よみタイ

群ようこ「いかがなものか」
ふだん何となく思っていながらも保留にしがち、あるいは言い切れないこと。
世間で起こる事件、流行、事柄、町で見かけたことなどについて、
違和感と疑問をスパッと投げかける。
群ようこ流、一刀両断エッセイ。

第13回 占い

 若い頃は占いに興味があったが、最近は当時の十分の一くらいの興味しかない。当時は健康運よりも恋愛運のほうが気になり、雑誌に占いが載っていたら必ずチェックしていたし、年末に発売される、翌年の運勢が載っている雑誌もよく買っていた。
 私を書く仕事に導いてくれた友人の編集者は、趣味で個人のデータを集めて占星術をやっていて、現在はプロとして仕事をしている。彼女は私のホロスコープを作ってくれて、私に彼氏ができない理由を、
「恋愛を司る金星に悪い影響を及ぼす土星が、ぴったりくっついていて、どこにも動けないから当たり前ね」
 といった。私が、ああ、なるほどとうなずいていると、彼女は続けて、
「恋愛運がいいからって、いいことばかりじゃないから」
 と慰めてくれた。男性との出会いが多いということは、それによってトラブルに遭う可能性も高く、必ずしも幸せになれるわけではないのだといった。
「そんなことよりも、幸運の大三角形を持っているのだから、安心しなさい」
 ホロスコープは円を十二等分し、その人が生まれたときに運行していた星の配置を記入する。どの星だったか忘れたが、そのうちの三つで正三角形が作られているのだそうだ。
「私が何千人ものデータを持っているなかで、この正三角形がある人は三人だけだったのよ。あの○○さんも△△さんも、持っていないんだからね」
 彼女は超有名でベストセラーを次々に出している作家の方々の名前を挙げた。はあ、そうなのかと掌を見ても、正三角形がそこに描かれているわけでもなく、私としては実感はなかった。それ以来、彼女に不満や不安を話しても、
「何いってるの、あなたにはあの幸運の大三角形があるんだから平気よ」
 と笑われている。まあ、たしかに運だけはいいと自覚はあるので、ありがたいことである。
 私が占いにほとんど興味がなくなったのは、自分の先が見えてきたからだろう。同年輩でも恋愛に興味がある人は、占いの恋愛運が気になるだろうし、お金を増やしたい人は金運が気になる。私はしいていえば、健康運以外には興味がない。それも熱心に占いをチェックしているわけではないので、情報はほとんど持っていないのである。
 占いに深い興味を持つのは、将来に対して貪欲な夢や希望を持っている人か、自分で何も決定できない、あるいは決定するのが怖い人なのだと思う。しょせん決めるのは自分なのだから、占い師の占いを参考にするのはいいけれど、それがすべてになってしまうと、ちょっと違う。よく占い師に騙されて高額なお金を支払わされたという話を聞くが、そこまでのめりこんではだめだし、そういった金額を求める占い師はろくでもないと思う。
 そんな私でもずいぶん前に買ったタロットカードは、捨てずに持っている。何か事が起きたときに、この状況はいったいどんなもんかなあと見てみる程度で、それによって私の行動を考え直すというようなものではない。本来の占い方とは違って、自分なりのやり方でやってみると、どんな結果が出るのかと面白がっている。母親が病気で倒れたとき、二十二枚の大アルカナというカードのうち一枚だけを引いて、そのカードの意味を読むという自分なりのやり方をしてみたら、「女帝」のカードを引いた。各カードの意味が書いてある本の切り抜きを見ると、「母性、包容、豊穣、慈しみ」とあって、ちょっとぎょっとした。また近年、弟との修復しがたいトラブルが発生し、同じような方法で弟を対象にしてカードを引いてみたら、そのたびに「死神」のカードが出た。意味は「破局、離別、損失、絶交、転機、不運な巡り合い」で、
「ああ、やっぱりね」
 とつぶやいたりした。

