2023.4.21
【W新刊記念対談】武田砂鉄×堀井美香 あなたの「普通」と私の「普通」が違う場所で語り合うこと
自分のことをわかってくれる場所から、沖に出る
堀井 うちの母、心配性なんですね。もう90近いですけど、今日もじゃんじゃん電話が鳴って、電話を折り返したら、私の娘(孫)に伝えなさいと。「あんまり男の人とお付き合いしてるとか、男のお友達がいるって言うと、嫁に行けなくなるから、あまり言わないようにしなさい」って。あと、「美香ちゃん、あんまりいろんなものに出るのもうやめなさい」って言って切りましたね(笑)。
武田 あんまりいろんなものに出るのやめなさい(笑)。
堀井 雑誌とか新聞とかで最近、見るんでしょう。もうずっとそうやって母は言い続けてるんですけど、90でそういう価値観で生きてる人なので、これは変えられないですし、そこで私が母親と、「いや、今の時代ってさ」みたいなこと言っても難しいんですね。それはうちの母だけじゃなくて、そういうものだと思うんです。
こういう業界にいると、結婚してるとか子どもがいるとか全然気にしないじゃないですか。私、砂鉄さんがどういう人かなんて全然知らなかったから。
武田 だから、70歳だと思っていたんですね。
堀井 70歳だと思ってたし、独身だと思ってたから。この本を読むまで知らなかったぐらいで、だから、この人がどういう人であるかっていうこと、あんまり気にしない。
武田 気にしなさすぎだとは思いますけどね(笑)。
堀井 いや、他の人も含めて。ご一緒した人がどこ出身で、どういう家庭環境でみたいなのって一切、気にしないし、砂鉄さんが書かれたような、「父ではありませんが」で何か引け目を感じてしまうようなことってこの界隈には存在しないと思ってたので。
武田 堀井さんが、アナウンサーとして入社して、2年目ぐらいに結婚して妊娠された。そのときは今よりも強く、「女子アナ」という扱いをされていたと思いますが、「入って2年目で女子アナが結婚して子どもを産むなんて。こっちはあの番組やらせよう、この番組やらせようって思ってたんだけどさ」みたいなことは言われたわけですよね。
堀井 ええ。田舎の普通はわかってたけど、都会の普通はわからなかったんですね。ちゃんと30ぐらいまでキャリアを積んで、っていう都会の普通は、私には普通じゃなくって。
武田 秋田では「24で産め」って言われて、東京の放送局では、「え、24で産むの?」って言われる。
堀井 だから、普通の違いは場所にもあるし、時差がありますね、きっと。
武田 秋田の「普通」とTBSの「普通」、まさに正反対なわけですが、どうやって両方を受け止めるというか、まとめあげたんですか。
堀井 別にまとめあげてはないです。秋田の普通を貫いたら東京の普通は無視せざるをえなかったけど、時間が経ってだんだん東京に寄ってったってことですね。
ここ、青山ブックセンターとかにいらっしゃってる方みんな、きっとわかってらっしゃるじゃないですか、砂鉄さんが本で書かれようとしてることが。青山ブックセンターじゃないところでトークショーしたほうがいいと思います。秋田でやったほうが。
武田 そうすると、「何てこと書いてんだ」となるかもしれない。
堀井 だから、そういう場所から意識を変えていくってお仕事なんじゃないですか。
武田 これだけ話した後に、この場で開催することの否定 (笑)。ここでやったってしょうがないと。もっと沖に出ろってことですか。
堀井 もちろん、この場で開催されたのは、これはこれで意味あります。わかってくれる皆さんにお会いできたし。でも、沖に出て、たくさん売ったほうがいいと思います。本当にたくさん読まれてほしいなって思います、いろんなところで。
武田砂鉄さん新刊『父ではありませんが 第三者として考える』
「父親とは…」
「母親とは…」
「子育てとは…」
大きな主語で語られ、世の中で幅を利かせる「普通の家族」をめぐる言説への違和感を「父ではない」ライターが遠巻きに考えてみた。
「ではない」立場から見えてきたこととは?
武田砂鉄さんの『父ではありませんが 第三者として考える』は、Amazonほか、全国書店・ネット書店にてお求めいただけます。
堀井美香さん新刊『一旦、退社。 50歳からの独立日記』
それは、ゆくりなく選んだことだった。
ある日、50歳というキリのいい数字を前にして、一旦、退社してみようかな、と思った。
会社員生活を手放す覚悟も、将来の構想もないままに、ふと、である。
だから意志あるところに道ができたのではない。 とりあえず違う道をすすんでみたら、意志があとからついてきた。 (「はじめに」より)
働くことについて、美容について、ノースリーブについて、ヒールについて、車について、朗読について…さまざまなことについて書きつくした1年の記録!
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