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Jリーグ連覇! 川崎F中村憲剛の今を作った松坂大輔と中央大学時代

Jリーグのレジェンドとなった今も、どんな質問にも真摯に丁寧に話してくれる。(撮影/熊谷貫)
Jリーグのレジェンドとなった今も、どんな質問にも真摯に丁寧に話してくれる。(撮影/熊谷貫)

就職活動を捨ててチームの1部復帰にかけた中央大学キャプテン時代

だが無名の少年に、プロから声がかかることはなかった。高校を卒業すると、大学サッカーの名門・中央大学に進んだ。2年生でレギュラーをつかみながらも、3年生のシーズンで関東大学リーグ2部に降格の憂き目にあった。創部52年目にしての初めての屈辱。中村は2部で再スタートを切る名門のキャプテンを託されることになった。
4年生のチームメイトがネクタイ姿で就職活動をしているのを横目に、チームをどう再建するか、そのことばかりを考えた。就職活動に目を向けることもなかった。

「プロになると心に決めたところで誰からも確約なんかもらっていないわけですからね。今思うと背筋が凍るような判断だな(笑)。両親にも〝就職活動はやらないから、浪人したらゴメン〟と伝えていました。両親も〝しょうがないか〟って感じでしたね」

バブル時代などとっくの昔となった2000年前半は就職氷河期と言われた時期。プロになることを信じたというよりもキャプテン業に追われていたというのが正直なところか。

「だって考えてみてくださいよ。何回も1部で優勝してきた名門が初めて2部に落っこちて、OBの厳しい視線が僕らに飛んでくるんです。“絶対に1年で1部に戻れよ”みたいな無言のプレッシャーが、ガンガンありましたからね」

一方の同世代のヒーロー、松坂はルーキーから3年連続で最多勝をマーク。スターから大スターへの階段をのぼっていた。中村が4年生になった2002年には、年俸は既に1億円を突破していた。そんな松坂のことよりも、日本列島が沸騰した日韓ワールドカップよりも、部のことだけが頭にあった。

中村キャプテンの改革。
そのひとつが4年生全員に、何かしら部の役割を与えることだった。1人も抜けがないように、様々な〇〇係をつくった。何でもいいわけではない。やりがいを持てるようなものでなければならなかった。

「練習に出てこないでパチンコにいっちゃうヤツとかもいたので、とにかく部にかかわらせたかったんです。帰属意識を持ってもらって、4学年全員を同じ方向に向いてもらうように、と。これって監督やコーチの仕事じゃなくて、学生主導でやらなきゃいけないこと。でも最終的に同級生はみんな協力的だったし、下の学年も4年生についてきてくれた。みんなそれぞれで、1部に戻るために何をしなきゃいけないかってことを考えてくれていたんだと思うんです。本当にありがたかったし、あの経験は僕のなかで凄く大きなものになりました」

ひとつ間違ったら、バラバラになりかねなかった。しかし毎日、部員と真正面からぶつかってみると、プレッシャーにさらされているのは自分ひとりじゃないと思えた。大学に対する、部に対する愛着はみんな強いのだと確信できた。
反発もあった、苦しかった、つらかった、必死だった。だからこそ束ねがいがあった。
いつしかプレッシャーは、モチベーションに変わっていた。その年、中央大学は、2部を制して1年での1部復帰を果たすことになった。

周りが輝くことで、自分も輝くことができる。それもキラッキラに。
中村憲剛の心に、大きな人生訓が刻まれた。

profile
なかむら・けんご/1980年10月31日生まれ、東京都小平市出身。O型。川崎フロンターレ所属。東京都立久留米高校から中央大学を経て、2003年テスト生として参加していた川崎フロンターレに入団。当時2部から現在J1リーグ2連覇を果たす強豪チームになるまで、同チーム一筋のレジェンド。ベストイレブン7回。2016年にはMVPも受賞。日本代表としても国際Aマッチ68試合出場6得点。10年南アフリカW杯にも出場した。(2018/11/30現在)
公式ツイッター◆https://twitter.com/kengo19801031

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二宮寿朗

にのみや・としお●スポーツライター。1972年、愛媛県生まれ。日本大学卒業後、スポーツニッポン新聞社に入社し、格闘技、ラグビー、ボクシング、サッカーなどを担当。退社後、文藝春秋「Number」の編集者を経て独立。様々な現場取材で培った観察眼と対象に迫る確かな筆致には定評がある。著書に「松田直樹を忘れない」(三栄書房)、「サッカー日本代表勝つ準備」(実業之日本社、北條聡氏との共著)、「中村俊輔 サッカー覚書」(文藝春秋、共著)など。現在、Number WEBにて「サムライブル―の原材料」(不定期)を好評連載中。

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