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四十二歳にして迎えたDV親父への反抗期 

 ちょっとだけイイ感じのおじさんになることを目指し、美容と健康に興味を持ち始めた私だが、よくよく考えてみれば、きっとこれは四十二歳にして迎えた親父への反抗期なのだ。子供の頃に親父から植え付けられた呪い。「どうせ俺なんて……」とすぐ自虐に逃げてしまう性格こそが一番の呪いなのだ。「家が貧乏だったから」「ブサイクだから」「親父が怖かったから」なんてことを理由にして安易な自虐に走るのは一旦やめにしよう。つらかったことをちゃんとつらいと言わず、無理に笑い話に変えることは、とてもダサいことなのかもしれない。

 時は来た。今こそ親父に仕返しをする絶好のチャンスだ。積年の恨み、見事に晴らしてみせましょう。
 フェイスパックをしてニッコリと微笑む姿を自撮りし、その写真をLINEで親父に送りつける。既読がついてすぐ「なんやこれ?」と至極真っ当な返信が届く。
 育ててもらった恩は一生忘れない。でもあんたがやったことの全ては許されないことなんだよ。その事実を真正面から受け止めるのが怖かった私は、悲劇を喜劇に変えて生きていくしかなかったんだよ。
 あんたも八十が近い爺さんだ。今さらそれを責めやしないよ。だから、こうやって綺麗になろうとしている息子の姿を無言で送り続けてやる。これが私の復讐なんだ。あれだけ好き放題殴ったんだから、これぐらいの仕返しは甘んじて受けて欲しいもんだね。

「なんや? いったいなんや?」と慌てふためく親父のメッセージを読みながら、私は顔のパックを勢いよく剥ぎ取る。
さあ、復讐はフェイスパックのかぐわしい香りとともに、華麗にポップに参りましょう。

(イラスト/山田参助)
(イラスト/山田参助)

当連載は毎月第2、第4日曜更新です。次回は10月23日(日)21時配信予定です。お楽しみに!

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爪切男

つめ・きりお●作家。1979年生まれ、香川県出身。
2018年『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)にてデビュー。同作が賀来賢人主演でドラマ化されるなど話題を集める。21年2月から『もはや僕は人間じゃない』(中央公論新社)、『働きアリに花束を』(扶桑社)、『クラスメイトの女子、全員好きでした』(集英社)とデビュー2作目から3社横断3か月連続刊行され話題に。
最新エッセイ『きょうも延長ナリ』(扶桑社)発売中!

公式ツイッター@tsumekiriman
(撮影/江森丈晃)

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