2026.2.18
みんなが辞めるところで辞めないヤツが、夢を掴むんだよ【サーフィン犬 コーダが教えてくれたこと 第6回】
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体格差のあるコーダに突然舞い込んだ、ギネス挑戦のチャンス
その後、2018年の秋に会社を退職し自ら開業したドッグスクールの運営で慌ただしい日々を送っていた2019年の春、ギネス世界記録の日本法人である「ギネスワールドレコーズジャパン」から、「ギネス世界記録に挑戦してみませんか?」というオファーが突然舞い込みました。コーダがサーフィンやスケートボードをする様子を紹介していた私のSNSを見てとのことでしたが、コーダと出会ってからは、驚くようなことや奇跡みたいなことが本当に次々と起きるのです。
ギネス挑戦の種目は「スケートボードに乗って30mを世界最速で滑る犬」、「キックスクーター(キックボード)に乗って30mを世界最速で滑る犬」の2つでした。ギネス挑戦のことを電話で聞いた時、「犬の体の大きさや足の長さは犬種によって全然違い(コーダの犬種、イングリッシュコッカースパニエルは標準体高40㎝前後、体重13キロ前後)、ひと蹴りもパワーも違うから(ギネス達成は)難しい」と内心思ったのですが、挑戦することには意義があるし、そもそもこんなオファーをいただけること自体が光栄だったので二つ返事で受けて立ち、1ヶ月間猛特訓して挑戦したのですが、残念ながら世界記録を達成することはできませんでした。
スケートボード世界最速記録は中型犬のボーダーコリー(標準体高50㎝前後、体重20㎏前後)、キックボード世界最速記録は大型犬のブリアード(標準体高65cm前後、体重30㎏前後)。犬種的にも、コーダは世界最速は無理かもしれないけれど、別の道はないかと考えスケートボードのコントロール精度やトリックなどを重視した練習にシフトすることにしたのです。そのヒントは、伝説のスケートボード映画『ロード・オブ・ドッグタウン』(2005年公開。1970年代のアメリカ西海岸ドッグタウンでスケートボードの新しいスタイルを生んだZ-BOYSたちの実話をもとに映画化)。スケートボードに乗ったまま階段を降りたり、ボードの上で回転したり、ボードのテールを踏んで構えた姿勢からスタートして滑ったり…。人間がやっているトリックで犬の体でもできそうな技を次々に考えていきました。
ギネス世界記録での挫折の経験は、コーダと私に新しい可能性をもたらしてくれたのです。何度失敗しても諦めないこと。イメージが掴めるまで何度も繰り返すこと。みんなが辞めるところで辞めなかったヤツが夢を掴むんだよ、コーダ。

そこから数年経った2021年6月。前からご縁のあったムラサキスポーツからコーダに、茨城県笠間市に新しくできた日本最大級のスケートパーク「ムラサキパークかさま」で、人間のスケーターと一緒にスケートボードのデモンストレーションをしてくれないかとのお誘いを受けました。この依頼をしてくれたのは、ドッグサーフィンを始める時に「誰もやっていないことをやってごらんよ」と言ってくださった明松さん(連載第5回を参照)。明松さんは、私たちの地元・幕張から茨城に異動して新施設の立ち上げを任されることになり、そのタイミングでコーダを呼んでくれたのです。「ムラサキパークかさま」は、茨城県笠間市の笠間芸術の森公園内にある国内最大級のコンクリートスケートパーク(約17,800㎡)で、国際大会も開かれ2021年夏の東京オリンピックではフランスチームの事前キャンプ地になるなど世界水準の施設。トッププロやオリンピック候補選手の練習場としても有名です。そのスケートパークのイベントに、コーダは“スケーター”として招待されたのです!
イベント当日は、トップスケーターを目指すキッズ達と一緒にトレイン(集団で連なって滑るスタイル)をしたり、コーダを先頭にキッズ3人でロングボードに乗ってタンデムをしたり、コーダのトリックを披露したりと盛り上がり、子どもも大人もノリノリで最高の1日になりました。このイベントをきっかけに、私は同じ「ムラサキパークかさま」の敷地内で開催される「KASAMA DOG MARKET」というの大規模イベントのプロデュースも手がけることになりました。
ドッグイベントと言えば、犬のフード、アパレル、ケアや人間用のフードトラックなど、メーカーや出展者のテントが集まって開催するのが一般的ですが、私が主催するイベントは「飼い主だけでなく犬も楽しめるように」が主たるテーマ。メインイベントはもちろんスケートボードです。スケボー犬コーダのデモンストレーション、スクールの生徒犬によるデモ、スピードを競うスケボー犬たちのタイムレース、そして初心犬向けのスケートボード体験会等々。イベントのプロデュースは雑務も多く、練習時間は十分に取れずでしたが、それでもコーダは即興でたっぷり1曲分、集中を途切れされることなくパフォーマンスを披露します。0歳の頃からモデル犬の仕事をしてきたからなのかコーダは本番に強く、たくさんの人に見てもらうことをむしろ楽しんでいるようにも見えます。こんなふうに、かつて「咬み犬は殺処分だよ」と言われた問題行動犬コーダは、いつの間にか私の心強い相棒になっていました。

