2026.2.26
コンサルに寄生された小さな町の珍事業。「地方創生」という看板の裏で蠢く脱法ビジネスを暴く
氏の趣味でもあるノンフィクション乱読から、読む者を異世界へといざなってくれる本をセレクトして紹介する書評連載です。
第3回は、横山勲著『過疎ビジネス』を取り上げます。
河北新報に寄せられたタレコミ
『過疎ビジネス』(横山勲著/集英社新書)を読んで、ハリガネムシを思い出した。コオロギやカマキリなど宿主の腹のなかで成長し、脳をハッキングして入水させる寄生生物だ。泳げない宿主は、魚に食べられる運命にある。
この本に描かれているのは、地方の小さな自治体に狙いを定めて内部に巣食い、限りなく黒に近い手法を駆使して甘い汁をすするコンサル会社の暗躍。いいように操られる自治体は、はたから見たら「なんじゃそりゃ?」という珍妙な事業に足を踏み入れる――。
舞台は、宮城県との県境にある福島県国見町。人口8000人弱(2025年11月末時点)の小さな町だ。ホームページを開くと、山と水田、畑が広がる景色の写真が使われていて、「コシヒカリとくだものの里」とある。
いかにも長閑な雰囲気のこの町で、「おかしなことが行われている」という複数のタレコミが寄せられたのは、河北新報。創業100年を超える老舗の新聞社で、仙台に本社を置き、東北地方のニュースを中心に報道している。
河北新報の記者、横山勲は「国見町の特別職三人(町長、副町長、教育長)が自分たちだけの給料を上げる条例をこっそり通した」という具体的なタレコミを目にしたのをきっかけに、国見町の取材に出向く。その下調べの際に違和感を抱いたのが、当時の町長の「肝いり」で始まっていた奇妙な地方創生事業だった。
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怪しげな臭いがプンプンする事業
これは少々複雑な仕組みになっているから、なるべくわかりやすく説明しよう。まず、企業版ふるさと納税という制度がある。企業がこの制度を使って自治体に寄付をすると、寄付額の最大9割が法人税、法人事業税、法人住民税の合計金額から差し引かれる。端的に表すと、100万円寄付したら、最大90万円分、諸々の税金が控除される。この制度のなかで「寄付した企業名は非公表にできる」のが大きなポイントのひとつだ。
国見町はこの企業版ふるさと納税で寄せられた4億3200万円を使い、「高規格」の救急車12台を購入する計画を立てる。これを町民のために使うならまだ理解できるが、ほかの自治体や消防組合に貸し出すという。要するに、レンタカーに出すということだ。
え、国見町のメリットは? と誰もが疑問に思うところだろう。横山記者が調べたところ、町議会で同様の質問をされた町長が「企業と連携して国見町のネームバリューを上げること」と答えていたことがわかった。
4億3200万円で購入した12台の救急車をレンタルに出して、町のネームバリューを上げる? 横山記者は怪しげな臭いがプンプンするこの事業の追及を始める。その過程で姿を現すのが、宮城県に拠点を持つ2016年創業のスタートアップ「ワンテーブル」だ。
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筆者の幸運
同社を率いるのは、島田昌幸。本書のカギを握る主人公を、簡単に紹介する。
大学卒業後に地元の北海道で教育ベンチャーを立ち上げた起業家で、2007年より国土交通省認定の観光地域プロデューサー、2010年より総務省所管の地域力創造アドバイザーとして活動を始める。
宮城県でフードコンサルをしていた2011年、東日本大震災で被災した経験から、常温で5年間備蓄できるうえに栄養バランスに優れたゼリーの開発に着手。同時に、震災で大きな被害を受けた宮城県名取市や七ヶ浜町などで商業施設の開発にも携わった。2016年、備蓄ゼリーの開発販売、防災ソリューション事業を主軸とするワンテーブルを立ち上げる。
このプロフィールを見ると、地方活性化を目指して精力的に活動する経営者に見えるだろう。実は僕自身、あるビジネス専門誌の仕事で島田に会い、魅力を感じたひとりだ。
その時は「ローカルベンチャー」というテーマに沿った1時間弱のインタビューで、主に備蓄ゼリーの話を聞いた。彼が語る被災の経験はとてもリアルだったし、震災で感じた課題を備蓄ゼリーで解決したいという思いは、小柄ながらとてもエネルギッシュな彼の語り口もあって、とても真摯かつ革新的に思えた。
その後、島田の事業を応援したいと思い立ち、別のメディアに提案した企画のなかで、取材候補のひとりとして彼の名前を挙げたこともある。編集部とのすり合わせでたまたま彼の取材を見送ったが、今となっては幸運だったと思う。自分の記事が被害者を増やすきっかけになったかもしれないのだ。
そう、島田こそ企業版ふるさと納税を使い、自社や協力企業に利益を誘導する「寄付金還流スキーム」を実行してきた張本人である。

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