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鈴木涼美「アラサー女がそんなことで喜ぶと思うなよ」
めでたく30歳を過ぎた鈴木涼美がおくる「アラサー女性論」。30代になった女が失うものは? 得るものは? なにかが変わるのか? 時代を鋭く読み取る元セクシー女優にして社会学者の気鋭のコラム。

買春大好き日本〜「シロウト」女、上から見るか下から見るか

日本ほど、お金で売り買いする春が日常的に溢れている国も珍しいとはよく言われることだけど、売春婦、というか娼婦、というかプロの風俗嬢、というか、別に呼び方はなんでもいいのだけど、そこに対する捻れた好みがあるのもまた日本固有のガラパゴス文化なんじゃないかと思う。

今も昔も、日本の華やかな文化は娼婦とともにある

ホステス的な、色は売っても身体はそんなに売らない(ということになっている)ところまで裾野を広げれば、もはや街中でそういった場所や文言、従事している女の子を見ずに歩くことは困難。
売防法があるからこそ法の隙間に針の糸通しのように細かく、布のように広範囲にあらゆる形態が研究し尽くされ存在し、時代によって盛衰している。

最近は店舗型の各種風俗はやや影を潜めてデリバリー型主流になったとはいえ、細分化されたマニアへの配慮も行き届いており、SMに始まり、夜這い専門、痴漢電車専門などのイメクラ、スカトロOK、アロママッサージ付きなどなど、いくつもの業態が軒を連ねている。

店舗型の方は店名のシャレっぷりも冴えている。
ちなみに風俗情報誌を見るのが大好きな私が、今までで最も店名のシャレにもマニアへの配慮にも感心したのは生理中専門風俗「月経仮面」で、オススメプレイの欄の「お満月素股」の文字が頭から離れた日はほぼない。
これ、月に5日間休暇を取らざるを得ないソープ嬢とかの生理中の稼ぎ場になるため、女の子に対する優しさにも溢れた形態でもあったりする。私が高校時代に渋谷で見かけた「月に変わっておシゴキよ」という店名もサイコーだったけど、最近、20歳の男にその店の名前を呟いたら、元ネタがわからないというリアクションをとられてとても寂しかった。

小悪魔アゲハ以降、春やら色やらを売る女性がファッションリーダーとなり、SNSの隆盛を受けて、もはやAV嬢が男性だけのアイドルでなくなったことなんかが驚きとともに語られるが、思い出してみれば、花魁は呉服屋の広告塔だったわけで、別に目新しいことでもなく、華やかな日本のファッション文化は今も昔も娼婦とともにある。

シロウト風俗嬢、清純派AV女優という語彙矛盾をなぜ不思議に思わずチンコで受け止める?

さて、そんな買春天国、変態天国の国に生まれ落ちているのにも関わらず、いや、もしかしたらそんな国に生まれたからこそ(?)日本の男の人というのは、プロじゃない女、いわゆる「シロウト」女が好きである。

いや、売春婦を買うより純粋で美しい女子大生と恋に落ちたいというのは別に珍しくないというか、そりゃそうだと思う範囲なのだけど、春を買う現場にあってなお「シロウト」という文句に弱い。
だからこそ、シロウト専門風俗とか、「うちの交際クラブに登録しているのはみんなシロウトの女の子です」という、近代稀に見るほどの語彙矛盾が巷に溢れている。

女子高生売春を「援助交際」、店舗を介さない売春を「パパ活」なんて呼び、日本語の豊かさを思いっきり堪能した呼び替えもまた結構風情がある。

関係ないけど以前イギリス人のゲイのおじさんに援助交際という言葉を教えて、直訳ってなんだ、と考えてとっさにヘルプデイトとか言ったら、介護が必要なおじいさんを女子高生が手を引いて観光などをする微笑ましい光景を想像されて困った。
そいつはさらに、デリバリーヘルス(直訳すると宅配健康)という名を聞いて、らでぃっしゅぼーや的な有機野菜か何かの宅配サービスだと思ったらしい。

聞いてないけどソープランドだったら世界各国の可愛い石鹸を集めた石鹸天国みたいなお店を想像するんだろうか。
厚切りジェイソンじゃなくてもホワイと言いたくなるこの独特の隠語は、ぜひ国語の授業でディスカッションしていただきたい。

話を戻すと、つまり日本人男は世界稀に見るほど春やら色やらを買う人たちでありつつ、同時に世界稀に見るほどシロウトフェティッシュでもあるということ、要するに「シロウトを金で買いたい」ということになる。

当然、その需要に合わせて、女の子もアイアム・ノット・娼婦、アイアムパパ活嬢、と自己紹介する。
ホワイジャパニーズピーポー? 金で買えている時点でシロウトではないんだけど、なぜその矛盾に気づかない。
シロウト風俗嬢、清純派AV女優という語彙矛盾をなぜ不思議に思わずチンコで受け止める。
ホワイ?

どうしてキャリアもサービス精神も具体的な技術も上回るベテランソープ嬢より業界未経験初出勤の新人に、カメラワークに気を使った腰の振り方バッチリな大御所AV嬢より20歳の新人女優に、より高いお金を払う。
ホワイ?

