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鈴木涼美「アラサー女がそんなことで喜ぶと思うなよ」
めでたく30歳を過ぎた鈴木涼美がおくる「アラサー女性論」。30代になった女が失うものは? 得るものは? なにかが変わるのか? 時代を鋭く読み取る元セクシー女優にして社会学者の気鋭のコラム。

男のロマンチック体質〜メンヘラおじさんの純情な感情

「俺が変に力持っちゃってるからいけないのもある」
と、ある若めのおじさんが割と本気で落ち込みつつそんなことを言った。

頑張って積み上げた財力や権力でモテることをなぜ素直に喜べないのか

そして歯切れ悪く続ける。

「こっちだって、もちろんそういう俺と付き合うんだから、何にもお土産持たせないで帰らせるなんてしないし、美味しいもの食べさせてあげたいと思うし、タクシー代だって出すよ。
全くゼロゼロの関係じゃないと嫌だというほどロマンチックじゃない。
仕事だって力になれる部分があれば協力する。最初からそれ目当てだなってやつにはなるべく手を出さないけど、そのうち俺と付き合ってるんだからこれくらい当たり前ってなっていくよね。そうすると、そもそもそういう生活したいから、とか、仕事にもプラスになるから付き合ってたんだろうなって思っちゃうし、感謝されたいわけではないけど、うーん。なんかバカらしくなっちゃうんだよね」

最近、若いモデルだかアイドルだかよくわかんないやつと別れたという、さらに若めのおじさんもこんなことを言っていた。

「好きな子に何かしてあげたいとは思うけど、それが付き合う目的になっているとしたら、冷めるよね」

モテ関数において、顔や若さや乳の張りなど、時間の経過とともに失われがちな要素が重要な変数となる女と違って、学歴やお金や肩書きなど、時間をかけて積み上げられるものが多い男はいいな、と思うのだけど、おじさんたちの恋愛を見ていると、そう単純でもないなと思う。

と言うか、それらでモテるということがどれだけ幸福なことかわかってないおっさんが多い。
頑張って頑張って積み上げた財力や権力に異性が寄ってくることを素直に喜ばず、歯切れの悪い御託を並べる。

その卑屈さを捨てれば幸福はすでに手に入っているのに

キャバクラ嬢時代、最も面倒臭い客は「結局お前が好きなのって俺のお金だったんだよな」と言って病んでいくヤツだった。
いい女を高級車の助手席に乗せて、いいホテルで女の上に乗るために頑張ってきたのではないのか?
いざそれをできるだけの経済的余裕を得て、手始めに入ったキャバクラで、「この女が好きなのは俺自身じゃない。俺がここに通うお金がなかったらこの女は俺のことなんて相手にしない」と病んでしまったら、積み上げてきたモテ要素たちが泣く。

キャバクラ嬢なんてしていると、もちろん男の値踏みは冷酷で、ほとんどの場合はおべっかと営業の笑顔ではあるけど、それでいいと思って門をくぐるわけだから、おべっかと営業と、自分の名刺に色めき出す若いキャバ嬢のアホヅラを存分に楽しめばいい。
両手に巨乳とスレンダーを両方抱えてシャンパン開ける未来を一度も夢見なかったわけではないだろうに。それで、1000分の1くらいの可能性でたまたま彼女が自分を好きになることを夢見るのもいいし、ただひたすら5万円のシャンパンでボディタッチが増えるおかしみを味わってもいい。
5万円の笑顔は5万円出さないと引き出せないし、だからこそお金というのは稼ぎがいがある。

一線を超えて恋愛になればさらに面倒臭くて、「もし俺が貧乏になったらお前は俺を捨てる」ということを言葉を変えつつ呪いのように言ってくる男は結構多い。

キャバクラで出会ったらその割合は9割で、キャバ嬢の頃に普通に出会った男でもその割合は7割で、昼職をしていて普通に出会った男でも5割くらいはいる。
「そんなことないわよー」と言うしかないし、そう言われたくて聞くのだろうが、その答えしか返ってこないのだから最初から聞かなきゃいいのに。
「人間不信だよ…」なんていう愚痴はそんな、ちょっとお金と権力のある男がどこかしらで一度はつぶやいたことがあるのだろうが、人間不信というのは、それに陥った人間ではなく、その周囲が迷惑を被る病理である。

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鈴木涼美

すずき・すずみ●1983年東京都生まれ。作家、社会学者。慶應義塾大学環境情報学部を卒業後、東京大学大学院学際情報学府の修士課程修了。大学在学中からキャバクラ嬢として働きだし、20歳でAVデビュー、出演作は80本以上に及ぶ。2009年から日本経済新聞社に勤め、記者となるが、2014年に自主退職。女性、恋愛、セックスに関するエッセイやコラムを多数執筆。
公式Twitter → https://twitter.com/suzumixxx

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