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鈴木涼美「アラサー女がそんなことで喜ぶと思うなよ」
めでたく30歳を過ぎた鈴木涼美がおくる「アラサー女性論」。30代になった女が失うものは? 得るものは? なにかが変わるのか? 時代を鋭く読み取る元セクシー女優にして社会学者の気鋭のコラム。

間違いだらけのフェミニズム ~その男、リベラルにつき

パワハラ報道お盛んな今日この頃、世の間違った親分肌、とか、履き違えた亭主関白、とか、勘違いの無頼派、みたいな人たち、要するにそこそこ時代遅れの男の人たちが全体的に吊るし上げられているような気はする。

謎の開拓精神で最先端をいこうとるす新タイプの有害男がいる

当然、世の中にはひどい男はクソほどおりますし、でももちろんひどい男の数ほどひどい女もいるのだけど、まぁ叩かれる順番というのがあるので紳士方もそんなにブツブツ言わずにこの時代を乗り切っていただきたいと思う所存。

現に、会社員時代も「威厳ある上司」と「機嫌悪い上司」を混同しているおじさんや、ゲキを飛ばすつもりが飛ばしているのは唾だけで無意味に怒鳴り続けるおじさんなどよく見ていたので、そうした人たちが唾を飛ばさず機嫌よく生きてくれるようになるのだとしたらそれは結構ありがたいものだと思う。

さて、そういったワイルド系の有害男たちの処理は何も私がブツクサ言わなくても時代の流れと怒れる現代っ子たちが担当してくれそうなのでしばし放置して、私は私で最近大変鼻につくタイプの有害男というのがいる。

パワハラ系メンズが時代に取り残された原住民だとすると、謎なフロンティアスピリッツで最先端を行こうとする開拓民というか。

私はその人たちを「大事なのは君の意思だから」男と呼んで忌み嫌っている。

時代によって耳障りの良い言葉というのがあって、最近の耳障り語大賞ノミネート群は、女性活躍とか新しい家族の形とかLGBTとかそのあたりの言葉が目立つのだけど、そのへんの言葉を巧みに組み合わせると、大変高尚な、ガンジーとかマザーテレサ系の人間が出来上がるか、使えない男が出来上がるかのどっちかだと私は個人的に思っている。

ただし、ワイルド系クズに比べて、そういう残念バージョンの進化系クズって、否定すると時代の流れを否定しちゃうし、オーソドックスなおばちゃんフェミニストが味方していたりするし、何より本人が自分はワイルド系の呪縛を断ち切った新しい時代の正しいメンズだと思っている節があるので、ある意味時代の流れに抗って部員にケツバットしている運動部コーチとかよりタチが悪い。

脱ぐ系の仕事してることを彼に報告したときの反応ベストセレクション

先日、とあるAV女優と新大久保でカムジャタンをつつく機会があって、そこでなぜかAVでもヌードモデルでもなんでも、脱ぐ系バイトをする際に彼氏に報告すべきか否かと、その時の反応ベストコレクション、みたいな話になった。

世の中にはスワッピングパーティーに奥さんを連れていく人もいるし、ハプバーに自分の女を連れていって他の男と交わらせる男というのもいるらしいが、一般的に考えて自分の女の裸体やらエロ行為時の顔やらを、全国の童貞や下品なエロオヤジに大々的に公開したいと願う男は稀だとは思う。

だから脱ぐ系の仕事というのは彼氏に内緒でやっている人も多いし、実際私もAV女優時代にそのことを知らない彼氏というのがいた時期も少しはあったと思うのだけど、そうすると、みんなを悩ます親バレの懸念に、さらに彼バレの懸念まで加わって事態が大変ストレスフルになるので、そんなにオススメはしない。

そもそもデビュー作がVHSだった私には無縁の世界だが、こんな高度にソーシャルなネットワークが張り巡らされた時代に、デジタル音痴な親ならともかく彼氏に隠しきれるのかという問題もありつつ。

というわけで、報告するかしないかという点で基本的に意見は一致したのだけど、その際の彼氏の反応がどんなだと嬉しいか、というあたりでは結構個人差がある。

例えば私はどちらかというと、「俺が必死に仕事して今の倍稼いできて贅沢させてやるから脱がずに家にいろ」とか言われたいタイプで、カラオケで二人称が「お前」の歌を歌う男が好き。
カムジャタン越しに語っていた嬢は、「何それめっちゃおもしろそうじゃん、いいよなぁ女は」とか言われたいタイプ。

