2018.12.14
和牛を極める、京の肉割烹への誘い〜師走は借金してでも肉を食え!
前回お伝えしたが、京都こそが和牛料理の聖地である。
そんな京都で和牛三昧の旅を満喫するため、前回は肉バカの肉人生で最大の衝撃だった「くいしんぼー山中」を紹介した。「くいしんぼー山中」は幸運にもランチ営業をしているので、せっかく京都まで足を延ばすのであれば「くいしんぼー山中」でランチに特選近江牛を食べた後、ディナーとして「にくの匠 三芳」を訪れなくてはならない。
三芳はステーキ屋でもなければ焼肉屋でもない。「肉割烹」というジャンルにあり、その中で間違いなく頂点に位置する。
和牛とは、その字が示す通り「和」の食材である。だからこそ、日本料理の中で昇華させて欲しいという思いが以前からずっとあったのだが、それを叶えてくれたのが、ここ三芳だ。
コースでは、全ての料理に牛肉が使われていて、ある時は主役としてしっかりと自己主張をし、またある時は脇役として他の素材を引き立てるように脇に立っている。
随所に日本料理の技術がふんだんに使われ、見た目の美しさはもちろん、料理を口にしてからじんわりと広がる味わいの素晴らしさは、食べた者にしか分からない至福の境地である。
三芳で扱う素材の凄さについても触れなければならないだろう。
牛肉は神戸ビーフを中心に松阪牛や近江牛など、その時々で一番良いものを仕入れている。
「その時々で一番良いものを仕入れる」というフレーズは、残念なことだが色々なお店で見かけることがある。だが、そのほとんどが首を傾げたくなるようなお店が多い。
和牛料理の中でこの言葉を使うことが許されるとしたら、それは三芳にしか許されないだろう。
それほどまでに仕入れる牛肉に対する店主の伊藤さんの思いは狂気じみている。
仕入れる牛肉のほとんどは兵庫県の純但馬の血統。
競走馬と同じように牛は血統が大事で、味に与える血統の影響は大きい。成長した牛の大きさやサシの入り方ではなく、純粋に味という視点で血統を考えた場合、和牛を食べ込んだ肉好きであれば、「純但馬血統(兵庫県産)」と「それ以外の血統」に分けてしまう。
黒毛和牛の起源と言える血統であり、全国の黒毛和牛の品種改良に最大の貢献をしてきたのが純但馬血統なのだ。
決して、純但馬血統が全て優れていて、それ以外の血統が全て劣るわけではない。それ以外の血統である通常の黒毛和牛は素晴らしい。
ただ、食べた後に震えるような感動を与えてくれる牛肉の血統を遡ると、そのほとんどが純但馬血統に行き着いたという経験を肉バカ自身がしている。
血統の話が長くなってしまったが、三芳で仕入れる松阪牛は特産松阪牛と呼ばれるもので、純但馬血統の松阪牛にしか「特産」の冠は付かない。松阪牛全体の中でも特産松阪牛の割合は2~3%といわれていると言えば、その希少性が分かるだろう。
近江牛に関しても、純但馬血統の近江牛を探し当てて仕入れている。
ちなみに神戸ビーフは、その全てが純但馬血統である。
全国の肉屋が奪い合う純但馬血統の黒毛和牛は当然値段が高い。
恐ろしくなる程高い。
しかし、伊藤さんは品物が良いのであれば、仕入れ値に上限を設けない。ただただ最高の牛肉だけを扱いたいだけなのだ。
ちなみに牛肉以外の素材に対するこだわりも驚くほど強い。一切の妥協が無い姿勢が、ここまで素晴らしい料理の礎を支えているのだろう。
三芳があるのは八坂神社のすぐ近く。ご実家を改装したという店舗は京都らしい落ち着いた雰囲気で、これから飛び込む異次元の味の世界への期待を高めてくれる。
店内はカウンター6席とテーブルが8席。どちらに座っても最高の肉料理を味わうことが出来るが、伊藤さんが料理をしているところをライブとして見ることの出来るカウンターがやはりオススメ。
悔しいが肉バカを遥かに超えるイケメンと評判の伊藤さんは、料理を作る所作の全てが美しい。
目の前で料理が仕上がっていく過程を見て、目で楽しみ
扱う素材に対する伊藤さんの拘りを聞くことで、耳でも楽しみ
目の前にお皿を出された瞬間に立ち昇る香りから、鼻でも楽しみ
最後はその料理を味わうことで、舌でも楽しめる。
では、その至高の料理の一部をここに紹介したい。
〈タンの昆布締め〉
三芳のスペシャリテの一つで、必ずコースのトップバッターとして登場する。
希少な黒毛和牛のタンを昆布で〆ることで、黒タン特有の甘みを残しつつ、ねっとりとした昆布の旨みと黒タンの旨みの絶妙なハーモニーを楽しむことが出来る。
〈イチボのタタキ〉
希少部位として有名なイチボの中でも、柔らかさを生み出すサシと旨みを伝える赤身のバランスが最高な一部分だけを使った贅沢な一品。
表面をカリッと焼き上げ、中心の温度はほんのりと人肌に。香ばしさとレアな滑らかさが共存した、奇跡の仕上がり。
〈お椀〉
割烹料理らしくお椀もしっかりと登場する。
もちろん季節によって内容が変わるが、鮑とテール出汁をあわせたお椀の味は、もはや生涯忘れることは出来ない。
〈黒タンの醤油焼き〉
焼肉屋の薄切りとは別物の分厚いタンを醤油を塗りながら香ばしく焼き上げる。
中心は熱々に芯温が上がっているが、食感はプルンとしたまま、という絶妙な火入れ。
〈肉素麺〉
サーロインを細切りにして出汁と一緒に食べる。
さっぱりとした出汁の旨さがサーロインの骨太な味わいを更に引き立てる。出汁の最後の1滴まで飲み干してしまう美味しさ。
〈小丼〉
一口ご飯の上にはサーロイン、更にその上にキャビアやウニ、トリュフがふんだんに盛られる贅の極み。
豪華な見た目からイメージする騒々しい味わいではなく、完璧なバランスが取れた見事な味わい。
〈うな丼〉
1kgオーバーの天然鰻を白焼きにし、神戸ビーフと合わせる。
鰻も牛肉もどちらも自己主張をするが、それがケンカをせずに抱き合うという奇跡がここに起こった。
〈しゃぶしゃぶ〉
一般的なしゃぶしゃぶよりも若干厚めにカットされたサーロインを特製の出汁でしゃぶしゃぶする。
厚切りにすることで、サーロインの肉本来の旨みがポン酢に負けることなく味わえる。
〈ステーキ〉
厚切りのサーロインやヒレを炭火でじっくりと焼き上げる。
伊藤さんがこだわり抜いて仕入れた牛肉のポテンシャルが噛むごとに口の中で爆発する。サシの入ったサーロインでも、脂の重さを感じることなく、赤身の旨みがぐっと押し寄せてくる、まさに肉の桃源郷である。
〈すき焼き〉
ステーキよりも長めに熟成させることで、口の中でホロホロと崩れ出すリブロース。
割下は伊藤さんオリジナルの配合、さらに寝かせることで深みのある仕上がりに。
これだけでも痺れる味わいのすき焼きだが、11月頃であれば、ここに大量の白トリュフがかけられる。鼻を抜ける極上の香りが、和牛のリブロースを牛肉料理の頂点へ昇華させる。