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30周年のJリーグ開幕! 連覇を目指す横浜F・マリノスは、時代をけん引するクラブになれるのか?

1月26日の発売後、好評につき即重版も決定した二宮寿朗『我がマリノスに優るあらめや 横浜F・マリノス30年の物語』。

誌面の都合もあり掲載できなかったものの、F・マリノスの歴史に欠かすことのできないOBの特別インタビューなど、「我がマリノスに優るあらめや 外伝」特集として、全5回にわたり配信していきます。
第1回は、まさに本日、2月17日夜に開幕する30周年のJリーグ2023シーズン。横浜F・マリノスにとってはどんなシーズンになるのか? 著者の二宮氏による特別寄稿です。

(取材・文/二宮寿朗)
2月11日、国立競技場。シーズン開幕をつげる富士フイルムスーパーカップ。6度目の挑戦で初めてスーパー杯を制した横浜F・マリノス。素晴らしいシーズンスタートとなった。(写真/産経新聞社)
2月11日、国立競技場。シーズン開幕をつげる富士フイルムスーパーカップ。6度目の挑戦で初めてスーパー杯を制した横浜F・マリノス。素晴らしいシーズンスタートとなった。(写真/産経新聞社)

30年で一度も降格のないクラブはアントラーズとマリノスだけ

 1993年5月15日、Jリーグは華々しく開幕した。
 JFL時代の黄金カード、読売クラブと日産自動車サッカー部をともに母体とするヴェルディ川崎と横浜マリノスの一戦には全国から80万通の応募があったという。国立競技場は6万人の大観衆をのみ込み、チアホーンが高らかに鳴り響いた。それはまるでスポーツ新時代到来を祝うようでもあった。
 あれから丸30年。クラブ創設30周年の節目となる2022シーズンにおいて3年ぶり5度目のJ1制覇を果たしたのが横浜F・マリノスであった。アタッキングフットボールの名のもと攻守に圧倒して、 2連覇中だった川崎フロンターレの猛追を振り切っている。Jリーグを代表するトップクラブという立ち位置は、30年前と変わっていない。10クラブでスタートしたJリーグ30年の歴史で、J2に降格していない“オリジナル10”のクラブは鹿島アントラーズと横浜F・マリノスだけである。

 先日、横浜F・マリノスの30年の足跡を、当事者目線でつづったノンフィクション本『我がマリノスに優るあらめや 横浜F・マリノス30年の物語』を上梓した。1972年の日産自動車サッカー部誕生から50年、1992年のマリノス創設30年というタイミングで、部を立ち上げた初代監督の安達二郎を皮切りに、監督、選手、スタッフら30人以上にインタビューし、印象的な出来事を中心にして一人ひとりの物語をつむぐとともに、クラブの歴史を深掘りして点を線につなげることを試みたものだ。

 クラブには紆余曲折があったのだとあらためて認識させられる。 
 日産自動車サッカー部による革新、横浜フリューゲルスとの合併、マリノスタウンの建設と移転、リーマン・ショックに端を発した経営危機、マンチェスター・シティを筆頭に世界でサッカー事業を展開するCFG(シティ・フットボール・グループ)との提携……岡田武史監督時代の2003、04年リーグ2連覇から次の優勝まで15年の月日を費やし、2010年には松田直樹、山瀬功治、坂田大輔ら長年プレーしてきた選手を〝大量解雇〟に踏み切って、サポーターの大反発を食らったこともあった。
 痛みを伴いながら、迷いながら、もがきながら、このクラブは前に進もうとしてきた。堅守のF・マリノスからアンジェ・ポステコグルー監督(2018シーズン就任)がもたらしたアタッキングフットボールにシフトチェンジした。攻撃サッカーを謳った日産自動車サッカー部時代の伝統とも重なってクラブのスタイルとして確立していった。
 監督が代わっても、主力選手が抜けてもスタイルを変えない。
 フットボールフィロソフィーをクラブで完成させ、2021シーズン途中に就任したケビン・マスカット監督になってもスタイルを継続して優勝にたどり着いたことで、進むべき航路の視界がはっきりとした。クラブハウスを持たない日々にもようやく終止符を打ち、今年1月、横須賀市久里浜に新拠点「F・Marinos Sports Park ~Tricolore Base Kurihama~」をオープンさせている。創設から30年かけてやっと本当の意味で足場を固めつつあると言っていい。

キャプテン喜田拓也の言葉にはクラブの在り方が示されている

 温故知新――。過去を眺めることで、今の姿が見えてくる。
 F・マリノスという1クラブの歴史を振り返る内容ではあるものの、登場人物のインタビューを通じてクラブとは、チームとはどうあるべきかを考えさせられた。
 キャプテン喜田拓也の言葉が実に印象的だった。

