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小池克臣「No Meat,No Life.を生きる男の肉だらけの日々 肉バカ日誌」
年間200食もの牛肉を食べるという、名実ともに肉バカ、小池克臣が日々蓄えてきた肉への愛、知識、体験……そのすべてを注ぎ込む究極の肉コラムがここに。肉好きはもちろん、そうでなくても知っておくべき肉のあれこれが満載!

焼肉屋なのに、パンが専門店より旨いのはなぜだ?

タンパク質と炭水化物の究極のマリアージュを楽しめる〈和牛焼肉 KIM 茅場町〉

茅場町駅から徒歩3分。
野村不動産グループが展開する商業施設・GEMS茅場町の最上階にあるのが「和牛焼肉 KIM 茅場町」

白金高輪駅のすぐ近くに本店があり、2018年に2号店として、ここ茅場町店がオープンした。

KIMでは老舗の仲卸が厳選した極上の牛肉を1頭単位で仕入れている。
脂がしつこくなりがちな去勢牛ではなく、値段の高い雌牛のみ、しかもじっくりと丁寧に肥育されたものだけを扱っている。それゆえ、あっさりとした脂の質や赤身の深い旨味といった、雌牛ならではの味わいが特徴だ。
そんな最高の素材を部位ごとの状態を見ながら、丁寧に包丁を入れていく。素材にも扱いにもこだわった素晴らしい焼肉を食べることが出来るのだ。

ただし、このKIMには裏の顔がある。
通いつめた一部の常連達からから、なんと「パン工場」と呼ばれているのだ。

一般的に焼肉屋の炭水化物といえば、お米がメインというのが定説だが、ここ、パン工場は違う。その名の由来となるパンを食べることが出来るコースが存在するのだ。
料理長が「ハマってる」と言う小麦粉の世界は奥が深いようで、訪れる度に新作のパンが登場する。言うまでもないが、料理長の吉田さんは焼肉マニアからリスペクトを込めて「ジャムおじさん」と呼ばれている。

ジャムおじさんのパンに懸ける思いは強い。試食を繰り返して選んだ小麦粉は小麦本来の香りがしっかりと感じられる。そして、スタッフが牛肉の仕込みをしている傍らで、ジャムおじさんは一心不乱に小麦粉をこねる。

その日のお客の顔を思い浮かべ、パンにあわせる牛肉をイメージしながら、力を込めて小麦粉に向き合っているのだ。
練り込んだ小麦粉を発酵させるために待つ時間は、恋人からの連絡を待つ時間に似ているのかもしれない。
「まだか、まだか」とソワソワしながら、パンの生地が仕上がるのを待つのだ。最後は、店長の許可も得ずに何種類も買い揃えたパン型で、専門店さながらのパンを焼く。
今回は、ジャムおじさんの強烈な思いが詰まった「おまかせコース」で、肉バカが過去に遭遇したパンをいくつか紹介したい。

豊富なレパートリーが存在するのがハンバーガーだ。

仕込みで出てくる端肉をふんだんに使った極上パティのハンバーガー
薄切りにしたミスジやザブトンの焼肉を挟んだ焼肉バーガー
ヒレカツをサンドしたヒレカツバーガー

といった具合に、どれもこれも叫んでしまうほど衝撃的な美味しさ。
特に小麦の香ばしさが口の中に広がるバンズは、どんなグルメバーガーのそれをも凌ぐクオリティと言っても過言ではない。
ランチタイムにハンバーガーの販売を再三に渡ってお願いしているのだが、ジャムおじさんはいっこうに首を縦に振ってくれない。

焼肉屋の最高の牛肉を使用したビーフカレーを包んだカレーパン。

一口食べれば、凝り性のジャムおじさんがカレーのスパイスにもこだわっているのがよく分かる。鼻に抜ける香りが心地よく、それを牛肉がまろやかに包み込む。
また、揚げたてでアツアツのパンは、もっちり感があり、その旨さと言ったら筆舌に尽くし難い。
子供の頃から数多くのカレーパンを食べてきたが、あっさりと過去最高の称号を持ち去るほどのインパクト。

立方体のパンを切り分けると、なんと中身はビーフストロガノフ。

じっくりと煮込まれたビーフストロガノフは和牛のコクがしっかりと感じられ、パンとの相性も抜群。
いや、香ばしさとサクサクの食感があわさったこのパン無くして、このメニューは成立しない。

ここまでパンを焼けるのだ。当然の如く食パンも存在する。

ビーフシチューのお供に添えられた食パンは、焼き立てならではの香ばしさを放ち、旨味が凝縮したビーフシチューを見事に受け止めてくれる。

ハンバーグに添えられているのはガーリックトースト風のバケット。

粗挽きの極上ハンバーグの野性味あふれる旨味と一緒に食べると、相乗効果でパンの旨味まで増す。

皮はフワフワモチモチ、餡はもちろん和牛。

コンビニのレジの横に常駐している肉まんはもちろん、中華街の通りで売っているような、セレブ肉まんをも圧倒するクオリティが実現している。

また、ジャムおじさんは洋食出身という、通常の焼肉屋の料理長とは違った経歴の持ち主。だからこそ、全てのパンを焼くだけでなく、牛肉料理全般が手の込んだ丁寧な仕上がりなのだ。

例えば、ビーフシチューのような煮込み料理は前日どころかそれ以前から黙々と仕込んでおり、細部にわたってハイクオリティを感じさせてくれる。それ以外にもパスタや饂飩といった麺類も当たり前のように手打ちで作っている。

こういったジャムおじさんのスペシャルなコースは誰でも彼でも注文できるわけではない。かといって、選ばれし一部のマニアだけのものでもない。

しっかりとお店のスタッフとコミュニケーションが取れるように通えばよいのだ。
通常のコースを食べたり、アラカルトで食べて、KIMのベースとなるものを気に入ってから、スペシャルなコースをお願いすればよいのだ。

それはお金の問題ではなく、お客とお店の信頼関係があればこそ、ジャムおじさんは全力で小麦粉をこねてくれる。

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小池克臣

こいけ・かつおみ●1976年、神奈川県横浜の魚屋の長男として生まれたが、家業を継がずに肉を焼く日々。焼肉を中心にステーキやすき焼きといった牛肉料理全般を愛し、さらには和牛そのものの生産過程、加工、熟成まで踏み込んだ研究を続ける肉の求道者。著書に『No Meat,No Life.を実践する男が語る和牛の至福 肉バカ。』がある。
公式ブログ「No Meat, No Life.」→ http://d.hatena.ne.jp/BMS12/

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