よみタイ

今日も明日も、動画のネタ探しは終わらない 【第10回 息切れしがちのユーチューバー】

一人旅、一人暮らし、ソロ活。
縛られず、気兼ねなく過ごせる一人の時間は自由気ままで、得難い魅力があります。
一方で、孤独死、孤食、ぼっちなど、「一人」に対して、否定的なイメージがつきまとうことも否めません。
家族関係も多様となり、ネットやオンラインで会わずにつながる関係性も行きわたった昨今、一人=孤独というわけではないにもかかわらず…。
隣に誰かがいても、たとえ大人数に囲まれていても、孤独は忍び寄ってくるもの。
『負け犬の遠吠え』『男尊女子』『消費される階級』『ひのうえうまに生まれて 300年の呪いを解く』など、数多くの著書で時代を掘り下げ続ける酒井順子さんが、「現代人の孤独」を考察します。

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ユーチューバーという職業

え・たんふるたん
え・たんふるたん

 子供の将来なりたい職業ベストテンに「ユーチューバー」が入っている、というニュースに驚いたのは、二〇一〇年代の後半だったかと記憶しています。
 大人達は、
「なんでそんなものになりたいわけ?」
 と驚いたものですが、ユーチューバーという職業は、その後どんどん存在感を増していきました。芸能人の熱愛の相手として、「ユーチューバー」という肩書きの人が登場するようになっているのを見れば、時代の変化を感じざるを得ません。
 今となっては、ユーチューバーに憧れ、「なりたい」と思う子供達の感覚が、少し理解できるようにもなりました。ユーチューバーやVチューバーが、小学生の将来なりたい職業の上位に入ることは、もはや当たり前のことにもなっています。
 私は、寝る前にYouTubeを見るのを楽しみにしています。質の高い睡眠や目のためには、寝る前に液晶画面を見るのはよくないと言われても、ついつい見てしまう。
 YouTube視聴の前には、読書をしています。読書もまた楽しいのですが、「読む」と「見る」とを比較すると、労力的には「読む」の方が、やや高い。さらには業務のための読書をしている場合も多いので、仕事のあとのお楽しみとして、YouTube視聴というデザートを、つい自分に許してしまうのです。
 犬猫などの動物系、料理系に大食い系、旅行系にアウトドア系、キャビンアテンダントの日常にASMR等々、私が好きな動画のジャンルは様々。それぞれのジャンルに好きなユーチューバーがいるのであり、新しい動画がアップされると、「おっ」となって、いそいそと視聴。好きなユーチューバーの動画は、つらいことがあった時には、そのつらさを忘れさせてくれるのでした。

もっと素材が必要かも

 時にふき出したり、じーんと感動したりしながら見るYouTubeですが、一方では動画の制作者に対して「大変だろうな」という気持ちも抱くものです。
 たとえば、旅系。私が好きなユーチューバーは一人旅の様子を動画にしているのですが、その人は本当に一人で旅をしているので、街を一人で歩いている様子も、一人で食事をする様子も、すべて自分で撮影しなくてはならない。
 どこかにカメラを設置して、撮影オン。その前を、いかにも旅の途中っぽい様子で歩いたら、またカメラまで戻ってきて撮影オフ。……という行為を、その人は繰り返しているはずです。自分がホテルの部屋から出て行く様子も部屋の中から撮影しているので、カメラを設置して撮影オンしたら部屋から出て行き、もう一度鍵を開けて戻ってきて、カメラ回収。……ということもしていると思われる。
 そんなことをしながら旅を味わうことができるのだろうか、と私は思うのでした。食事の時も、撮影。買い物の時も、撮影。「もっと素材が必要かも」と思うと、のべつまくなしに撮っておきたくなることでしょう。
 旅系ユーチューバーは、旅が大好きだからこそ、その様子を皆にも見せたくて、動画制作を始めたのだと思います。が、撮影しながらの旅を重ねるうちに、「これは果たして旅と言うことができるのだろうか」という疑問も生じるでしょうし、旅そのものが重荷にもなるのではないか。ホテルの部屋から出ていく姿を撮影した後、もう一度部屋に入ってカメラを回収している時、旅への愛が深ければ深いほど、「何をしているのだ、自分」と思うに違いない。

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新刊紹介

酒井順子

さかい・じゅんこ
1966年東京生まれ。高校在学中から雑誌にコラムを発表。大学卒業後、広告会社勤務を経て執筆専業となる。
2004年『負け犬の遠吠え』で婦人公論文芸賞、講談社エッセイ賞をダブル受賞。
著書に『裏が、幸せ。』『子の無い人生』『百年の女「婦人公論」が見た大正、昭和、平成』『駄目な世代』『男尊女子』『家族終了』『ガラスの50代』『女人京都』『日本エッセイ小史』『老いを読む 老いを書く』『松本清張の女たち』『ひのえうまに生まれて 300年の呪いを解く』の他、『枕草子』(全訳)など多数。

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