コーダと、海や公園でサーフィンやスケートボードをやっていると、それを見かけた人たちから「やってみたい」、「教えて欲しい」との声がちょくちょくかかるようになりました。それはインストラクター修行中の私にとっても模擬実技としてちょうど良かったため、少しずつレッスンもするようになりました。
インストラクターを目指していた私ですら、当時のドッグスクールや犬のしつけ教室には「昭和のド根性系で厳しそう」とか「お金持ちしか行けなさそう」など偏ったイメージがあったのですが、サーフィンやスケートボードは、ぐっと気軽でアロハでヤシの木みたいな陽気なイメージ。――犬が幸せになるなら、入り口はそんなふうに入りやすい方が良いかもしれない。パートナーである犬と楽しむサーフィンやスケートボードが、今までドッグトレーニングに興味がなかった人が「これなら面白そう」、「やってみたい!」と行動を起こし、そこからパートナーである犬が心身ともに健康で安全に暮らすために、人間の側がその知識を高めていくきっかけの一助になってくれればという願いを込めて、レッスンを続けています。

【ドッグトレーナー浅野のWANコラム-6-】
スポーツを愛する人のそれと同じように、スポーツを愛する犬と飼い主のための「連盟」や「団体」があったらいいな――。私が代表理事を務める「一般社団法人ケーナインスケートボーディング協会」では、スケートボードのトレーニングを通じて犬と人との絆を深め、豊かで質の高い共生を目指すことを目的に活動をしています。
「ケーナイン:K9」には「トレーニングが身についた犬」という意味があり、ハンドラー(指導手・飼い主)との高い信頼関係に基づき、高度なキュー(合図)や専門的なタスクを正確にこなせる犬のことを指しています。その名前が象徴するように、罰や恐怖に紐づける「しつけ」ではなく、食べ物やおもちゃを報酬としたモチベーショナルトレーニングを基盤とし、安全を守り、環境を管理し、犬の個性や自発性、自信、やる気を引き出し、ハンドラーと関わることの楽しさ(魅力)を向上させることを主目的にしていますが、それに加えて、犬の立場に立って安全にスケートボードを扱う知識も必要になります。
スケートボードは危険が伴うスポーツで、犬にとってもそれは同じです。SNSでコーダがスケボーに乗っているのを見て安易に形だけを真似たりすることは、大きなケガや恐怖でトラウマになるなど、せっかく築いた犬との信頼関係を失ってしまうリスクもあるのです。そんな悲しいことにならないために、長年研究してトレーニングやインストラクションをしてきた経験をもとに、正しい知識を普及させるために活動している協会ですので、パートナーの犬とのスケートボードやサーフィンに興味を持たれた方は、ぜひ一度チェックしてみてください。
一般社団法人ケーナインスケートボーディング協会インスタグラム @canine_sk8)
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次回、連載第7回は3/18(水)公開予定です
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