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テレビアニメ世代ど真ん中で『風の谷のナウシカ』のカセットとビデオを同時再生していた僕が「オタク」と一緒にされたくない理由

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カセットとビデオデッキを同時再生して『風の谷のナウシカ』を「完全版」に

 ということでこれが、小学校低学年までの僕。
 その後の僕はというと、「音にハマる子」なのは変わらず、それが理由で、徐々に周囲の同世代との乖離をさらに深くしていった。
 小学4年生の僕は劇場版『風の谷のナウシカ』のサントラを入手したことから久石譲を知り、まずはその音源を聞きながら原作漫画の該当シーンを読むとか、音源に合わせて劇場の絵コンテ集を読むことにハマった。さらに同ナウシカ劇場版のテレビ放映を姉がベータビデオに録画してくれてからは、今度はオープニングの「また村が一つ死んだ。行こう、ここもじき腐海に沈む」(カイとクイを連れたユパ様が腐海に沈んだ辺境国を訪ねる部分)の背後に流れる音源がサントラに収録されていないことに憤慨し、未収録部分に近しい音源が部分的に収録されている『風の谷のナウシカ シンフォニー編 風の伝説』(サントラに先んじて発表されていたオーケストラアレンジ作品)のLPレコードを隣駅の「友アンド愛」(元祖レンタルレコ屋)でゲット。
 音源をダビングしたカセットとビデオデッキを同時再生することで、当該部分が劇場版とフィットするタイミングを延々トライアルして追及した。
 そしてついに、壮大なティンパニと低い残響から始まる『シンフォニー編』のイントロを経て、完全にシンクロしたタイミングで劇中の「風の伝説」本編が始まった時、背筋に走る感動の戦慄! 僕の中で未完成だった劇場版ナウシカは「完全版」に昇華し、5年生になったばかりだった僕は実家の居間でただ独り、ビデオデッキとラジカセの前で感涙に咽び泣いたのであった。

ビデオの登場で、同世代との乖離はさらに深く……。(写真/PIXTA)
ビデオの登場で、同世代との乖離はさらに深く……。(写真/PIXTA)

 とまあ、こんなことを同年代の妻(5歳年下なのでギリ同年代)に言うと
「あんたそーいうのを世の中ではオタクって言うんだよ!」
 と返されるのだが、そこに「ちがうんじゃー!」と叫びたくなってしまうところが、実は肝なのだ。
 ここまでで十分わかるように、周囲の同世代と同じ文化の中にありながら、幼い日の時点で僕はその解釈や味わい方において、すでに同世代から脱落してしまっていた。けれどここでもっと意識すべきは、この時点ですでに僕は「ファン」や「オタク」と言われる人たちに、明瞭な偏見と批判感情を萌芽させていたということだ。
 批判を恐れずに正直に吐露すれば「ついていけない」ではなく「交わりたくない人たち」だと僕は認識していた。

オタクは「作品愛が足りない」「作り手を冒涜している」

 なぜ、「交わりたくない」だったのか。それは当時の僕が、彼らは「作品を冒涜する人々だ」と感じていたからだ。
 例えば、小学校も高学年に至るころにはすでに“おたく族”という言葉がうっすら存在していたが、彼らは僕が「ナウシカ界隈が好き」(ナウシカの絵コンテや宮崎版名探偵ホームズのフィルム文庫などを読みふけっている)と知ると、「安田成美がな」とか「島本須美がのお」とかものすごい勢いで語ってくるのだ。
「おたくナウシカが好きならば、うる星(やつら)も好きでござるよな実は雨宮露子殿はぬほほほほほほ」
 とか冗談でなくそういう口調で一方的に話す男子がその当時には実在していて、僕の近所にもリアルにいた(注・雨宮露子=『うる星やつら』の登場人物で、ナウシカと同じく島本須美が演じた)。
 僕にとって、声優がどうとかは物語には全く関係ないし、僕の中で原作で描かれるナウシカの声は島本須美ではなかった。駄目押しにナウシカの予告CMに使われた安田成美の主題歌は、メロディ(細野晴臣の黒歴史か)も歌詞も含めて宮崎駿の描く原作世界観をことごとくぶち壊しにするものと僕は憤っていた。
 作品世界に耽溺しているのであれば、ナウシカと安田成美を同じ記号の中に語ることは絶対にできないはずだ! 僕は憤慨し、冷え冷えと落胆し、「彼ら」を交わりたくない人だと感じたわけだ。
 このあたりから、本格的に僕は拗らせていったと思う。オタク=ファンではないし、それぞれがひとくくりに語れるクラスタでもないとはわかっている。けれどこの「作品愛が足りない」「作り手を冒涜している」という感情は、現代の推し文化に対しても引き続き感じ続けているものだ。
 なんだか挑戦的になってしまうが、どうやら僕は何かのファンになる心理がわからないと同時に、ファンというあり方に抵抗感を感じ「そうはなりたくない」という心情をもってもいるようなのだ。
 次回ではこの心情をさらに深掘りしよう。

 この連載は毎月第4土曜日午前9曜配信。次回は2月28日(土)公開予定です。お楽しみに!

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新刊紹介

鈴木大介

すずき・だいすけ/文筆業・ルポライター
1973年千葉県生まれ。主な著書に若い女性や子どもの貧困問題をテーマにした『最貧困女子』(幻冬舎)、『ギャングース(漫画原作・映画化)』(講談社)、『老人喰い』(ちくま新書・TBS系列にてドラマ化)や、自身の抱える障害をテーマにした「脳が壊れた」(新潮社)、互いに障害を抱える夫婦間のパートナーシップを描いた『されど愛しきお妻様』(講談社・漫画化)などがある。
2020年、「『脳コワ』さん支援ガイド」(医学書院・シリーズケアをひらく)にて日本医学ジャーナリスト協会賞大賞受賞。近刊に『ネット右翼になった父』(講談社現代新書・新書大賞2024・5位)『貧困と脳 「働かない」のではなく「働けない」』(幻冬舎新書)など。

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