2026.1.22
次々と暴かれる郵便局の闇! 地方紙の記者がウルトラブラックな実態に迫る
保険営業なくして成り立たない郵便局
「ところで、郵便局の窓口担当者がなんで生命保険を売ってるの?」と疑問に思う読者もいるだろう。2007年の郵政民営化で、親会社である日本郵政の子会社として、日本郵便、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険の3社が誕生した。本書によると、かんぽ生命保険は個人向け保険の販売業務を日本郵便に委託しており、現場の郵便局員が営業を担っている。
保険契約のノルマは外回りの営業担当者(渉外社員)だけでなく、窓口担当にも課される。窓口担当は、郵便物の手配や振り込みの手続きをしにくる利用者に声をかけて営業するものの、大半の人は用事を済ませたら帰る。そのため、通常業務を終えてから残業して、保険営業の電話をかけまくる。これが、本書に記されているAさんのスケジュールだ。
窓口担当にまで過度な負担が押し付けられているのは、理由がある。郵便局の数は、全国におよそ2万4000。これだけの数の郵便局を維持するために必要な経費は年間1兆円ほどで、そのうちの7割を保険と銀行業務の収益で賄っているという(数字はすべて本書による)。一方、郵便局の本業である郵便物流事業は、手紙やはがきの流通量の激減によって売り上げが低迷している(2022年から3年連続で数百億円規模の赤字)。言い換えると、郵便局は保険営業なくして成り立たないのだ。
とはいえ、郵便物流事業の売り上げを伸ばす努力も必要だ。その最前線で働く配達員に求められるのは、無事故、ノーミス、ノー残業。配達に時間がかかったり、配達ミスをしたりすると、上司からのパワハラまがいの叱責が待っている。最も厳しく咎められるのは、事故。本書では触れられていないが、懲罰自転車のエピソードからも、事故を起こしたらどんな仕打ちが待っているのか伝わるだろう。
これだけではない。配達員にも、年賀はがきやゆうパックなどの販売ノルマがある。例えば、年賀はがきだけで毎年4000枚から多くて8000枚。これを達成できない人は、自分で購入して金券ショップで売りさばく。これを「自爆営業」という。本書の第二章では、パワハラと自爆営業を苦にして自死した郵便配達員について、綿密に取材がなされている。窓口担当者と同じく、配達員も追い詰められているのだ。
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限りなく黒に近い選挙活動
郵便局の闇はもっと深い。郵便局には、郵便物の配達を含め多様な業務を担う大規模局、窓口業務を担う町なかの小規模局、個人事業主などに切手販売などの窓口業務を委託している簡易郵便局の3種類ある。
このうち、約1万9000局を占める小規模局は独特だ。本書によると、日本の郵便制度がスタートした明治時代、政府は全国に郵便局を設けるため、地域の名士や地主から建物を無償提供してもらった。それが小規模局のルーツとなり、郵便局長は子どもや親族が後を継ぐようになる。その身分は特別扱いされていて、戦後は国家公務員となり、局舎の賃料は国から支払われ、転勤もなし。2007年の郵政民営化後も、世襲が容認されている。
小規模局の郵便局長たちは1953年、「全国郵便局長会」を結成。従来の郵便局の体制を守るために政治活動に力を入れており、「参院選のたびに自民党の全国比例から組織内候補を一人擁立し、当選させてきた」。
そう、ノルマは小規模局のトップである局長にも課される。例えば、選挙前に「後援会の会員80世帯100人」、選挙時に「1人30票」を求められたケースが本書に記されている。業務時間内での政治活動は禁止されているため、受け持ちの区域を回るのはプライベートの時間。いきなり訪ねても相手にされないので、普段からボランティアに参加するなど「地域貢献活動」が重要になる。
選挙が始まれば、公職選挙法などお構いなし。ノルマ未達でつるし上げられることを恐れて、選挙前に投票を呼び掛ける違法な「事前活動」に追い立てられる。なぜ、そこまでして「体制」を死守しようとするのか? もちろん、そこには甘い蜜があるからだ。著者の宮崎は、局長たちにも食い込んで、生々しい現場の声を伝えている。
「オールドメディア」の影響力
僕は、日本の津々浦々で営業している町の郵便局に、なんとなくほんわかしたイメージを抱いていた。窓口の郵便局員はいつも親切に対応してくれるし、配達員は暑い日も寒い日も実直にバイクを走らせている。生まれてこの方、郵便局にネガティブな印象を持ったことがなかっただけに、『ブラック郵便局』に描かれた裏側に寒気がした。
今回、『ブラック郵便局』を取り上げたのは、前回の『対馬の海に沈む』で描かれたJA(農協)の腐敗の構造と酷似しているからだ。本筋からずれるので詳しくは触れないが、郵便局で保険を販売する渉外社員はランク付けされ、上位者には1000万円以上の営業手当が支給される。本書によると、上位者の多くは保険加入者に不利益のある「乗り換え契約」で実績を挙げているという。匿名で取材に応じた渉外社員は「良心が麻痺していった」と告白している。JAで「神様」と呼ばれ、死後に違法な手口で懐に入れた保険金が22億円超に及ぶと判明した西山義治のような人物がいても不思議ではない。
共通点は、巨大かつ古くて硬直した組織の本業(農業や郵便物流事業)が立ち行かなくなり、そのしわ寄せで末端が歪んでしまっていることだろう。それにしても恐ろしいのは、倫理観の欠如だ。閉ざされた環境のなかで、「組織のため」に悪事に手を染め、部下を痛めつける。組織は見て見ぬふりをするか、隠ぺいする。このカルチャーが刷新される日は来るのだろうか?
そうそう、冒頭で触れた懲罰自転車の報道を受けて、日本郵便は事故を起こした配達員への自転車・徒歩での配達指示を全面的に禁じたものの、「懲罰的な目的はなかった」と公表している。
昨今、新聞は「オールドメディア」と揶揄されることもあるが、著者の宮崎の記事によって全国から情報が集まり、その情報をもとに〝黒い郵便局〟を白日の下に晒していく過程には、胸が熱くなった。僕にとって『対馬の海に沈む』が探偵ものだとしたら、『ブラック郵便局』は刑事もの。ベテラン刑事がひとつひとつ証拠を積み上げ、巨悪に迫る。新聞というメディアの信頼と記者の取材力が掛け合わされた時、まだまだ大きな影響力を発揮できるのだ。それは僕のようなフリーライターには難しい調査報道で、眩しくもある。
次回は、同じく地方紙の記者が、小さな自治体に巣食い公金を食い物にするコンサルの実態を暴いた『過疎ビジネス』を紹介する。

次回は2/26(木)公開予定です。
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