2023.4.21
【W新刊記念対談】武田砂鉄×堀井美香 あなたの「普通」と私の「普通」が違う場所で語り合うこと
「OVER THE SUN」をていねいに文字化してみる
堀井 砂鉄さんもそうですし、いろんなことを覚えていて、常に言葉に変換できる人たちって何人かいるじゃないですか。
武田 スーさんとかね。言葉の変換力が異常ですよ、あの方は。
堀井 ああいう人たちが本当にうらやましいです。
武田 堀井さんは記憶のストックがかなり少ないってことですか。
堀井 少ないです。ついさっきのことも忘れちゃう。
武田 常にフレッシュな感じですね、頭にあることが。
堀井 フレッシュっていうか、容量が少ないんでしょうね。抜けていくっていう感じです。
だから、砂鉄さんには頑張っていただきたいです。
砂鉄さんの本を読んでもなかなか頭に入ってこないのね。悪い意味じゃないですよ。
武田 それは俗に言う批判ですよ、読んでも頭に入ってこないっていうのは(笑)。
堀井 違う、そういう意味じゃなくて。どんな本でもそうだけど、何回も読むことによって本当によく理解できます。
武田 ありがとうございます。
堀井 だから、こういうふうに自分の意見を持って、それを文章にして本にしてっていう人たちのお仕事はすごいなと思ってます。
武田 今回、堀井さんも、これにて断筆宣言をしながらも、一冊書き上げたわけですもんね。時間は結構かかりましたか?
堀井 かかりましたね。だって私、文章って書いたことない人ですから。
武田 アナウンサーっていう仕事は、文章を自分で一から書くってことはないんですか。
堀井 あんまりないですね。文章を長文で書いたことってないので。子どもの連絡帳で50字ぐらいは書きましたし、日記を箇条書きに書いたりはしますけど、まとめて書くことはないですから。そういう仕事でもない限り、長い文章を書く機会ってなかなかないですよ。
武田 書いていく中でいろんな記憶が刺激されたり、自分はこういうことを考えていたのかと掘り起こされたりしましたか。
堀井 今までは、悲しいなとか、なんか嫌とか、なんかむかつくみたいな感情も、その場限りで、どうしてなんだろうって考えてこなかったんですけど、それをちゃんと書いていくっていうことで、整理はされますね。整理されるから、いったん頭の中でまとまると、次に新しく進んでいけるみたいな感じはします。
武田 ジェーン・スーさんが「OVER THE SUN」の中で言っていましたが、このエッセイ集は、「OVER THE SUN」で話したエピソードを丁寧に書き直しているだけではないかと。そう思って比較しながら読んでみると、確かにそうだなって。同じ話を丁寧に素敵に書く、その手つき、仕草がバレバレになっているというすごく珍しい本ですね。
堀井 ありがとうございます。
武田 いや、今のはあんまり褒めてないです。
堀井 これは俗に言う批判ですよって言おうかと思いましたけど、ここは素直に(笑)。
本ができたとき、スーちゃんのおうちまで行って渡したんですけど、彼女、じっくりその場で読んでくれて、「これ、私にいっつも言ってること丁寧に書いただけじゃん!」って。
武田 さすが、わかってらっしゃる。そうですよね。今日、会場にいるお客さんも「OVER THE SUN」を聞いてらっしゃる方が多いと思いますけど、リスナーからすると「あの話だ!」とわかる。
堀井 「OVER THE SUN」でべらべらしゃべってることを整えて、文字として残すっていう作業は初めての経験だったので、すごく時間はかかりました。しゃっしゃか書けるわけじゃないから。
武田 「いい感じに書く」っていうことがお上手だなと思いましたね。いい感じに書くっていうのは、ともすれば、読んでいてベタベタしたり、「うわっ、ここは盛ってきたな」っていうのが何となく伝わったりするわけですけど、堀井さんの文章には、そういう感じがないですよね。本当にご自身で思ってらっしゃることを率直に書いているんだろうなという感じがしました。
堀井 本当に? これは俗に言う批判じゃないの(笑)。