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紅白歌合戦、目前に思う。現代日本の「推し」文化がマジしんどいの、僕だけ?

『貧困と脳 「働かない」のではなく「働けない」』(幻冬舎新書)『ネット右翼になった父』(講談社現代新書)など、実体験ベースに問題提起を続け支持を集める文筆家の鈴木大介さんによる新連載! 生まれてこのかた「推し」の対象がいたことがないという鈴木さん。「推し活」ブームのいま、あえて「推せない者のしんどさ」を言語化します。

初回は、時代や視聴率は変わっても国民的「推し」コンテンツであり続ける、大晦日の紅白歌合戦のニュースから考えていきます。

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年の瀬に強制的に入ってくる「推し」の圧力

 年の瀬が迫るとともに、毎年のことながら強制的にアレの情報が入ってきた。今年のアレには、6年ぶりにAKB48が出るらしい。審査員は連続テレビ小説2作品の出演者、来年の大河ドラマの主演、スポーツ選手二名にレジェンド声優と、文芸評論家とな。そういえば今季のテレビ小説のタイトルは『ばけばけ』か……ってこの師走迫るまで知らんかったな。
 ああもう、またこれかよ。いつだってもう喉元にせりあがるほど腹に一杯のものが、毎年このシーズンになるとさらに膨れ上がりしんどさを増す。腹を満たすのは、強制的に入ってくる「推し」の圧力だ。
 毎年末、アレは推しの年内総決算みたいな温度で、推しの最大公約数を押し付けまくってくれるが、今年は推し文化がコアなファン活動を超えて一般認知されるようになった契機とも言われてる、AKB48様ときたか! 
 しかもふとした拍子にAmazon見たら、まさに今回のアレで審査員に抜擢された文芸評論家の『「好き」を言語化する技術 推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない』(三宅香帆・ディスカヴァー携書)がカテゴリーベストセラーの王冠マークを輝かせていた。まあ三宅氏の著書は普通に面白いので、売れるのは当たり前なのかもだが、この出版不況に見事23万部突破だそうだ!
 いやはやこの年末は、例年に増してものすごい圧である。

 もちろん、「観なければいいじゃん」が最適解の最終解なのは間違いなく、今年もまたアレを観ることなく僕は年を越す。というか我が家はそもそも徹底したテレビ嫌いゆえにここ15年ぐらいモニターと地デジアンテナがつながっていたことがない(数年前にアンテナもめでたく物理的撤去となった)。
 けれど、それでもニュースアプリを開けてもPCでブラウザ立てても、否応なく今年のアレ情報は視界のどこかに強制的に飛び込んでくる。「興味のあること」に芸能をチェックした覚えは一度もないのに、レコメンド機能を突破したアレが見出し上位に来ている。
 けれどここで、素直に問いたい。
 アレ、そしてアレが象徴する現代日本の推し文化、しんどく思っているのは僕だけですか?
 誰しも推しがいること当たり前、推しをもつことの素晴らしさが全肯定で声高に語られ、推しを語ることが自己紹介化し、コミュニケーションツールとして一般化している世の中、マジしんどいって感じているの、僕だけですか?

実際、こうして「紅白」の情報は「メリークリスマス」代わりにやってきた。(写真/著者提供)
実際、こうして「紅白」の情報は「メリークリスマス」代わりにやってきた。(写真/著者提供)

「国民的◯◯」みたいなものにセンサーが一切働かない

 ちょっと僕自身の闇を、ドロッとさせてほしい。
 自分は52歳、1973年生まれ。たいがいいい年のオッサンだけど、大晦日にアレを最後まで観た記憶は、実は人生で一度もない。けれど、大晦日に「みんな」が観ているアレを観ないこと、さらに観たいと思えないこと、観ても何が面白いのかさっぱりわからないことは、僕にとって疎外感を感じさせることだった。
 なお、年内総決算のアレは、その象徴に過ぎない。アレに限らず、みんなが推すもののたいがいに興味が持てない、面白く思えない、誰かのガチ勢になったこともなりたかったこともないってことは、幼い頃から否応なく自分がマイノリティであるという感覚をつきつけてきた。
 73年生まれとは団塊ジュニアで就職氷河期世代ドセンター、現代日本において最大の人口という世代であり、それは同時に「テレビ世代」のドセンターでもある。そして、子ども時代にはテレビは観ているのが当たり前、みんなが観て面白いというテレビ番組を観ていないと対話が成立しない、そんな時代でもあったと思う。
 けれどそんな中、僕には面白いと思える番組がほとんどなく、あったとしてもそれはクラスのみんなが全然観てない番組だった。推しのアイドルもタレントも役者も居たことがなかった。アイドルとか何それ?状態で、小学高学年時代に周囲を席巻した「夕焼けニャンニャン」とかむしろ嫌いでものすごく気持ち悪いものに感じていたぐらいだから、当然音楽バラエティ番組を観たこともないし、紅白歌合戦やレコード大賞をきちんと観た記憶も皆無。
 ウルトラマンも仮面ライダーも戦隊モノも何が面白いのかわからなくてスルーだから友達の誘ってくる「ごっこ遊び」の意味もわからない。スポーツにしたって、プロレスもプロ野球もサッカーも全て中継の終わりまで見た記憶が人生一度もない。プロ野球チップスはイモ食ったらあとはゴミだし、球団なんか50年以上生きていていまだに日本に全何球団あるのか分からん。15球団? 13球団?
 この世代においてスーパーカーブームをドスルーし、キン消し一個も買わず欲しいと思って親にねだったこともない。
 そんなこんなで例えだしたらキリがないが、ダメ押しに子ども時代は両親ともに夜まで仕事というテレビ見放題のパラダイス環境だったため「親が厳しくてみんなの観ているテレビを観せてもらえず」の世代ナラティブからすら置いてけぼりという始末である。
 もちろん若い頃は「ミーハー(死語)なパンピー(死語)と俺は違う」みたいな尖ったフリで過ごしていたが、正直に思い返してみれば、そこにはどよーんとした孤立感があった。
 はてさて、世代やジェンダーの違う読者には何が何だかさっぱりかもしれないけれど、これは日本に生まれ育ってドラゴンボールもポケモンもマリオカートもプリキュアもモーニング娘。も「良さがわからないから全スルー」ってのに等しい感じ、「国民的○○」みたいなものに一切センサーが働かないみたいな感じだろうか。
 僕は間違いなく一日の中で音楽を聴いている時間が平均より長いし、映画や小説や漫画や毎シーズンのアニメといったコンテンツの摂取も多分多い方だと思う。けれど、ことごとく、「みんなと同じようには」センサーが働かないのだ。どよよーん。

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新刊紹介

鈴木大介

すずき・だいすけ/文筆業・ルポライター
1973年千葉県生まれ。主な著書に若い女性や子どもの貧困問題をテーマにした『最貧困女子』(幻冬舎)、『ギャングース(漫画原作・映画化)』(講談社)、『老人喰い』(ちくま新書・TBS系列にてドラマ化)や、自身の抱える障害をテーマにした「脳が壊れた」(新潮社)、互いに障害を抱える夫婦間のパートナーシップを描いた『されど愛しきお妻様』(講談社・漫画化)などがある。
2020年、「『脳コワ』さん支援ガイド」(医学書院・シリーズケアをひらく)にて日本医学ジャーナリスト協会賞大賞受賞。近刊に『ネット右翼になった父』(講談社現代新書・新書大賞2024・5位)『貧困と脳 「働かない」のではなく「働けない」』(幻冬舎新書)など。

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