2025.12.1
出る出るって、出るわけないやろ!「空木平避難小屋」が見つめてきた、さまざまな悲劇【山の名&珍プレイス 第1回後編】
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8月の夜、何が起きたのか、起きなかったのか?
以下は僕がある年の8月に宿泊したときの様子だ。空木岳にも登ったものの、この小屋に泊まることをひとつの目的としていたこともあり、早めに行動を切り上げて到着。入口から見て左奥を自分のスペースとして確保する。こういう小屋に遺体を安置する場合、遺体の移動に手間取らない入口付近か、反対にいちばん奥の目立たない場所を利用することが多いと聞いたことがある。僕のスペースにもおそらく遺体が置かれていたことはあるに違いないが、気にしていても仕方がない。少しすると次第に他の登山者が到着し、その日は計7~8人が同宿することになった。

空木平避難小屋の収容人数は20~30人とされているが、自分の荷物を広げつつ余裕をもって眠れるのはせいぜいその半分程度だろう。だから、これだけの人数がいれば小屋内はわりとにぎやかで、少なくとも大半が起きている間はまったく怖さを感じない。とはいえ、夜が訪れれば静粛そのもの。小さな音でも耳に入ってくる。霊的な現象を信じていないにもかかわらず怪奇話が大好きな僕は、もしかしたら初の怪奇現象に遭遇し、これから長いこと使える話のネタを得られるのではないかと期待していたのだが……。

結論から言えば、この日の夜は怪奇現象とは無縁。乾燥した木材が発するラップ音のようなものすらなく、拍子抜けした。朝起きると僕の隣に就寝前にはいなかったはずの若い男が寝ていたのにはびっくりしたが、これはたんに真夜中に到着した人だった。ちょうどその日は真夜中でも走り続ける山岳耐久レース「TJAR(トランスジャパンアルプスレース)」が行なわれており、小屋よりも高い位置の登山道がコースになっていた。要するに、そのレースを見物にしに来た人だったのだが、よくもこの恐ろしい小屋まで深夜に歩いてきたものだ。

こんないわくつきの小屋には無理に泊まる必要はない。近くには管理人がいる駒峰ヒュッテもあるのだ。しかし「避難小屋」という名称通り、空木平避難小屋は悪天時や体調が思わしくないときに休憩するのにも有用だ。とはいえ、しとしとと雨が降る薄暗い日や、真っ白な霧で視界が効かないようなとき、たとえ昼であってもひとりでここに長居することはできるだろうか? これまでに心霊体験をしたことがないからか、怖いことへの憧れすら持っているような僕でも、できればやめておきたい気がする。
しかし、積極的に怪奇現象を楽しみたいという奇特な人は、ぜひ気象条件が悪いときを狙って一度は泊まってみていただきたい。管理協力費としてひとり1000円は支払う義務はあるものの、ホラー映画を見に行くよりも安く、リアルな体験ができるかもしれない。

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次回、連載第2回は1/4(日)公開予定です
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