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絶対にマネしてはいけない! サハラ砂漠1000kmマラソンに挑む男が試みた壮絶な「人体実験」

サハラ砂漠に向けた〝北田的3大人体実験〞

 今回のレースでは様々な課題が考えられた。その中でも絶対に体感しておきたい、克服しておきたい3つの課題があった。
 そこで〝北田的3大人体実験〞と名づけたトレーニング実験をした。少し紹介しておくが、くれぐれもよい子、いや、よい大人も絶対に、絶対にまねだけはしないでほしい。それほどヤバい実験だ。

 まず最初の課題は〝暑さと熱中症〞。日中の気温が最高45℃になる砂漠で2週間以上ずっと走り続けなければならない。程度の違いはあれ、ほぼ間違いなく熱中症にはなるだろう。どこまでいくと本当に危険なのか? どう対処したらいいのか? 多少でも未然に防ぐ工夫はできるのか? 
〝北田的3大人体実験その1〞は、「僕は酷暑の中をどのくらい走ったら熱中症になるのか?」だ。

 レース3ヶ月前の8月。最高気温38℃になった猛暑日から炎天下で長時間走を行った。
 初日は11時間、2日目は10時間を走った。すると見事に軽度の熱中症となり、頭痛と脱力がやってきた。3日目もさらに10時間走る。すると食べ物がのどを通らなくなり栄養補給ができなくなった。気分が悪く水分しか摂れない。さらに思考判断が鈍り、家で会話をしても簡単な言葉がとっさに出なくなった。
 体のだるさは翌朝も回復しなかったため、4〜5日目は身の危険を感じて、それぞれ4時間と1時間に短縮した。そのおかげで体調は回復し、6日目は19時間。計6日間で55時間320キロの実験となった。
 結果、僕の体としてわかったこと。猛暑の中を走り続けるには、まずは体温上昇を防ぐ工夫だ。
 体への異常の指示をだす頭と頭へ血流を送る首元の日射熱を減らすために日除け付き帽子をかぶる。高温すぎると発汗からの熱放散が追いつかないため、こまめに体に水をかけ気化熱を促す。基本的なことだが、熱を防ぐ装備や水の使い方が大事になる。
 次に水分と栄養補給。脱水症を防ぐために「20分ごとに200ミリリットルほどの水分補給」や「適度な塩分と糖分も同時に摂取」など、一般的に言われている対策を基にするのだが、数時間で終わらない活動の中では水分補給をしすぎると食欲が落ちて固形物がのどを通らなくなる。その一線を見極めるのは非常に難しいため、ドリンクに混ぜて多くのエネルギーや栄養素を摂れる粉ミルクのような粉末の補給食を用意する。
 この2点が特に大切になるとわかった。 

 ふたつ目の課題は〝睡眠時間〞。
 ノンストップレースでは、休憩や睡眠時間中も競技時間が進む。つまり睡眠をとらなければ、また睡眠時間が少なければかなり有利になる。〝北田的3大人体実験その2〞は決まった。「僕はどのくらい眠らずに動き続けられるの?」だ。何時間眠らずに動くと意識が飛んだり、判断ミスが起こったりするのか。

 実験場所は、日本で一番酸素が薄く、眠くなる場所が最適だと考え、かつて高山病にもなった個人的な難敵、富士山を選んだ。
 富士山を舞台に48時間以上眠らずに行動してみることにしたのだ。スタートは静岡県富士市にあるふじのくに田子の浦みなと公園。太平洋の海抜0メートルから「富士山登山ルート3776」を登り始め、市街地を通りながら富士宮ルートの登り口まで38キロ、獲得標高は2400メートル。多くの富士登山者がスタートするここから山頂へ登る。
 この富士宮ルートこそ、2007年に挑戦した時、あえなく高山病でリタイアした道だった。以後約12年で多くの経験をしてきた僕は、自分の体調を冷静に判断し、深く呼吸をしながら着実に登り富士登頂を果たした。リベンジ達成だ! 
 少しの安心感は覚えたものの、もう富士登山のリベンジだけで満足する僕ではない。そのまま須走口5合目へ下りる。続けてそこから山頂に登り、吉田ルート5合目へ下りる。また山頂に登り、御殿場ルート5合目へ下りる。そして4度目の山頂へ登り、富士宮ルート5合目へ下る。そうして海抜0からのルート3776に加えて、富士山の主要4ルート(富士宮、吉田、須走、御殿場) を続けて4回登り下りしてみたのだ。
 結果は53時間一睡もせずに全5ルートを踏破することができた。2晩目の深夜2〜3時ごろに眠気を感じるも、限界は感じず、幻覚を見ることもなく終えることができた。ひとまず丸2日は戦い続けることが可能だとわかった。

 最後の課題は〝睡眠場所〞だ。
 第2の実験で、2日くらいの長時間は眠らずに行動できることはわかった。だが、レース中どうしようもない睡魔に襲われて、日中の砂漠で眠らざるを得ない状況になることもあるかもしれない。熱い砂漠で眠っても体力は回復するのか? 
〝北田的3大人体実験その3〞は「僕は砂漠でも眠ることができるのか?」。

 実験のために鹿児島県指宿いぶすき市へと飛んだ。そう指宿名物の砂むし温泉をサハラ砂漠に見立てて試すのだ。ここは砂の温度が約50℃になっており実験にちょうどいい。早速浴衣を身につけて、サハラを想像しながら砂の中に入る。

「らくだが1匹、らくだが2匹、らくだがさ、さ、あ、あ、あちい!!」 

 眠れるかこんなもん! 5分も経つと血管はドクドクと脈を打ち汗はダラダラ。10分経つともう限界。体を休めるどころか激しい脱水状態になった。一考すれば当然だ。天然のサウナなのだから。実験するまでもなかった実験の結果、サハラ砂漠で日中眠ることはまず無理。灼熱の砂漠で倒れ込むことがないよう、限界になる前に睡眠をコントロールすることが必要だとわかった。

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新刊紹介

北田雄夫

きただ・たかお
1984年生まれ、大阪府堺市出身。中学から陸上を始め、近畿大学3年時に4×400メートルリレーで日本選手権3位。
就職後は一度、競技から離れるも「自分の可能性に挑戦したい!」と再び競技を始める。
2014年、30歳からアドベンチャーマラソンに参戦。
17年、日本人として初めて「世界7大陸アドベンチャーマラソン走破」を達成。
現在は「世界4大極地の最高峰レース走破」にチャレンジ中。

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