よみタイ

ライジング!

第2回 左遷なのか抜擢なのか……揺れる心に沁みるアイラモルト

小柴はなぜ松田に目をつけたのか……

 小柴が去ると、松田は野島にポツリと言った。
「小柴さんってどんな人なんですか」
「そうだな……。オレが思うあの人の一番すごい所は、独自の視点だな」
「視点?」
「そう、視点。人と違う視点で物事をよく見てるんだよ」
 野島は、ほとんど氷だけになった芋焼酎の水割りで唇を湿らせた。
「例えば手品」
「手品……」
「マジシャンってのは、手元を派手に動かしてみんなの視線を集めるんだよ。その隙に別の場所でタネを仕込む。みんなは手元ばかり見ているからタネに気づかない。タネを暴こうとして一生懸命見てる人ほど騙されるってわけだ。でもコシさんは違う。あの人はタネを探す時は手元じゃなくて全体を見ているような人なんだよ」
「そうなんですね」
「色んな角度から物事を見るっていうのかなぁ。基本的には抜けた雰囲気なんだけど、その実、抜け目ない人だよ」
「へぇ」

俯瞰だからこそ見えるものがある……!?
俯瞰だからこそ見えるものがある……!?

「そう言えば……」
 何かを思い出したように、野島が眉間にシワを寄せた。
「なんですか?」
 松田が問いかけると、野島は首をかしげながら言った。
「オレがこのプロジェクトに誘われたのも謎だな……。前々から紙以外の漫画の可能性について考えていて、漫画アプリを作るのも面白いかもなと思ってたんだけど……」
「だから誘われたんじゃないですか?」
「いや、誰にもそれを言ったことなかったのに、コシさんはピンポイントでオレを今回のプロジェクトに誘って来たんだよ。……不思議だ。今度聞いてみるか」

 一人でブツブツ言い始めた野島を見て、松田はなんだか羨ましい気持ちになってしまった。独自の視点を持ち、本質を見極める術に長けている小柴。そんな彼に選ばれた野島はきっと大いに期待されているのだろう。それに比べて自分は、デジタル開発部に邪魔者扱いされただけ……。
 悔しさをかみ殺すように、生ぬるくなったビールを飲み干す松田。やけに苦い。
 そんな松田の様子に気づかず、野島は言葉を続けた。
「あと、編集は接着剤だってのがコシさんの持論でね。自分じゃ何もできないから才能ある人同士をくっつけて初めて仕事になるんだ、って。だからいつも自分を助けてくれる才能を探してる。あの人は適任者の発掘と配置に定評があるんだよ。タイヨーはそんな人に選ばれたんだから、頑張ってくれよ」
 野島の言葉に、松田は肩を落として口を尖らせた。
「別に僕が選ばれたわけじゃないでしょ。分かってるんです。デジタル開発部から誰でもいいから一人連れて来なくちゃいけなくて、部長が一番ヒマな自分を選んだだけなんでしょ? 体よく仕事を押し付けられただけなんです」
「はぁ……お前さぁ」
 ため息を吐いた野島が顔をしかめた。
「名前の割に卑屈だなタイヨー。半年前のことはもちろん知ってるけど、いちいち落ち込んでちゃ仕事になんないぞ。あと今回のプロジェクトにお前を選んだのには、ちゃんとコシさんなりの理由があるんだよ。オレはちゃんと聞いたから知ってる」
「じゃあその理由ってなんなんですか」
 酔いも手伝って、少しケンカ腰になる松田の肩を、野島はポンと叩いた。
「今のお前に言っても伝わらない気がする。また今度教えてやる」
 今度っていつですか、と松田が聞こうとしたそのとき、小柴がトイレから戻ってきた。
「飲んだ量の倍ぐらい出たな……」
「んなわけないでしょ」
 軽口を叩く小柴と冷静にツッコむ野島。松田はどこか複雑な気持ちで、二人を見続けた。

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志田用太朗

京都府出身。小説家。
第16回エンターブレインえんため大賞優秀賞を獲得して、2015年にデビュー。
集英社みらい文庫からは『僕らのはちゃめちゃ課外授業 一発逆転お宝バトル』シリーズなどが好評発売中。

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