2021.12.19
「『共感』がもてはやされ過ぎている時代だからこそ観てほしい」。作家・爪切男さんが「野望」を感じたサブスク動画3選
年末年始は自宅で動画三昧! という方も多いのではないでしょうか。
そこで本特集では、エンタメをこよなく愛する「よみタイ」の執筆陣に、2021年にハマったサブスク動画を紹介していただきます。1年を締めくくる特別企画です!
前回は、タレントの川村エミコさんが、今年胸キュンした恋愛ドラマを紹介してくださいました。
第3弾にご登場いただくのは、ドラマ化もされた『死にたい夜にかぎって』などで知られる、作家の爪切男さん。「よみタイ」では、人気連載『クラスメイトの女子、全員好きでした』が今年4月に単行本化され、大きな話題を呼びました。
人生の悲哀を切なくもユーモラスな筆致で綴る爪さん。今回は、そんな爪さんが、「野望」を感じたドキュメンタリー3作を紹介してくださいます。
(文/爪切男 構成/「よみタイ」編集部)
汚いやり口が爽快『セガvs.任天堂 Console Wars』
新卒時の就職活動中、ある会社の最終役員面接にて、こんな質問をされた。
「あなたが関ヶ原の合戦に参加するのなら、家康の東軍と三成の西軍、どちらに付きますか? その理由も教えてください」
当時二十歳そこそこで生意気盛りだった私はこう答えた。
「西軍ですね。劣勢な方に付いて好き勝手暴れるのが自分の性に合っていますので。絶対的優位に立つ家康を焦らせてみたいです。私は子供の頃からゲームメーカーのSEGAが好きなんですが、もしSEGAがたとえ一瞬でも任天堂に勝ったら世界は変わると思うんです。まぁ、そんなことはありえないからこそ、余計にSEGAのことが好きで好きで仕方ないんですけども」
しかし、海の向こうのアメリカで、本当にそれを実現した人たちがいた。
1990年代当時のアメリカにおいて、家庭用ゲーム機市場のシェアを95%独占していた任天堂。その帝王に戦いを挑んだSEGAのイカれた野郎たちの激動の日々を記録したドキュメンタリー映画には、お涙頂戴の感動劇は皆無である。
ゲームの面白さだけで張り合っても絶対王者には勝てないと、ハッタリ、誇大広告、ネガキャン、どんな手を使ってでも任天堂を倒そうとするSEGAの汚いやり口が何とも痛快でクセになる。
そう、いつだって「新しい歴史」を作るのは、バカげた夢を持ったクレイジーな人たちなのだ。感動なんていらない。まずは野望を持つことから始めよう。
サーファーのことが苦手なのに好きになる『100フィートの波 / 100 FOOT WAVE』
人を職業で判断するのは非常に良くないことだとわかっているが、どうしても苦手な職業の人がいる。
それが「DJ」と「サーファー」だ。
DJに関しては、七年間同棲した彼女をDJに奪われた過去が大きく関係しているので、ほぼ私の逆恨みである。これに関しては申し訳ない。
さて、サーファーに至っては、苦手というよりも“わからない”と言った方が正しい。
波に乗ることの何が楽しいのか。なぜ危険を冒してまで高さ30mという巨大な波に挑もうとするのか。この作品を観ても、私にはサーファーたちの熱い想いを理解することができなかった。
それなのに、私はこの作品に登場するサーファーたちのことを大好きになってしまったのだ。
全く理解ができない人を好きになる。これはもう恋だ。こんなにも私の胸を苦しくさせやがって。私はやっぱりサーファーが苦手だ。
サーフィンに興味がない人ほど、この素晴らしい作品を観てほしい。自分の興味があるジャンルの作品ばかり観ていることは本当の娯楽ではないのだから。