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「私の自宅の玄関で会いませんか?」マッチングアプリで見つけた奇妙な誘い。その裏に隠された”衝撃の真実”とは?

『彼女が僕としたセックスは動画の中と完全に同じだった』などの著作で知られる作家・山下素童氏が、マッチングアプリで体験した驚きのエピソードを寄稿!

「私の自宅の玄関でお会いしませんか?」
その言葉におびき寄せられた山下氏が、相手の部屋で見たものとは……。
イメージ画像:PIXTA
イメージ画像:PIXTA

「私の自宅の玄関でお会いしませんか?」

これは、とあるマッチングアプリの話です。

そのアプリでは、どんな条件で異性に会いたいか、掲示板機能を使って募集をすることができます。会いたい条件は本当に人によってバラバラで、趣味の合う友達や飲み友達を探す人から、セックスフレンド、あるいはパパ活のような相手を探している人もいます。

新宿5丁目で知人と飲んだ帰りに、深夜からでも会える人はいないかとそのアプリを開いて募集ページを覗いてみると、数分前に近場での募集が目に留まりました。

【投稿者】はるちゃむ(20代後半)
【タイトル】私の自宅の玄関でお会いしませんか? 場所は東新宿駅の近くです🥹 23:37

その募集を見て驚きました。そもそも相手の自宅で会うという募集自体がすごく珍しいのですが、そのうえ玄関で会うとは一体どういうことなのかと。
シラフであったら連絡を取る勇気は湧かなかったと思いますが、お酒を飲んでいたこともあり、「はじめまして。玄関でお会いするとは、どういうことでしょうか?」と、思ったことをそのままメッセージで送りました。すると、1分で返事が来ました。

私の自宅玄関でお口でご奉仕します❣️ 5000円のお小遣いほしいです🥺 23:44

「お口でご奉仕」というのは、おそらくフェラチオのことでしょう。自宅の玄関でそんなことをしている人がいるのかと驚きました。
こんな募集をしている「はるちゃむ」さんが一体どんな人なのか気になりプロフィールページへ飛んでみると、写真が一枚だけ登録されていました。顔を左上から見下ろすように撮影されたアップショットで、黒髪のロングヘアと長い睫毛が印象的でした。身バレを防止するためか、指を揃えた右の手の平で口元が隠されていました。
自由に書き込めるプロフィールの自己紹介欄には「秘密厳守でお願いてへぺろっ🥺」という一文だけが書かれていました。おそらく自宅の玄関で男を募集していることや住所を秘密にしろという意味なのでしょうが、誰かに密告する趣味があるわけではないので、特に気にも留めませんでした。

興味本位で彼女に会ってみたいと思いました。「いま新宿5丁目にいるので東新宿駅には10分くらいで行けるのですが、お会いすることはできるでしょうか?」と連絡をしてみると、

わかりましたっ!
住所は新宿区新宿x丁目yy-zz ●●●●東新宿です
入り口に着いたら、建物の写真を撮影して送ってください🥹
そしたら部屋番号を教えます🙇‍♀️ 23:48

自宅マンションの住所を教えてくれました。その住所をコピーしてGoogleマップの検索欄に入力すると、東新宿駅から徒歩5分ほどのところにそのマンションはあるようでした。
Googleマップが示す目的地に向かって夜道を歩きながら、念のため手持ちの現金があるか財布の中身を確認すると、1万円札1枚しか入っていませんでした。これではお釣りが発生してしまうと思い「すみません、5000円のお釣りってありますか?1万円札しか持っていなくて…」とメッセージを送ると、

ありました、お釣り問題ありませんよ🙆✨ 23:50

と返事がきました。「ありますよ」ではなく「ありました」という表現の中に、彼女がメッセージを読んでから実際に体を動かし、部屋の中か財布の中に5000円があることを確認した様子を想像することができて、少し安心している自分がいました。そんなところに安心感を覚える程度には、自宅の玄関で会うような女性が本当に実在しているのか?という疑いを完全には払拭できていませんでした。