前者は口で偉そうなことを言っても実際は今の倍稼いでくることはほとんどないので、結局別れるかとりあえず奴には内緒で脱ぐことにはなると思うのだけど、はっきりそう言える根拠なき自信と頭の悪さは、男に必要なものを兼ね備えている気がするし、後者はさりげなく背中を押して自分はヒモに成り下がろうとかホストとしての売り上げに貢献してもらおうとか思っている場合が多いのだけど、それにしても本人すらちょっとナイーブな選択時に、笑い飛ばしてくれる懐の深さはありがたい。

では一番嫌なパターンとは何か。

私AV出ようと思うのだけど、なんて報告した際に、露骨に嫌な顔をしておいて、「え、なんで?」とか「必要?」とか聞いておいて、かと言って出るなとも別れるとも言わず、帰りの電車に「さっきはごめん、大事なのは君の意思だから僕には止めるとかはできないよね」とか送ってくる人。これはカムジャタン越しに、硬い結束を持って一致した。

それは別にAVなんちゃらな状況じゃなくても、「東京タワー買ってよ」とかいう無茶振りをこっちがした際の向こうの反応について「いいよ?何本?」とか「ちょっと予算の問題で京都タワーでいいっすか」とかほとんど大喜利みたいなもので、正解は無限にある。

ただ、ここが微妙なところなのだけど正解が無限にある、というのは正解がない、ということではない。

そこが大喜利とちょっと違うところで、東京タワー買ってよと言われて「そんな無茶苦茶な要求してくる人とは付き合えない」と真面目に言ってくるのは不正解だし、AV出よっかなと言われて「大事なのは君の意思だから」と答えるのは明らかに間違いだ。

相手の人生に肉体の先端だけ食い込ませようなんて虫がいいにもほどがある

職業選択において個人の意思がかなり比重を持って尊重される時代に生まれた私たち、別に脱ぐか脱がないかにおいて自分の意思が大事なことはよくわかっているのだけど、どうにも自分の意思だけでするには重い決断というのがあって、だからこそ彼氏にぽろっと話してしまうわけで、「大事なのは君の意思だから」と言われるのであれば、その男に存在意義はない。

だいたい、やめろなんていう全時代的なワイルド系にアンチテーゼを投げ、女性の意思を尊重しているなんていうフリをしておいて、後で「あなたがやめろって言ったから」と責められることも、「あの時止めてくれれば」と泣かれることも拒絶して、一切の責任を背負い込んでいない。
恋愛なんて、本当はしない方が効率的に生きていけるかもしれないのに相手の人生を変えてしまう覚悟で相手の人生に食い込むことなわけで、相手の人生に食い込むことなしに、肉体の先端だけ食い込ませようなんて虫がいいにもほどがある。

ただ、そういう人たちに平成の無責任男的なダメ意識がないのは、履き違えた女性尊重思想のせいだ。

そういう奴は車で迎えにきてと言ったら、「車の運転を男が独占したら女性の移動の自由を奪っちゃうよ、そんなこと僕はできない」とか言って迎えに来ず、荷物持ってと言ったら「僕は君の力を過小評価したくない」とか言って持ってくれず、このレストラン行きたーいと言ったら「女性活躍の時代に社会に出てちゃんと働いている君に敬意を表してワリカンね」とか言って奢ってくれず、あなたの子供作りたいわと言ったら「男女の非対称性を感じさせない新しいタイプの家庭を考えるべきだ」とか言って中出ししないであろう。

女性の意思を尊重し、「女らしさ」「男らしさ」の呪縛を断ち切ろうとして、結局男の良いところを踏襲するのを放棄している。断ち切るべきは間違った男らしさの呪縛であって、素敵な男らしさを放棄するのであれば、もう女になればいいじゃないかと思う。
 

差別意識をなくしたり、偏見をなくしたりする時代の流れがあっても、人間そうそう感情のあたりまで時代の流れについていってはいないので、頑張って働いたり稼いだりしてる女も時には「もうやだ全部あなたが決めて。涼美わかんなーい」と言いたくなるし、「大事なのは君の意思」という男だって最初は嫌な顔はしちゃうわけで、そんなポリティカリー・インコレクトなところをベッドの上でうやむやにするのが恋愛なわけです。

「もうダメェ」ってうっかり口にして「大事なのは君の意思だから」とか言われて中断されても困るし、正しさの向こう側までいく気がない男とのセックスなんて、絶対に絶頂の向こう側には行けない気がする。

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鈴木涼美

すずき・すずみ●1983年東京都生まれ。作家、社会学者。慶應義塾大学環境情報学部を卒業後、東京大学大学院学際情報学府の修士課程修了。大学在学中からキャバクラ嬢として働きだし、20歳でAVデビュー、出演作は80本以上に及ぶ。2009年から日本経済新聞社に勤め、記者となるが、2014年に自主退職。女性、恋愛、セックスに関するエッセイやコラムを多数執筆。
公式Twitter → https://twitter.com/suzumixxx

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