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鈴木涼美「アラサー女がそんなことで喜ぶと思うなよ」
めでたく30歳を過ぎた鈴木涼美がおくる「アラサー女性論」。30代になった女が失うものは? 得るものは? なにかが変わるのか? 時代を鋭く読み取る元セクシー女優にして社会学者の気鋭のコラム。

おじいさんによる「おばさん」ディス 〜女の子はいつでもミニ年増

最愛の妻に先立たれた私の父は、いっとき命の炎がものすごく弱々しく見えるほど落ち込んでいたが、最近、もしや俺ってまた恋愛市場に戻ってこれた? という66歳の前期高齢者が気付くべきでないことに気づき、これからは誰に隠れることなく彼女作れる! 娘が孫を産んでくれなそうだから若い彼女と子供作りたい!と冗談か本気かよくわからないことを言うようになった。
別にそれは彼の自由だし、大変結構なことだと思うのが、彼女を作るにあたって彼が挙げがちな条件は、身内の贔屓目を持ってしても全く理解に苦しむものである。

さすがに50代は抱けないよ、の「さすがに」ってなんだ?

彼が理想の相手として妄想するのは、もっぱら若い女である。
少なくとも父より20歳年下の40代、できれば30歳くらいの女で、曰く「さすがに50代は抱けない」

これ、実は結構死別や離婚で独り者になったり、別に妻は健在だけど不倫相手を探していたりするおじいさんたちが平気で口にする言葉である。若い女がいい! と言う発言であれば何贅沢言ってんだ、とか思いながら聞き流せるのだけど、彼らは「できれば若い方がいい」とか言わずに、「50歳? さすがに冗談きついぜ」と、ほとんど犬とか猫と付き合えと言われたかのようにハハハハと一蹴する。

さすがにってなんだ?

彼らの自分の年齢を棚に上げる手腕は見事で、その発言がシュールだとか変だとか言う意識は全然ない。自分が還暦過ぎていようと加齢臭まみれの皺くちゃハゲだろうと、さすがに同い年の女は無理、と、あたかも年増と付き合う選択などありえないかのように笑う。

何度も言うが自分は50代すらとうに過ぎて、高齢者料金で映画を観られるような年齢であって、50代の女性だって彼らにとっては10歳も年下の若い女にも関わらず、彼らは自分が別に金銭を介さず若い女と付き合うに値する、と何の疑いもなく妄信しているようである。アンタに若い女が寄ってくるとしたら純然たるパパ活女子、もしくは美人局だよ、心の中でツッコミつつ、おじさんによるいまいち悪意のない、おばさん蔑視を不思議に思っている。

30代になると、周囲のおじさんたちが、俺は30代こそ魅力的だと思うんだよね、とあたかも普通の男は20代にしか興味がないのに、人間の深い魅力を知っている自分は30代を差別しない、と寛大なふりをして言ってくるようになった。

言っている本人、往往にして30代の私の倍近い年齢。あくまで自分は寛大だから、ちょっと普通のおじさんより高度な恋愛を望んでいるから、或いはしょうがないから妥協して、30歳も相手にすると言う言い草なのだけど、正直、舘ひろしと岩城滉一を除く60代のおじさんはこちらから見ればただの客、なぜ半分ほどの年齢の女と「妥協で」付き合えると思うのかがとても謎なのである。

60代の男が、(ほんとは20代がサイコーだけど)30代でもいいよ、なんて言う発言はどう考えてもおかしくて、いやいや自分と同い年の女抱けよと毎回思う。

若い娘が白い画用紙だとか磨いていない原石だとか、と聞かれればそれはまた甚だ疑問である

若い娘さんというのがもう本当に存在するだけで100万ドルの価値がある美しいものだ、というのはわかる。
肌も髪も大してお金をかけなくてもツヤがあるし、子宮もアソコも調子がいいし、どんなに頭が良くてもシニカル過ぎないし、斜に構えずによく笑う。人気アイドルがこぞって薄化粧なのも、髪の毛も巻いたり染めたり盛ったりしていないのも、あんまり頭が良くないのも、男性が自分好みに磨いていける原石が好きだからだ。完成された絵画や彫刻よりも、真っ白な画用紙に目一杯自分好みの妄想を詰め込み、余計な知識や他の男の手垢がこびりついていない若い娘さんに、「よし僕が教えてあげよう、ドヤア」とする方が楽しいというのもわからなくはない。