Googleマップを頼りに10分ほど夜道を歩くと、指定されたマンションの前に辿り着きました。1階のエントランスが橙色の光に照らされた灰色の鉄筋コンクリートのマンションが、12月の寒空に向かって静かに伸びていました。

メッセージで言われた通りマンションの外観の写真をスマホで撮影し、その画像とともに「着きました」とメッセージを送ると、

すいません、常連の方がちょうど来てしまったので10分ほどお待ち頂けますか💦 23:58

予想外の返事が届きました。マッチングアプリなので複数の人と連絡を取り合っていることは当然の前提ではありますが、常連の人がいることも、近い時間にブッキングされていることも予想していませんでした。

仕方なくマンションの入口のところにあった花壇に腰かけて待つことにしましたが、寒風に吹かれながら待っていると体も心も冷えてきて、次第に「本当に会うことができるのだろうか?」という不安が募ってきました。自宅玄関で会うとか、常連の人が来ているとか、そうしたことは全て作り話で、近くのマンションの上の階からこちらのことを覗いて「また今日もバカな男が釣れた」と嘲笑うのが趣味の人間でもいるのではないだろうか。そんな疑心暗鬼が私の中に育ってきました。もしそういう人間がいるのなら見つけてやろうと思い、辺りのマンションのベランダや窓を見渡してみましたが、それらしき人影は特に見当たりませんでした。

しばらくスマホでSNSを眺めながら時間を潰し、ふと時刻を確認すると、最後のメッセージをもらってから15分が経っていました。10分以上経っているのに連絡が来ないということは、やはり悪戯かなにかだろうと思い、彼女と会うのは諦めて来た道を戻りはじめたときでした。

お待たせしました!まだいらっしゃいますか🥹 0:14

とメッセージが届きました。「はい、いますよ」とメッセージを返してからマンションの方へ戻ると、ちょうどエントランスが開き、中からベージュ色のコートを羽織った30代半ばくらいの男が出てきました。それとほぼ同時に、彼女からメッセージが届きました。

部屋番号は602号室です!
オートロック開けますので、エレベーターで602号室まで来てドア開けちゃってください🙇‍♀️ 入り口のところに白い椅子が置いてありますので、そこにお金を置いて頂くとスタートします🥹 0:16

6、0、2、と玄関のオートロックシステムの部屋番号を押してから「呼出」ボタンを押すと、「はーい」という高音のアニメ調の声がインターフォンから聞こえてきて、オートロックが解除されました。建物の中に入りエレベーターで6階に向かっていると、またメッセージが届きました。

男の人とすれ違いませんでしたか?笑 0:17

彼女が「常連」と言っていたのが、さっきエントランスから出てきたベージュ色のコートを羽織った男のことだったのだろうと思いました。しかしそんなことをわざわざメッセージで送る必要性はあるのでしょうか?しかも末尾に「笑」までつけるなんて。一体なにが面白いのかわからず、なんだか少し不気味なものを感じました。

エレベーターで6階まで上がりフロアに出ると、右奥に602号室がありました。602号室のドアはU字ロックが外側に出されていて、数センチ開いたままになっていました。そのドアを開ける前に、アプリで彼女のプロフィールページを改めて確認しました。今から会う彼女の名前を間違えて失礼にならないよう、「はるちゃむ、はるちゃむ、はるちゃむ」と、何度か心の中で彼女の名前を繰り返しました。

それからノックをしてドアを開けると、白タイルの玄関が眼下に拡がりました。と思ったのも束の間、ガシャンッ、と大きな音を立ててドアが閉まると、真っ暗でなにも見えなくなってしまいました。部屋の中は電球がひとつも点いていなかったからです。

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山下素童

1992年生まれ。現在は無職。著書に『昼休み、またピンクサロンに走り出していた』『彼女が僕としたセックスは動画の中と完全に同じだった』。

Twitter@sirotodotei

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