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学級崩壊、少年犯罪…90年代末の激動の中で『地獄先生ぬ~べ~』が描いた、先生と生徒の理想の関係【鼎談・吉田悠軌×真倉翔×岡野剛】

よりホラーに振り切った新アニメ版

毎週水曜23:45~ テレビ朝日系全国ネット"IMAnimation W"枠にて放送(※一部地域を除く) ©真倉翔・岡野剛/集英社・童守小学校卒業生一同
毎週水曜23:45~ テレビ朝日系全国ネット”IMAnimation W”枠にて放送(※一部地域を除く) ©真倉翔・岡野剛/集英社・童守小学校卒業生一同

真倉 今回の新アニメ版では、そういう先生と生徒の関係の変化っていうのが、顕著に出ていると思います。最初に子どもたちが出会うぬ~べ~は、すごく不気味に描かれているので。
 原作漫画では、『ぬ~べ~』は元から童守小にいたんですよね。ひろしが転入生で入ってくるので、広にとってはぬ~べ~が不思議な存在だ、という始まりだった。今回のアニメは逆で、広は初めから童守小にいて、ぬ~べ~が新しい先生として童守小にやってくるところからスタートする。生徒たち全員がだんだん、ぬ~べ~を知っていくという組み立て。その組み立てを逆にしているのは意図的にやっています。初めは子どもたちも信用しないだろう、でもそんな彼が頼れる存在になった時、かっこよく見える構図になっています。また最初はぬ~べ~が不気味なので、かなりホラーに振り切った感じにもなりますし。

岡野 普通に気持ち悪いですもんね、こんな手をしている先生(笑)。

真倉 登場シーンも、けっこう冷たくて怖い感じで出てきますね。単純に守ってくれる存在の真逆というか。行動がおかしい先生、危険人物っぽいところから発展していくというのが、よくできています。そこはアニメスタッフが頑張ってくれたので。

吉田 先生が生徒を親みたいに守ってくれるというリアリティが、今はなくなっている。まずそこから入るわけにはいかない、ということかもしれないですね。まずは先生と他者として出会うところから始めないと、リアリティがないのかな。

真倉 先生が助けてくれる漫画って、今はあまりないんじゃないですか。『GTO』だって、もう昔の作品だから。『ぬ~べ~』以外はないかもしれないですね。

吉田 ホラー以外まで含めたらあるかもしれないですけど、ホラージャンルだとちょっと思い当たらないですね。先生というキャラクターの描かれ方が、だいぶ変わっているとも感じます。『呪術廻戦』でも、五条悟は先生の役割ではあるんですけど、教え諭すような関係性ではなく、対等な存在。あとは勝手に君たちでやってね、と生徒に言うような。

真倉 友達みたいな対等な関係になっちゃっている。

吉田 よく言えば対等か友人みたいですけど、悪く言えばビジネスライク。いちおう学校という枠組みの中で、お互いの役割をきちんとやろうね、という。現実の今の日本社会でも、そうした面が良くも悪くも強くなっているでしょうし。

真倉 それはそうですね。

吉田 そうした中で、「学校の怪談」は、目に見える現象としてはやっぱり衰退しているんですよね。先生が生徒に怪談を語るっていうシチュエーションも少なくなっていますし。

真倉 カップルが高速道路をオープンカーで走ってて、看板が曲がっているところを通り過ぎる。その後「ねえ」って助手席を向いたら、女の人の首がなくなっていた。……なんて話を、先生が授業中にしてくれてたものですが。そんなの聞かされて、ものすごく怖くなっちゃったけど(笑)。

岡野 今の時代、そんな話をしたというのが親にばれたら大問題ですからね。なんで教師が生徒を怖がらせるんですかって。

吉田 嫌がる子どもがいようと怪談を話していたというのは、昔は当たり前だったけど、今はなくなっている。教育環境が良くも悪くも変化している。でもその中で、また30年を経て、『ぬ~べ~』が現代のコンテンツとして出てくるというのは、やっぱり求められているからなんじゃないですかね。『ぬ~べ~』的世界観、『ぬ~べ~』的な人間関係のありよう、あるいは『ぬ~べ~』的な怖さのあり方、不思議なものへのスタンスというものが。

