2024.12.21
寿司か鰻かラーメンか……鹿児島におけるラーメンは「ご馳走」だった
鹿児島のラーメンには、もうひとつの特徴がありました。それは「値段が高い」ということです。子供の僕はもちろんよその土地の相場なんて知らないわけですが、そのことは大人たちから度々聞かされたものでした。福岡の3倍はする、と言う父親の語る蘊蓄をそのまま引用するならば、「鹿児島のラーメンは黒豚で、しかも骨より肉中心でダシをとるから高いんだ」とのことでした。今になって思えばやや眉唾のような気もしなくはありませんが、いずれにせよ鹿児島では、ラーメンというのは贅沢に作られる食べ物であり、高くて然るべきであるという共通認識があったことは間違いないようです。
これはあくまで40年以上昔の話ではありますが、当時の鹿児島では、例えば来客があってちょっといい店屋物を出前でとる、みたいな時は、寿司か鰻かラーメンか、という三択でした。当時まだ鰻は今ほど貴重じゃなく、鹿児島は産地なので殊に安かったということもあったでしょうが、今となってはその三つが並列に並ぶのは信じがたい価値観です。
ちなみにこの三択ネタは、京都での学生時代、僕の鉄板ネタでした。別にホラでも何でもない事実をありのままに語るだけで、その話はおおいにウケたものです。特に関西人は「なわけないやろ」と一斉にツッコんでくれました。ホラだと思われていたようです。僕も調子に乗って、ムキになったテイで「ホンマやて」と更なるツッコミを誘うことに余念がありませんでした。
松本零士『銀河鉄道999』では、未来の世界においてラーメンがステーキと並ぶ貴重な幻の食べ物として扱われます。これはもちろんディストピア的なブラックユーモアとしてそう描かれているわけですが、小学生当時の僕は、それがユーモアであることにすら気付いていませんでした。ステーキとラーメンが肩を並べるのは、特別不思議なことでもなかったからです。対して同じく松本零士の『男おいどん』では、ラーメンライスが貧乏の象徴として描かれています。こっちは東京のリアルだったのでしょう。少なくともその頃の東京におけるラーメンの位置付けと鹿児島におけるそれは、完全に異なるものだったはずです。
次回は2025年1/4(土)公開予定です。
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