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国見、早稲田、F・マリノスでもキャプテン。「考えるマルチロール」兵藤慎剛が意識していたコミュニケーション法

伝統を大事にしつつ「すり合わせ」でチーム力を高めていく

 ジュビロ磐田を優勝に導いた桑原隆のもとで再建を図っていた2008シーズンのF・マリノスだったが、低迷を打開するためにルーキーの兵藤にも先発のチャンスが巡ってくる。とはいえ事態はすぐに好転することなく桑原はシーズン途中で契約解除となり、7月16日のアウェイ、ヴィッセル神戸戦からはチーム統括本部長だった木村浩吉が指揮を執る。すると兵藤はシャドーのポジションで先発に定着し、シーズン後半戦になってようやく勝ち点を積み上げていく。

 伝統のピリピリした雰囲気のなかでトレーニングをして、お互いに要求をぶつけながらチームの絆を深めていくのは言わばF・マリノスの伝統。河合とのバチバチもこれに沿ったものだ。だが国見、早稲田、U‐20日本代表でもキャプテンを務めてきた男は、試合に出て発言力を上げていくことができれば、違うアプローチをやっていきたいとも考えていた。
 それは、他者への要求や自分の考えをぶつけ合うことを大事にする一方で、「すり合わせ」にもっと割合を増やしていくこと。

「ぶつけ合うことでチームによりいい選択肢を生み出していくのがマリノスの伝統としてあったし、まさにマツさん(松田直樹)がその中心にいました。だから、その伝統を否定するとかではなく、僕の歩んできたキャリアを通じてサッカーはチームスポーツだということが凄く染み込んでいたので、強いぶつかり合いだけではなくてもう少し柔らかい感じでいきたいな、と。たとえば同じ右サイドには当時、ハユさん(田中隼磨)がいました。まずは先輩であるハユさんから言われたことをやってみる。その後、僕も試合に出る回数が増えてきたところで、『ハユさん、今の場面はこういうプレーをやってみてはどうですか』と伝えていくみたいな。そうやってハユさんとの連係の関係性を高めていけたことで、僕の考えは間違いじゃないと思えました。もちろん、意見を聞いてくれたハユさんだからできたところもあると思いますが。
 最初に否定から入ってしまうと次に自分が主張しても納得して受け入れてもらうことが難しい。人間ってそうじゃないですか。『じゃあ一度合わせてみます』と能動的にやってみて、それがダメだった場合に自分の考えも提案できるというもの。練習でそういうコミュニケーションができたら、試合でもできる。逆に言えば練習でできなかったら、試合でもできない。個人的にコミュニケーションはもっと密にやっていきたいと思いました」

 兵藤から始まる〝すり合わせコミュニケーション〟の広がり。これには田中をはじめチームメイトも同調してくれるようになる。

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新刊紹介

二宮寿朗

にのみや・としお●スポーツライター。1972年、愛媛県生まれ。日本大学卒業後、スポーツニッポン新聞社に入社し、格闘技、ラグビー、ボクシング、サッカーなどを担当。退社後、文藝春秋「Number」の編集者を経て独立。様々な現場取材で培った観察眼と対象に迫る確かな筆致には定評がある。著書に「松田直樹を忘れない」(三栄書房)、「サッカー日本代表勝つ準備」(実業之日本社、北條聡氏との共著)、「中村俊輔 サッカー覚書」(文藝春秋、共著)など。現在、Number WEBにて「サムライブル―の原材料」(不定期)を好評連載中。

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