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鈴木涼美「アラサー女がそんなことで喜ぶと思うなよ」
めでたく30歳を過ぎた鈴木涼美がおくる「アラサー女性論」。30代になった女が失うものは? 得るものは? なにかが変わるのか? 時代を鋭く読み取る元セクシー女優にして社会学者の気鋭のコラム。

女性活躍社会の不都合な真実〜キャッチコピーの女は電気椅子で夢を見るか

生理に対する偏見が強いせいもあって、正しい知識や安全なアイテムが普及していなかったインドで、周囲の好奇の目にも負けずに安価で安全な生理ナプキンの普及を進めただけでも偉いのに、そのシンプルな製造工程とわかりやすいビジネスモデルを紹介することによって、各村の女性に仕事と自立する自由まで与えた、実在する社会起業家をモデルにした映画が話題になっているというので、友人たちと連れ立って久しぶりに渋谷のシネクイントまで観に行った。

そして彼の不屈の精神と、努力を惜しまない姿勢、単純で愛に溢れた動機に感動し、私たちは一筋の涙を流し、エンドロールが終わっても心がじんわり温かかった…

どうして女性の活躍を死ぬほど後押しした男が…

…わけなど勿論ない。

映画ファンに中指立てるつもりも元気もないが、そうそう温まるほど私らのハートは柔らかくない。

彼の立派な人柄と成功に一筋の涙くらい流したかもしれないが、その一筋くらいは紛れて消えてしまうほど私たちは滝のような涙で号泣していた。

正確にいうと、私を含めた4人の仲間のうち、1人の男性は普通に彼の素晴らしい事業に感涙していて、残る3人の女は残酷すぎる現実を突きつけられてショック死寸前のところで神にすがって泣いていたのだ。

どうして女性の活躍を多方面から死ぬほど後押しした男が、何の知識もキャリアも働く気もない、若くしてお見合いしたっていうだけの、顔が可愛くて考えが古臭くて生理のことも彼の事業もなーんも理解していない女を愛し続けているのだ、と。

正直、男が彼女のようにイノセントでピュアで無知で、簡単にいうと可愛くてバカな女を選ぶことなんて私達はもうよく知っているし、軽めの絶望とともに微笑ましく見ている。

でも、何も女性にきちんとしたナプキンと仕事をプレゼントして、自分の欲望よりも女性の自立と幸福のために生涯を投じるような、女性活躍社会のマザーテレサみたいな人が、自分に協力的で知的で美しい女を捨てて、バカで可愛い嫁の元に帰らなくても。

つまり女性の自立を助けた彼は、インド社会に自分が選ばないタイプの女を大量生産したことになる。

医学部の不正入試とはちょっと違う、女性が輝く社会とやらの本当の歪み

彼の起こした事業の方向性は、現状のグローバル社会では圧倒的に正しい。

私もまた一部の医学部などを除いて基本的には正しい社会で正しく育てられ、生理中に汚い布を使うことなく、安くて安全なナプキン敷いて仕事を続け、暴力をふるう旦那から逃げられずに苦しむことなく自立し独身で逞しく生きていける。
高度に教育され、稼ぐ手段を得て自立し、女性のハンデともいえる身体の周期とも前向きに付き合い、賢く育ってものが言える。女性が輝く社会のキャッチコピー通りに正しく生きている。

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鈴木涼美

すずき・すずみ●1983年東京都生まれ。作家、社会学者。慶應義塾大学環境情報学部を卒業後、東京大学大学院学際情報学府の修士課程修了。大学在学中からキャバクラ嬢として働きだし、20歳でAVデビュー、出演作は80本以上に及ぶ。2009年から日本経済新聞社に勤め、記者となるが、2014年に自主退職。女性、恋愛、セックスに関するエッセイやコラムを多数執筆。
公式Twitter → https://twitter.com/suzumixxx

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