真倉 今回のアニメ化については、元担当編集の一人がずっと『ぬ~べ~』を推してくれていて、やっと今、実現したわけです。そういうものを作ろうというメディア側の気運が高まったのかな、というのがありますよね。

吉田 学校を舞台に怪異が起こるというコンテンツとしては、『呪術廻戦』しかり『ダンダダン』しかり、今の『ジャンプ』系ヒット作の定石となっている。むしろ回帰する流れというか。漫画やアニメで知っていた世代が大人になって、自分たちの子どもに見せたいコンテンツとして浮上してきたという面もあるでしょうし。様々な意味で、機が熟したというか。

真倉 それはあると思います。新アニメの制作陣も、年齢的に『ぬ~べ~』を知っている方々がほとんどなので。自分たちで『ぬ~べ~』が作れる、といった感じで楽しんでやってくれている。

吉田 それも含めて、当時の「学校の怪談」コンテンツとして、『ぬ~べ~』が非常にメルクマールであり象徴的なものだったということじゃないですかね。

真倉 今回のアニメ化で『ぬ~べ~』を初めて知った子どもたちが、そこで描かれる怪談を、これが原型だと思ってくれたら、こちらとしては面白い。長いことやっていれば、きっとそういう現象は起こるんじゃないかな。『ぬ~べ~』の漫画やアニメを見て育った子どもが、怪談を語り継ぐことになるという。

岡野 それこそ「詠み人知らずになるのが夢」みたいなことを、ユーミンが言ってましたよね。

吉田 怪談というのは、まさにそういうものですからね。

【プロフィール】
(写真右)真倉翔まくらしょう
1964年生まれ。愛知県出身。漫画家、漫画原作者。主な作品に『天外君の華麗なる悩み』、『地獄先生ぬ~べ~』シリーズ、『ツリッキーズピン太郎』、『霊媒師いずな』シリーズなど。

(写真左)岡野剛おかのたけし
1967年生まれ。千葉県出身。漫画家。主な作品に『地獄先生ぬ~べ~』シリーズ、『ツリッキーズピン太郎』、『霊媒師いずな』シリーズ、『未確認少年ゲドー』など。

現在、「最強ジャンプ」にて、『地獄先生ぬ~べ~怪』連載中!
「少年ジャンプ+」連載作、『地獄先生ぬ~べ~PLUS』コミックス全1巻、2025年7月4日(金)発売!

対談の全文はぜひ書籍『よみがえる「学校の怪談」』にてお楽しみください!

恐怖が生まれ増殖する場所は、いつも「学校」だった――。
繰り返しながら進化する「学校の怪談」をめぐる論考集。

90年代にシリーズの刊行が始まり、一躍ベストセラーとなった『学校の怪談』。
コミカライズやアニメ化、映画化を経て、無数の学校の怪談が社会へと広がっていった。
ブームから30年、その血脈は日本のホラーシーンにどのように受け継がれているのか。
学校は、子どもたちは、今どのように語りの場を形成しているのか。
教育学、民俗学、漫画、文芸……あらゆる視点から「学校の怪談」を再照射する一冊。

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新刊紹介

吉田悠軌

よしだ・ゆうき
1980年東京都出身。怪談、オカルト研究家。怪談サークル「とうもろこしの会」会長。オカルトスポット探訪マガジン『怪処』編集長。実話怪談の取材および収集調査をライフワークとし、執筆活動やメディア出演を行う。
『怪談現場 東京23区』『怪談現場 東海道中』『一行怪談』『禁足地巡礼』『日めくり怪談』『現代怪談考』『ジャパン・ホラーの現在地』『怪事件奇聞録』『教養としての名作怪談』など著書多数。

Xアカウント @yoshidakaityou

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