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姉は漫画家。妹は編集者。 出版界の有名姉妹がヒットを生み続ける理由

言葉でうまく表せないから、漫画で描く

――紀子さんが編集者としてブレイクした作品は、小栗左多里さんの『ダーリンは外国人』。この作品が生まれるきっかけとなったキーパーソンが姉の奈緒子さんであったことも、本書で語られています。

紀子 上京したてで書籍編集の経験ゼロだった私が、いきなり漫画家さんと会えるきっかけをつくってくれたのだから、本当にありがたかったですね。

奈緒子 小栗さんは当時は少女漫画をメインに描いていらっしゃっていて、私がデビューしてからも時々アシスタントとして手伝いに行っていたんです。そこでパートナーのトニーさんともお会いしていて、お二人の会話がとにかく面白くて。たまたま紀子がファンだというので、食事にお誘いして4人で会ったんだよね。

紀子 そうです。そこで、トニーさんがハト10羽を「10パト」と言ったとか、トニーさんの彫りが深い顔の中で特に深い鼻筋のくぼみを「トニー渓谷」と呼んでいるといった話をずっと笑いっぱなしで聞いていて。あの時の食事会が、2年後には大ヒット作につながるなんてね。

奈緒子 紀子がつくらせてもらった本を読んでみて、「面白いなぁ。小栗さんが話しているのと同じように面白い」と楽しめました。同じ頃、八景島にうちの旦那と遊びに行くと、隣に座ったカップルが「ねぇ、『ダーリンは外国人』っていう漫画知ってる? すごく面白いんだよ」と話し出したんです。「これは絶対売れるな」と確信しましたね。

紀子 第2巻でブレイクして、一気に100万部まで行きました。

奈緒子 その後も売れ続けてシリーズ累計300万部超だっけ。もちろん紀子だけでなく、たくさんの方々の力あっての実績ですし、なんといっても作品の力がすごかったのは大前提。でも、実の妹がそこに関わっているというのは、私にとってもなかなかできない経験でした。まだ萌芽の状態から一気に花咲く日まで、大ヒットが生まれる過程を見届けた経験は、少なからず、私の作品『重版出来!』のバックボーンにもなっていると思います。「こういうことは現実に起こる」と信じられましたから。

紀子 嬉しいですね。その『重版出来!』には、私も強く影響を受けました。編集者が主人公の漫画ですが、すごくリアルなので、編集者の私が読みながらハラハラするんです。冷徹キャラだった安井さんが後輩に手柄を譲るシーン、あるでしょう? あれを読んだ時に、「私もそろそろ編集長の職を下に譲ろう」って素直に思えたんだよね。ふっ切れたというか。

奈緒子 そういえば、そんなこと言ってたね。

紀子 そう。安井さんの姿が、本当に立派でかっこよかったから。同じシーンから受け取る印象は十人十色だけど、私は揺さぶられた。まさに漫画が持てる力だと思いますね。あと、私が姉の作品の中で一番好きなのは、『100年たったらみんな死ぬ』。あれは傑作! 底抜けに前向きな感じがすごくよくて、“長崎県民気質”が流れているんですよ。作品を読んですぐに姉に電話をかけて、熱苦しく感想を伝えたのを覚えています。

――業界の先輩として、奈緒子さんから紀子さんへ助言があったことは?

紀子 漫画家さんの気持ちについては、理解しやすかったかもしれないですね。姉はよく「言葉でうまく表せないから、漫画を描くんだよ」と言っていたんです。つまり、饒舌に喋れるならば漫画を描く必要はないのだと。それを聞いて、「漫画家の方がうまく言葉にできない思いも汲みとって、私がカバーしていかないといけないんだな」と学んだりもしました。あと、もっと基本的な仕事上のコミュニケーションについても、いろいろアドバイスをもらいましたね。具体的には…、うーん、アレ? 思い出せないんですけど(笑)。

奈緒子 「発注」という考えはやめなさい、と言った記憶はある。

紀子 そうだった! 単発で絵や文章をいただくことも多い雑誌の現場に長くいたクセで、コミック編集に移ってからも「発注」という用語を使いがちだったんです。それを姉が注意してくれて、「書籍では、もっと長い時間をかけて一緒につくり上げる感覚で仕事をしないとダメだ」と。そういう注意をしてくれる身内がいるのは、すごくありがたいことでした。

――逆に、奈緒子さんが妹の紀子さんの仕事ぶりから刺激を受けてきた面はありますか?

奈緒子 刺激かぁ。あるかなぁ…?(笑) いつも思うのは、「楽しそう」ということ。

紀子 喜んでいいんですよね(笑)。

奈緒子 時々腹が立つんですよ。昔、近所に住んでいた時に、私が家で仕事していたら、紀子から電話がかかってきて「雨が降りそうやけん、うちの布団ば取り入れてくれんね」って…(笑)。あと、地震が起きた後に、「棚の上の石膏像が落ちて猫がケガしてないか、見てきてー」というのもありました。

紀子 姉をさんざん使ってますね〜(笑)。あの石膏像、今はヤマザキマリさんのお宅にあります。

奈緒子 つくづく楽しそうだね。でも、まあ、編集者としてはそのほうがいいのでしょうね。やっぱり明るく楽しく作品をつくれる相手と組むほうが、作家もラクでしょう。楽しく仕事できればベストですよね。

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松田紀子

まつだ・のりこ●1973年長崎生まれ。97年リクルート九州支社に入社し、旅行雑誌「じゃらん」の編集に3年間携わったのち上京、2000年メディアファクトリーに入社。11年メディアファクトリーがKADOKAWAに子会社化ののち合併され、「コミックエッセイ編集グループ」編集長に。16年「レタスクラブ」の編集長も兼任。19年9月にKADOKAWAを退社、(株)ファンベースカンパニーに合流。編集力を活かした<ファンベースディレクター>として様々な分野の起案・企画に伴走。

松田奈緒子

まつだ・なおこ●1969年長崎県生まれ。『コーラス』(集英社)に掲載された『ファンタスティックデイズ』でデビュー。著作に『レタスバーガープリーズ. OK, OK!』『悪いのは誰』『100年たったらみんな死ぬ』『スラム団地』『花吐き乙女』『重版出来!』など。

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