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南和行「離婚さんいらっしゃい」

私は強い男を求める(上)

上司と不倫

ハニ子は仕事の中で次第に、
夫や同僚たちと違う強さを持つ上司に、
抱かれたいという気持ちが沸いた。

それでも最初は、
自分に夫がいること、
相手が職場の上司であることから、
その気持ちを誤魔化そうとした。

しかし、誤魔化そうとするほど、
上司への思いは、
自分の中の生々しい感情を刺激した。

そんなハニ子の気持ちは、
上司にも感づかれたようだった。

ハニ子が、
「私の自宅で食事でもしないか」
という大胆な提案をしたとき、
上司は、ほんの一瞬だけ、沈黙したが、
「君の都合の良い日で」
とあっさり応じた。

その日、ハニ子は、
仕事が遅くなるからと子供を実家に預け、
早めに家に帰って久しぶりのフルコースを自分で作った。

そして残業を早めに切り上げた上司が、
マンションのエントランスのインターホンを鳴らした。

同僚でもある夫の単身赴任中に、
子供を親に預けて、
上司を家に呼び入れて関係を持つ背徳感に、
ハニ子はゾクゾクした。

上司もハニ子が誘った時点で、
それが危ない橋だとはわかっていたはずだ。

そして、上司とハニ子は、
その日から関係を持つようになった。

「この人の子供を産みたい」

検察庁という組織の中では、
噂はすぐに広まる。
しかし噂は噂でしかない。

何か決定的な事実が明るみに出るまでは、
具体的なことは誰も言わない。

「上司と不倫している噂があるよ」
「旦那さん、単身赴任中なんだし気をつけなきゃ」

と同僚から言われることはない。

そして、離婚や再婚といった形さえ整えば、
「そういうことだが、ケジメは付けた」
となって、

過去も含めて新しい関係が、
組織の中でも皆に承認される。

ハニ子は、上司との関係を重ねる中で、

「なんとしてもこの人の子供を産みたい」

と思った。

夫との間の子供は男の子だったが、
おそらく夫に似るだろう。

検察官を両親に持つとは思えない、
よく言えば優しい、
悪く言えば気弱な男に育つだろう。

ハニ子は、我が子を愛していたが、
「それは違う」という思いをぬぐい去れなかった。

この上司の子であれば、
私は自分の子供に納得できる、
そんな気がした。

ハニ子は30代前半。

焦っていた。

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南和行

みなみ・かずゆき●1976年大阪府生まれ。京都大学農学部、同大学院修士課程卒業後、大阪市立大学法科大学院にて法律を学ぶ。2009年弁護士登録(大阪弁護士会、現在まで)。2011年に同性パートナーの弁護士・吉田昌史と結婚式を挙げ、13年に同性愛者であることを公言する同性カップルの弁護士による弁護士事務所「なんもり法律事務所」を大阪・南森町に立ち上げる。一般の民事事件のほか、離婚・男女問題や無戸籍問題など家事事件を多く取り扱う。著書に『同性婚―私たち弁護士夫夫です』(祥伝社新書)、『僕たちのカラフルな毎日―弁護士夫夫の波瀾万丈奮闘記』(産業編集センター)がある。
大阪の下町で法律事務所を営む弁護士の男性カップルを追った、本人とパートナー出演のドキュメンタリー映画『愛と法』が話題。
・なんもり法律事務所
http://www.nanmori-law.jp/
・南和行のTwitter
https://twitter.com/minami_kazuyuki
・吉田昌史のTwitter
https://twitter.com/yossy_nan

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