まさかジープで来るとは』(幻冬舎)、西加奈子氏との共著『ダイオウイカは知らないでしょう』(マガジンハウス)も。
ツイッターhttps://twitter.com/sekishiro

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