2021.1.30
講談師・神田伯山さん特別コメント 『妻が口をきいてくれません』は「気づきの本」
すれ違う夫婦の姿をリアルに描き、SNSなどでも賛否両論渦巻く大反響を呼びました。
書き下ろしを加えて11月26日に発売された単行本は、たちまち大幅増刷!
そんな、大注目の夫婦コミックを、気鋭の講談師、6代目神田伯山さんに読んでいただきました。
講談界のみならず各メディアに引っ張りだこで、家庭では夫であり2歳児の父でもある神田伯山さんの感想とは……。
(構成/よみタイ編集部)
夫婦喧嘩中に出会って夢中に
私にとって2020年の2大コミックは『鬼滅の刃』と、この『妻が口をきいてくれません』でした。
そう断言できるほど、夢中になった作品です。「よみタイ」で隔週連載されていたときは、「次の展開はどうなるのだろう」とあれこれ考えながら、2週間後の更新を待ち遠しく思っていました。
作品を知ったのは、ネット検索中の偶然の出会いでした。
実はその時、妻とちょっとしたいざこざがあり、夫婦の間に険悪なムードが流れていたのです。
それで、スマホで「夫婦、関係、悪化」などの言葉を検索していたところ、この『妻が口をきいてくれません』の掲載ページがヒット。そのタイトルに思わず目がとまって、読み始めたというわけです。
そうしたら、これが面白くて刺さる、刺さる。
「何度も言ってるでしょ」と怒られたり、絵文字どころか「。」もない敬語のメール文に落ち込んだり、「自分のことか!」と思う場面が多々ありました。
メール文に句点がないと、「俺には『。』をつける価値もないのか」と思ってしまうんですよ……。
序盤の夫視点のパートは、妻が口をきかない理由がわからず夫が戸惑いを深める展開にミステリー要素もあり、どんどん引き込まれました。
そのうちカミさんにも作品を教えて一緒に読むようになったのですが、私がふと「なんでこの妻は口をきかないのだろうね」と言ったら「あなた分からないの? ヒントは書いてあるじゃない」とピシャリ。
そんな私の妻はこの作品を読んで
「妻が夫を無視するところから話は始まっているけれど、その前に妻のしんどさをずっと無視していたのは夫の方。日本の多くの家庭は家族に甘えすぎ」
だと言っていました。
なるほどその通りだと思います。
この夫の「保湿剤どこ?」とか「(カレーを食べるときに)スプーンがないよ」とか妻をイラつかせる言動は、一個一個はさりげなく小さなことなんだけれども、相手に甘えて依存していることの現れですよね。
私も2歳の子供がいるのでわかりますが、親になると生活も夫婦関係もガラリと変わります。変わらざるをえない。
でも男の方はなかなかそれに気づかずに、子供が生まれる前と同じような生活や関係性を続けようとしてしまう。
それが妻には負担となっているのですが、夫はそれを理解するどころか共感できていなくて、妻の心はどんどん離れていく……。
それをこの作品ではじわじわと明らかにしていて、見事な構成だと思います。