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F・マリノスで3度のリーグ優勝に貢献した遠藤彰弘。 「強いF・マリノスでいてくれるのは本当に嬉しいし、誇りでもある」

奇跡の逆転優勝。ロッカーで退場した榎本哲也を励ましていた

 この勢いに乗ってファーストステージを制し、続くセカンドステージも上位をキープしていく。2003シーズンのF・マリノスは変形3バックのような形を採っていた。左サイドバックのドゥトラが果敢にオーバーラップし、左サイドハーフの奥が中に入って攻撃を組み立てる。一方、右サイドハーフの佐藤は外に張ってクロスを送る任務を担い、右サイドバックの柳想鐵(ユ・サンチョル)は極力上がらない。そのため右ボランチに位置する遠藤は前のスペースに出て奥と連係しながら、攻撃のタクトをふるった。個の特長を殺さない、いや、むしろ活かすこの形がひいては組織力を引き上げてもいた。
 この年、サンフレッチェ広島から加入してきた久保竜彦については本物のストライカーだと感じた。絶対に爆発するという確信もあった。

「タツ(久保)って相手との駆け引きがすごくうまいんです。動いていくなかで一瞬、ピタッと止まると、相手ディフェンダーは動かされたままなので、そこでフリーになる。あのシーズンのタツは異次元でしたよ。一度ノッたらもう手がつけられない」
 
 11月29日、横浜国際総合競技場。ジュビロとの再戦はセカンドステージ最終節に待ち受けていた。両ステージ制覇を懸けた一戦ではあったものの、首位ジュビロとの勝ち点は3ポイント離れており、勝利したとしても2位の鹿島アントラーズが引き分け以下で終わらなければ実現しないという状況下であった。
 開始早々に先制点を許すと、前半15分にGK榎本哲也がグラウを突き倒して一発退場。そんな折、遠藤も足の違和感があったため、後半6分、マルキーニョスが同点ゴールを奪った後に上野と交代を告げられている。

「これは今だから言えますけど、ハーフタイムに岡田さんから『足、大丈夫か?』と聞かれて、正直に『結構きついかもしれないです』と返したんです。そうしたら『チャンピオンシップがあることも考えたら無理しなくていい』と、そのとおりに交代になったんです。
 前半にテツ(榎本)が退場した時は、点も取らなきゃいけないから前線の選手じゃなくてボランチの僕が交代するかなと思ったんです。でも、(佐藤)由紀彦が交代になって、僕が右サイドハーフに回った。攻守のバランスを取ってくれよ、という岡田さんのメッセージを感じました。そうやってあの人はいろんなことを考えていました」

 遠藤の交代は足の状態もさることながら、岡田の作戦でもあった。1人少ない状況に変わりはないのだから、すぐさま勝ち越し点を狙いにいかずに1-1を保ち、残り10分になってジュビロが引き分けを考えるようになったら一気に出ていく。遠藤の交代は、まだ攻撃のトーンを上げていかないという狙いもあったのだ。

「今考えると、岡田さんは僕を交代した方が勝てると思ったから、やんわりな言葉で俺に言ってくれたと思います(笑)、あれは岡田さんの優しさだったと思う。あの人は勝つ為の方法を知ってる方だから」

 ロッカーに下がると、退場した榎本が泣いていた。

「だから僕、ずっとテツを励ましていたんです。『心配すんな、逆転するから』と。そうしたらタツがヘディングで決めて、本当にそうなったんです」

 アントラーズも同点に追いつかれて、劇的な両ステージ制覇の完全優勝が決まると遠藤も歓喜の輪に飛び込んでいった。シーズンを通して主力として勝ち取った栄光。1995年のリーグ初制覇とは、まったく違う味がした。岡田のもとで意識を変えてアバウトを消したことが最高の結果につながった。

退場処分になってしまった若き守護神、榎本哲也をロッカーで励ましていたという遠藤(写真右)。現F・マリノスアンバサダーの波戸康広と優勝後の3ショット。(写真/©J.LEAGUE)
退場処分になってしまった若き守護神、榎本哲也をロッカーで励ましていたという遠藤(写真右)。現F・マリノスアンバサダーの波戸康広と優勝後の3ショット。(写真/©J.LEAGUE)
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二宮寿朗

にのみや・としお●スポーツライター。1972年、愛媛県生まれ。日本大学卒業後、スポーツニッポン新聞社に入社し、格闘技、ラグビー、ボクシング、サッカーなどを担当。退社後、文藝春秋「Number」の編集者を経て独立。様々な現場取材で培った観察眼と対象に迫る確かな筆致には定評がある。著書に「松田直樹を忘れない」(三栄書房)、「サッカー日本代表勝つ準備」(実業之日本社、北條聡氏との共著)、「中村俊輔 サッカー覚書」(文藝春秋、共著)など。現在、Number WEBにて「サムライブル―の原材料」(不定期)を好評連載中。

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