2025.1.24
2026年には水星からリアル配信が見られるかも? 計画実施まで21年かかったJAXA「みお」の水星探査
この連載では、独立行政法人理化学研究所、NASAの研究員として研究に携わった経験と、天文学分野で博士号を取得した知見を活かし、最新の宇宙トピックを「酒のつまみの話」になるくらい親しみやすく解説します。そして、宇宙と同じくらいお酒も愛する佐々木さんが、記事にあわせておすすめの一杯もピックアップ。
今回は長い時を経て、今まさに水星を目指しているミッションについて。日欧共同プロジェクトという点でもユニークなこのミッションの目的、そして少し地味なイメージすらある水星を目指す理由について解説。
第30回「水星探査」のはなし
記事が続きます
水星を探査することで、太陽系の謎に迫る!
最近は、宇宙が誕生してすぐ後の世界の信号を捉えることができたとか、ちょっと前までは考えられないようなアプローチの研究が出てきて「宇宙全体について解像度が上がってきている」と実感することも多くなりました。
ただ、実際はまだまだわからないことだらけです。宇宙全体どころか、太陽系の中のこともよくわっていないのが現状です。太陽系はどうやってできたのか――今、私たちは地球に住んでいるけれど、どうやってこの環境ができてきたのかもわかりません。
そんな中、太陽系の一番内側を公転している水星を探索するミッションが2018年10月に打ち上がりました。今、まさに探査機が水星に向かっているところです。
今なぜ水星にいくのか? 今回はJAXA責任者の話も交えて紹介していきたいと思います。
今回紹介したいのが、日欧共同の国際水星探査ミッション「ベピコロンボ」です。
「ベピコロンボ」は実は総称で、日本と欧州、それぞれのミッション2つが組み込まれていて、水星に到着する時に分離してそれぞれの仕事を進めていくという一風変わった仕様になっています。
この水星探査は、日本側のJAXAが手がける水星磁気圏探査機「みお(MMO)」と、ヨーロッパ宇宙機関(ESA)の水星表面探査機「MPO」の協力体制で実施されます。簡単に言えば、水星の周辺の空間を捉えて観測するのが「みお」で、水星の表面を観測するのが「MPO」になります。
この2つのミッションが組み込まれた「ベピコロンボ」では、水星の特殊な状況を解明しようとしています。それは、太陽系の中で太陽の一番近くに位置し、常に太陽からの強い放射物に耐えているという状況です。
太陽に最も近い水星は、太陽から放射される光の強さが地球の10倍にもなり、不安定な磁気にも晒されています。オーロラの原因でもあるこの放射の影響を強く受けている水星周辺は、一体どんな環境になっているのかまだわかっていません。この未解明の謎に取り組んでいくわけです。
これまでの宇宙に向けたミッションは、総じて計画から実行までの時間が非常に長いことが特徴です。研究者らが科学的な課題を基にプロジェクトを計画し、それをJAXAやNASAなど大きな機関の審査に何度も通すので、実際にミッションを実行へ移すまで10年かかることもあります。
その中で、今回の「みお」はなんと構想から打ち上げまで21年も経過しているんです。これはJAXAの探査機の中でも、史上最長となった大型プロジェクトです。
21年となると、プロジェクトの立ち上げ当初に在籍していたメンバーも定年退職や異動、転職で入れ替わることも多いでしょう。それだけ世代を超えて大切にバトンをつないできた、大きなプロジェクトと言えます。実際に2020年からプロジェクトマネージャーに就任されている小川博之さんは4代目だそう。
時代もどんどん変わり、宇宙開発のスピードは民間が関わりながら加速しています。これからのミッションではもうここまで長い期間かかるものは現れないかもしれません。だからこそ、この「みお」の行く末を見守りたい気持ちも強くなります。
記事が続きます