 こんな私でも、朝起きてテレビで今日の運勢を放送していると、いちおう自分の星座を見てみる。ほとんど占いを信用していないのに、自分のランクが低いと、面白くないのである。私は家で仕事をしているからいいが、これを見て出勤する人は、せっかく働く気になっているのに、
「今日は最下位」
 となったら、テンションが下がるだろう。また自分がいいときには誰かが悪いわけで、この占いは、毎日、テンションが下がる人を作り出しているのだ。
 これって本当に当たるのだろうかと、他のテレビ局の占いを見てみると、まったく正反対の結果だったりする。占いなのだから、順位に多少の差はあっても、運のいいときはどの局の占いもよく、悪いときは同じように下位というのが当たり前なのだが、これがまったく違う。占いの方法が違っても、ほぼ結果は一致するはずなのにそうではないのである。
 テレビ局四局で放送されている占いが、どれだけ一致するのかを、私の星座、射手座で三十日間調べてみた。生まれ月で占っている局がひとつあり、そこは十二月で判断した。土日の週末の占いをしている局もあったけれども、四局揃う占いが月曜から金曜なので平日に統一した。また順位をつけていない局があったが、金運、恋愛運、仕事運、健康運、それぞれ満点が五ポイントなので、その合計の数によって、私が順位をつけた。
 四局とも一致したのはゼロ。三局一致が二回。そのうち一回は三局が二位で、一局が九位と離れていたが、もう一回は三局が四位で一局が五位ととても惜しかった。二局一致のワンペアが十八回、二局ずつ一致したツーペアが一回、四局ばらばらだったのが九回だった。ほぼひと月で、一致がゼロというのは、ちょっと情けない。順位をつけている以上、完全に一致しないと、その日の運勢が当たったとはいえないだろう。一致したとして、それが私の運勢をいい当てていたかどうかは疑問であるが。私の記憶では今までに、
「当たった」
 と思った日は一日もなかった。その日のその人の運勢はひとつなのだから、一致しないとおかしい。しかし実際はそうではなかったのだ。
 二〇一九年、雑誌などに載っている星占いを見たら、射手座は二〇一八年から続いていた好調が最高潮になる年と書いてあった。一昨年、同じ射手座の男性に会ったら、会社にとてもよく当たる占いをする女性がいて(ちなみに彼女も同じ射手座)、彼女に、
「これから三年間は絶好調ですよ」
 といわれたという。
「よかったですね。やっと僕たちは苦難のトンネルから抜け出られるようです」
 と彼はほっとした顔で教えてくれた。彼は深い悩みを抱えていたのかもしれない。それはよかったと喜んでいたら、他の占星術ではない占いでは、私の二〇一九年の運気はよくないようだと、その占いで同じ星回りの友だちが教えてくれた。
「私の絶好調はどこへ?」
 である。
 世の中にある様々なジャンルの占い師の方々は、自分たちの占いが他の占いと一致しないことをどう考えておられるのだろうか。私のホロスコープを作ってくれた友人の占い師は、占いは統計学のひとつだといっていた。ホロスコープは一人にひとつで、それが制作する人によって違うということはありえないので、彼女が作ってくれたものは、私の人生の傾向を示すものとして信じているが、毎日、毎月の運勢に関しては、当たっていても当たっていなくても、どうでもいいと思っている。占い師がそういっているからそうなるのではなく、いつでも自分や周囲の人を含め、悪いほうに向かわないように、自分で気をつければいいだけのことだ。それに最近の私は、テレビで占いの結果を見たとしても、すぐに忘れてしまう。今日、自分は何位だったかも覚えていない。だから私にとってはたいしたことではないのだろう。
 しかしこんなに一致度の低いものを延々と続けていていいのだろうかと私は首を傾げた。すべて一致していたら、四局がやる必要もなく、一局だけやっていればいいのだけれど。一致度が低いと、ある局の占いの結果が悪かった人が他局の占いを見て、順位が高いと安心するという利点はある。三局がビリでも一局が三位だったら、ちょっと気分もよくなるはずだ。精神的な逃げ場ができるのだ。そうなると視聴者にとっては、占いは一致しなくていいということになる。
 占いを気にして見ている人たちは、今日の自分の運勢がいいことを期待している。いつも観ている番組の占いの結果がよくなくても、がっかりする必要はない。結果が一致しないおかげで、他の局の占いを見ると、悪いなりにどれかはましな結果になっているからだ。
「悪い占いは忘れ、複数の占いのなかでいちばんいい占いを信じる」
 各局の一致しない占いを調査した結果、きっちりとすべてが当たるよりも、こちらのほうが占いの結果の選択肢が増えて、がっかりする確率が低くなる。様々な方法での占いの結果が一致しないことも同様で、それに対してはちょっと不満だったが、そのほうが精神衛生上よいのだと、私は納得したのである。

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群ようこ

むれ・ようこ●1954年東京都生まれ。日本大学藝術学部卒業。広告会社などを経て、78年「本の雑誌社」入社、84年にエッセイ『午前零時の玄米パン』を刊行。同年に同社を退職し、専業作家となる。小説に『無印OL物語』などの<無印>シリーズ、『かもめ食堂』『婚約迷走中 パンとスープとネコ日和』『咳をしても一人と一匹』『散歩するネコ れんげ荘物語』、エッセイに『ゆるい生活』『欲と収納』『よれよれ肉体百科』『かるい生活』『まあまあの日々』『還暦着物日記』『この先には、何がある?』『じじばばのるつぼ』、評伝に『贅沢貧乏のマリア』『妖精と妖怪のあいだ 評伝・平林たい子』など著書多数。

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