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センバツ開催中! 智弁学園(奈良)、大切な人の遺骨を身につけホームランを打った昨年のリードオフマン

球春到来を告げる<春のセンバツ>が甲子園に帰ってきた――

3月19日、「第93回選抜高等学校野球大会」が開幕しました。
昨年の甲子園大会は、新型コロナウイルスの影響で、史上初の春夏連続中止に。
代わりにセンバツに出場予定だった32校が1試合限定で行う「2020年甲子園高校野球交流試合」が開催されました。

昨年、朝日放送テレビは「2020高校野球 僕らの夏」と題して、異例づくしの夏を過ごす球児たちを取材。
大会や試合どころか、部活動自体も自粛せざるを得ない緊急事態が続く中、
野球ひと筋に走り続けてきた球児たちは何を思い、いかにしてその苦しい日々を乗り越えたのか……?
『僕らの夏』制作スタッフが番組の取材を通して見えてきた各校のドキュメントを『消えた甲子園 2020高校野球 僕らの夏』という一冊にまとめました。


今回はその書籍の中から、今日の雨天中止により、明後日3月23日に順延になってしまいましたが、大会4日目、大阪桐蔭高校(近畿・大阪)との同地区対決で初戦を迎える智弁学園高校(近畿・奈良)の2020年のエピソードをお届けします。
春夏ともに甲子園が消えた昨年の選手たちの想いを、改めて知ってほしいです。


※書籍から一部抜粋・再編集しています。学年や役職は2020年の取材当時のものです。
(構成/よみタイ編集部)

智弁学園の三田がいとこと目指した甲子園

 智弁学園(奈良)の一番ショートの三田智也には、最後の夏に活躍を見せたい人がいる。
 1歳違いのいとこ、狩野颯太そうたくん。「いとこがいたからここまで来られたと思います」と三田は言う

「野球を始めたきっかけをつくってくれた人で、一緒にキャッチボールとか、練習してきて、一緒に甲子園のテレビを見て『ここに行きたいね』と言っていました」

 祖母の家で日が暮れるまでキャッチボールするのが日課。「いつか甲子園に」とふたりは夢を見てきた。しかし、病魔が颯太くんを襲う。

悪性軟部腫瘍あくせいなんぶしゅしょう 類上皮肉腫るいじょうひにくしゅ

 大好きな野球ができなくなり、入退院を繰り返すつらい日々。それでも颯太くんは、三田が野球をする姿を何よりも楽しみにしていた。
 颯太くんの母は言う。

「必ずネットで結果を見て教えてくれたりとか」

 颯太くんの父も言う。

「キャッキャ言って報告するんじゃないんですよ。スッと見せる。やっぱり智也の活躍を心の底から願っていたのは見ていてわかる」

三田(左)といとこの狩野颯太くん(右)。©️朝日放送テレビ
三田(左)といとこの狩野颯太くん(右)。©️朝日放送テレビ

 関西を代表する智弁学園の野球部員は地元の奈良をはじめ、兵庫、大阪、京都など近畿地区出身が多い。そのなかで、群馬出身の三田は目立っていた。

『僕らの夏』制作スタッフの山本真也は、二年生の夏に背番号13で甲子園の土を踏んだ三田のプロフィールが印象に残っていたと言う。

「群馬出身の子がなんで奈良まで来たんやろうと疑問に思いました。彼に『感謝を伝えたい人いる?』と聞いたら、いとこの話が出てきたんです」

 幼いころから一緒に野球をしていた1歳上のいとこは、三田にとって兄のような存在であり、野球のお手本だった。

「ずっとふたりは仲がよかったんですが、中学二年のときに颯太くんががんにかかっていることがわかって……三田くんには病名や症状を詳しくは知らされていなかったんですが、颯太くんは野球ができなくなってしまった」

 足にできた腫瘍のために、入退院を余儀なくされた。

「そのいとこのために、三田くんは甲子園に出ると決意したんです」

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