「お金で買えるシロウトが好き」という大変矛盾したメンタリティは、またさまざまな好みへと発展する

魂をぶつけ合うような恋愛(したことないけど)はちょっと別だが、暇な下半身をぶつけ合う際に、相手はナンパした子や同級生や同僚ではなくて、お金で買った女がいい、というのは、

①人間的な付き合いの面倒くささがイヤ
②対等な関係がイヤ
③金を使わずに女を抱く自信がないしそんな現実を知るのがイヤ

の合わせ技なのだと思うけど、ベテランやプロっぽい人じゃなくてシロウト風味がいいというのは、

①自分より経験値や技術で上回る女はイヤ
②業界に染まった女はイヤ
③お客扱いされるのはイヤ

の合わせ技と言えそうだ。

「お金で買えるシロウトが好き」は大変矛盾した好みに見えて、単に二重の意味で女にフラれたくないし、しつこくされたくないし、バカにされたくないし、できれば対等じゃなくてこっちが威張りたいという、わかりやすい趣味と言えなくもない。

恋人同士でもセフレ同士でも、お互いがウィンウィンの関係になる必要があって、そうするとこちらが悦びを得た場合に、女を喜ばせることも考えなきゃいけないのだけど、それをオカネでチャラにできるならそれほど楽なことはない。
おじさんが教えてあげる、と上から目線で威張りたいけど、そんなの知ってるしむしろ古いとかバカにされたり反論されたくはない場合、お金を払っていればお客様だから失礼なことはされないという安心感を得られるし、業界経験の浅いシロウト女なら、例え彼女の方が専門のセックスの分野、風俗の分野においても自分の方が多少講釈垂れることができる。

しかも業界に染まりきっていないから、お金をもらっているから礼を尽くすべきという玄人的考えは持ちつつも、お金でしか人を見ないような冷たさはまだ持っていなそう。とにかく、実力のある女を対等に相手して負かすのではなく、実力のなさそうな女にはじめっから明らかに勝ちたい。

そういうメンタリティは当然、ごく自然にロリコンに変形するし、御局様より新入社員のがいいという好みに発展するし、お前のために稼いでいるんだからお前は愛嬌と色気忘れるな(→これも元ネタがわからないと言われたんだけど、かつてのシャ乱Qファンとしてはそこはどうも腑に落ちない)と言えば黙る低収入女がいいという好みにも発展する。

当然、売春の現場ですらセックスにおいて上に立たれるのがイヤなら、自分の本領発揮場所、経済界や企業や社会で自分より優位のところにいる女だって基本的にはイヤだろうし、自分がそこそこ自信を持ってる箇所(学歴とか運動とか)で上をいかれるのもイヤ。

あら、これでまたキャリアと収入と経験値のあるアラサー女のモテない理由が出来上がっちゃったわ。

知識と経験はあるけど知識と経験しかないアラサー女の遠吠え、と反論されるだろうけど

こういう話をすると必ず、いや別に俺は威張りたいとか思ってないしバカな女が好きなわけでもないし風俗行かないしとか言ってくる男がいて、その先に、知識と経験はあるけど知識と経験しかないおばさんの遠吠え…的な反論が待ち構えているのだけど、そういう男と付き合ってみると、彼の場合には特殊なところに似たようなプライドが偏っているだけだったりして(例えば映画に詳しいとか外国語が堪能だとかサブカルを知り尽くしているとか)、やっぱりその場面では女が偉そうな口をきき、結構な知識を披露すると途端に卑屈になるか逆ギレするかしてくるので、あんまり信用していない。

こうやって私たち30過ぎの女が日本でイマイチモテない理由をこうやってくどくど書いてみせても生産性がないけど、「シロウト」売春婦、その名も援交女子高生、シロウト店風俗嬢、パパ活嬢など色々いるけど、その人たちというのは、プロ意識のなさ、のようなところに存在意義があり、また好かれる理由があるのだけど、そういうイメージとは別にあるべきところまでプロ意識が欠如していて、往々にして性病検査を受けていなかったり、イソジンを持ち歩いていなかったり、避妊具装着が甘かったりするので、心地よく安心して威張る至福の時間の代償として、性器にブツブツなどできぬよう、世の殿方には是非ともお気をつけていただきたい。

イメージというのは怖いもので、シロウト感溢れる女子大生パパ活嬢よりも、百戦錬磨の吉原のベテランお姉さんの方がよほど性器に関しては清潔であります。

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鈴木涼美

すずき・すずみ●1983年東京都生まれ。作家、社会学者。慶應義塾大学環境情報学部を卒業後、東京大学大学院学際情報学府の修士課程修了。大学在学中からキャバクラ嬢として働きだし、20歳でAVデビュー、出演作は80本以上に及ぶ。2009年から日本経済新聞社に勤め、記者となるが、2014年に自主退職。女性、恋愛、セックスに関するエッセイやコラムを多数執筆。
公式Twitter → https://twitter.com/suzumixxx

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