ただ、若い娘が白い画用紙だとか磨いていない原石だとか、子宮の調子がいいとか、そういったことは本当に普遍性のある事実なのか、と聞かれればそれはまた甚だ疑問である。

以前、私の親友の高級デリヘル嬢のお客で、何から何まで「教えてあげる」というスタンスでくるおじさんというのがいて、曲がりなりにも慶応の文学部卒の彼女に「村上春樹っていう作家がいてね」とか、「一万円札に載ってる福沢諭吉っていう人がいるのわかる?」とか言ってくるうえに、いざプレイを始めても、「ほら、ここ」「気持ちいいでしょ?」「我慢せずにイっていいよ」と風俗歴5年の彼女に90分間イったふりをさせるという奇行で仲間内では結構有名だった。
客の妄想に付き合うのが仕事のデリ嬢ですら、あまりにも露骨な「おじさんが教えてあげるよ」的態度に辟易としていたのだから、普通の女の子だったらとっくに爆笑するか逃げ出すかしていただろう。

若い女というのは基本的に自意識の塊でプライドが高く、人の言うことなんて聞く余地はないし、同い年の男性が徐々に力をつけていくさまを未だ目の当たりにしていないが故に男をなめているし、少なくとも私の場合は30を過ぎた現在の方がよほどまっさらな気持ちで人の説教を聞く素直さがある。

また、白い画用紙というのは確かに生まれたての赤ん坊であれば似つかわしい例えではあるものの、若いと言ったって成人女性が何の色にも染まっていないかといえば全くもってそんなことはない。

むしろ若い頃はまだ見えている切り口や価値観なんていうのが偏っているため、思い込みが激しく、極端な色に染まりきっていたりする。20代を駆け上がり、30代を這いつくばり、自分が万能ではないこと、また、世の中には結構アンビバレントなことやAに見えて実はBみたいなことがある、ということを知ってから初めて、画用紙は柔軟に色々な色を映し出すようになるのであって、若さにまかせて真っ赤や真っ黄色に染まった身体は、別の色をさそうとしても真っ赤な色に負けて全く寄せ付けない。

30代や40代の女と対話するより、20代に講釈たれた方が楽しいなんていうのはオヤジの幻想であると同時に、自分より知識も経験も明らかに劣るものの前でしかドヤる勇気のない大変情けない性分が透けて見えてしまっている。

そんなわけで若さに惹かれる男の根本にあるものはとどのつまり

子宮の健康についても、30代になって色々と不具合が生じるようになってから初めてこまめに婦人科検診などに通うようになる女が多いのであって、お股と健康意識がゆるゆるの20代は平気でクラミジアを飼いならしていたりする。

よく男性が使う詭弁で「男は本能で子孫を残したいものだから」というものがあり、だから本命の彼女がいても浮気をするし、なるべく健康な子供を負担なく産める可能性が高い若い女性に惹かれるのも当然、的なロジックになるようだが、若い女とちょろっとねんごろの仲になりたいと思っている既婚者のおじさん方は、相手が妊娠した途端にオロオロして、何とか出産や認知の方に転ばないように言い訳を考えたりするので、子孫なんて残そうと思っていないのが本音だろう。

そんなわけで、若さに惹かれる男の根本にあるものは、他の男とあんまり比べられたくないと考える自信のなさだったり、脇の甘い説教に反論されたくないという情けなさだったり、若い女の子だから知識も経験もそんなにないだろうと勝手に夢想する安直さだったり、そんな、有り体に言えば男のつまらなさをごった煮にしたような性質なので、あんまり露骨に口に出さない方がスマートだと私は思う。

結局私の父も、同世代や世代の近い女性をディスっているつもりが、単に自分のしょうもなさを娘相手に日夜露呈させているに過ぎない。

そもそも「さすがに」50代で妥協はできないようなことを言っているけど、実際に50代相手だからと言って楽勝で口説き落とせるかどうかなんて全くわからないし、少なくとも30代の私たち、「20代より30代の方が味があって面白いよ」なんて上から言ってくるおじさんの多くとは、無料でキスなんかしないんですよね、残念なことに。

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鈴木涼美

すずき・すずみ●1983年東京都生まれ。作家、社会学者。慶應義塾大学環境情報学部を卒業後、東京大学大学院学際情報学府の修士課程修了。大学在学中からキャバクラ嬢として働きだし、20歳でAVデビュー、出演作は80本以上に及ぶ。2009年から日本経済新聞社に勤め、記者となるが、2014年に自主退職。女性、恋愛、セックスに関するエッセイやコラムを多数執筆。
公式Twitter → https://twitter.com/suzumixxx

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