「〝F・マリノスはいいチームだね〟〝魅力的なサッカーをやってるよね〟などと言われることが本当にいろんな場面で増えました。まわりの見る目が変わってきたという事実が紛れもなくある。それは、このクラブに関わるすべての人の根気強さによるものだと思うんです。ただクラブが変わり切るには、僕らだけの力じゃ絶対に無理だし、ファン・サポーターの方の力を借りないと、変わり切れないことってたくさんある。共感してくれて、共鳴してくれて、一緒に変わっていこうという姿勢を示していただいたのは本当に幸せで、ありがたいこと。選手同士でたくさん話をして、クラブの人たちも一緒に頑張ってきて、そこにファン・サポーターの愛が重なる。こういう形で歩み始めているので、僕らとしてはしっかり結果で証明したいなって強く思うことができました」

 ポステコグルーが指揮を執った1年目の2018シーズンはいくら得点を重ねようともハイラインの裏を突かれた失点が多く、下位に低迷して残留争いに身を置いた。それでもスタンドからブーイングは飛ばず、変革を後押しする声援がチームに注がれた。もし猛烈な拒否反応が示されたら、「変わり切る」ことはできただろうか。
 アタッキングフットボールに対する可能性と、紆余曲折ある歴史と、そしてクラブに対する愛が絡み合って、その根気強さがもたらされたのだと感じ取ることができた。周囲の支えなくして、信念を持って邁進することはできない。長く、曲がりくねった道を進んできたからこそF・マリノスはスタイルの確立に至ったとも言える。

 今シーズンに向けた宮崎キャンプを終えた後、クラブOBである栗原勇蔵クラブシップ・キャプテンがこう語っていた。
「サイドバックに複数のケガ人が出たため、練習試合で大学生が出てくれたんです。ボランチの位置に行ってビルドアップに加わったりして、〝F・マリノスのサイドバックはこうやればいいんでしょ〟っていうイメージをちゃんと持ってプレーしてくれていました。ちょっと驚きだったけど、マリノスのスタイルが広く知れ渡ってきたんだなという実感を持つことができました」
 F・マリノスのスタイル=アタッキングフットボール。結果が伴っていることもあって身内にとどまらず、それは対外的にも浸透してきているのが今だ。

横浜F・マリノスのカラーは時代をけん引する役目を担えるか?

 2023シーズンのJ1は今日、2月17日に横浜F・マリノスと昨季2位の川崎フロンターレの一戦で開幕する。ここ6年間、優勝はこの2クラブに限られており(F・マリノス2度、フロンターレ4度)、スタイルが確立された両チームの対戦はJが誇る黄金カードだ。
 今季のF・マリノスは昨季リーグMVPの岩田智輝、19年MVP&得点王の仲川輝人らがチームを去り、守護神の高丘陽平も海外移籍が決定的となっている。とはいえ一人の特別な選手に依存せず、ローテーションしながら勝ち星を積み上げてきたチームだけに、むしろ新しく出てくる選手の活躍が楽しみでもある。天皇杯覇者のJ2ヴァンフォーレ甲府との富士フイルムスーパーカップ(2月11 日)ではGKオビ・パウエル・オビンナ、左センターバックの角田涼太朗ら今まで出場チャンスの少なかった選手がまずまずのプレーを見せて勝利した。
海外移籍が日常化する昨今、選手の出入りは激しくともチームのスタイルで勝っていくカラーは、クラブの在り方として一つの形になっていく可能性もある。

 31年目のJリーグ。時代をけん引する役目を担える存在か、否か。横浜F・マリノスは試されている。

即重版決定! 『我がマリノスに優るあらめや 横浜F・マリノス30年の物語』

2022年、創立30周年を迎えた横浜F・マリノス。前身となる1972年の日産自動車サッカー部の設立からは、ちょうど50年になった。
Jリーグ創設以来、リーグ制覇5回、一度の降格もないトップクラブとして存在し続ける「伝統と革新」の理由を、選手、監督、コーチなどチームスタッフはもちろん、社長をはじめクラブスタッフまで30名を超える人物に徹底取材。「マリノスに関わる人たちの物語」を通じて描きだすノンフィクション。

詳細はこちらから。デジタル版もあります!

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二宮寿朗

にのみや・としお●スポーツライター。1972年、愛媛県生まれ。日本大学卒業後、スポーツニッポン新聞社に入社し、格闘技、ラグビー、ボクシング、サッカーなどを担当。退社後、文藝春秋「Number」の編集者を経て独立。様々な現場取材で培った観察眼と対象に迫る確かな筆致には定評がある。著書に「松田直樹を忘れない」(三栄書房)、「サッカー日本代表勝つ準備」(実業之日本社、北條聡氏との共著)、「中村俊輔 サッカー覚書」(文藝春秋、共著)など。現在、Number WEBにて「サムライブル―の原材料」(不定期)を好評連載中。

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