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熱帯雨林の中で溶けていった、生への執着と時間の感覚【猫沢エミ×小林孝延・往復書簡6】

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 そのことを踏まえて猫沢さんからの質問「魂は存在するのか?」について答えるとするならば、いわゆる死を迎えたときに肉体から離れて浮遊する「魂」のようなものの存在には僕はあまりリアリティを感じないのですが、肉体という乗り物ボートを乗り継いでいる生命の根源みたいなものは確実に存在している。もしかしたらそれを魂と呼ぶのではないかなと。だから、僕の先祖の魂は僕の中に包含されていて、ときどきそれが、遠い記憶のように呼び起こされたり、脳のなかで信号を発してそれが言葉のように聞こえてきたりするのではないでしょうか。魂とは、僕たちの祖先が遺してきた無数の生と死の細胞レベルの記憶の蓄積で、それが僕たちの体の中をエネルギーとして循環し続けているのかなあ。
 でも、むかしどこかの国の博士の実験で、人間が死ぬと魂の重さの分だけ体重が軽くなるが、他の動物たちにはそんな現象は起きなかったという結果が出たという話もあるとか。科学的根拠はない話らしいですが、さっきの人間だけを自然界の中で特別扱いするという話のように、結局そうなるのは人間だけに与えられた「想像力」のせいかもしれません。魂という概念を作り出し、生と死の意味を考えるのは、人間が自らを自然界の一部として意識しつつ、同時にそれを超越しようとする存在だからなのかもしれません。
 ちょっとなんか今回の僕は語っていることが壮大だな! ぜんぶアマゾンのせいだ!

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 というわけで最後にアマゾンらしい質問を投げかけてみようかな。猫沢さんは死ぬのは怖いですか? 僕は死ぬのは怖くないけど、死に至るプロセスが怖い。痛かったり、苦しかったりするのは嫌だなと。子供みたいな意見ですかね。だから、その辛いところさえなければ怖くはない。人生もう十分やり切ったかなあという思いもあるし。ゆっくり無になるのも悪くはないかな、なんて思います。死後の世界の存在をどう考えるのか?によってもこの問いに対しての答えは変わってくるのかもしれませんね。

 今、空には無数の星が輝いています。アマゾンに届いた猫沢さんからの手紙には叔父さんが天文学に詳しいという話があったり、なぜか今回は不思議なシンクロを感じています。手紙を書く手を止めて、南十字座を探してみましたが、そうと思しき星座の近くにも十字に見える別の星座があってよくわかりませんでした。
 南米の奥地でもソーラーシステムで電力がまかなわれ、スターリンクでWi-Fiが飛んで世界と繋がるなんて本当に不思議です。もしかしたら魂とも電気信号で交信できたりする時代がそう遠くない未来にあるのかもしれませんね。
 おっと、気がつけばもうすぐ夜明けです。そろそろ蓄電された電気がエンプティになり、ここは完全に世界との繋がりがシャットダウンされ、ジャングルだけで完結された世界に戻ります。僕も今日こそは今回の旅の最大のターゲット、巨大ナマズを手にしたいと思いますよ! ではまた!  

 夜明けのアマゾンより 小林孝延

追伸:パリのムーンボウの写真への返歌的なイメージでアマゾンの夜空をお届けします。何時間でも眺めていられる。普段スマホばっかり見てるからなあ、視力回復にもいいと思います(ロマンチック度数ゼロ)。

次回、猫沢エミさんからの返信は2/22(土)公開予定です。

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猫沢エミ

ねこざわ・えみ
ミュージシャン、文筆家。2002年に渡仏、07年までパリに住んだのち帰国。07年より10年間、フランス文化に特化したフリーペーパー≪BONZOUR JAPON≫の編集長を務める。超実践型フランス語教室≪にゃんフラ≫主宰。著書に『ねこしき 哀しくてもおなかは空くし、明日はちゃんとやってくる。』『猫と生きる。』『イオビエ』『猫沢家の一族』など。
2022年2月に2匹の猫とともにふたたび渡仏、パリに居を構える。

Instagram:@necozawaemi

小林孝延

こばやし・たかのぶ
編集者。『天然生活』『ESSE』など女性誌の編集長を歴任後、出版社役員を経て2024年3月に独立。インスタグラムに投稿したなかなか人馴れしない保護犬福と闘病する妻そして家族との絆のストーリーが話題になり2023年10月にそれらの内容をまとめた書籍『妻が余命宣告されたとき、僕は保護犬を飼うことにした』(風鳴舎)を発表。連載「とーさんの保護犬日記」(朝日新聞SIPPO)、「犬と猫と僕(人間)の徒然なる日常」(福井新聞fu)。現在は元保護犬1+元野良猫4と暮らす。

Instagram:@takanobu_koba

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