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メンズエステの風俗体験レポートで年収1000万円?! 山下素童が読む『そこそこ起業』

高橋勅徳さんの新刊『なぜあの人は好きなことだけやって年収1000万円なのか? 異端の経営学者と学ぶ「そこそこ起業」』が注目を集めています。

今回、作家の山下素童さんが「メンズエステの体験レポートで稼ぐ男」のエピソードを入口に、本書を読み解いてくださいました。
本書を手にした山下素童氏
本書を手にした山下素童氏

メンズエステの体験レポートサイト

「久しぶり!メンズエステ代を奢るから、体験レポート書いてくれない?」

3年ほど前のことだ。友人Rから久しぶりにLINEが届いたと思ったら、メンズエステの体験レポートの執筆依頼だったことがある。

   *

友人Rと知り合ったのは、20代半ばのことだった。知り合いに誘われた飲み会で偶然出会った。当時の彼はいわゆる渋谷のイケてるベンチャーIT企業で人事の仕事をしていた。彼は週に3回も4回も、仕事終わりに渋谷や恵比寿や目黒や五反田のメンズエステに通っていて、つまらない人事の仕事をしている自分にとってはメンズエステが生き甲斐なんだ、という話を酔っぱらいながらしてくれた。

とりあえず別れ際にLINE交換はしたが、特にそのあと連絡を取ることもなかった。それから1年ほど経って突然届いたLINEが、「メンズエステ代を奢るから、体験レポート書いてくれない?」という依頼だった。

急に何事かと思って「どういうこと?」と返すと、最近メンズエステの体験レポートサイトを立ち上げたから、ライターとして協力してほしいという話だった。なんだか面白そうだからとりあえず久しぶりに会おうということになって、彼がよく通っているという渋谷の焼肉屋で会うことにした。

「お小遣い稼ぎにでもなればと思って、メンズエステの体験レポを週に数回ブログで有料公開してたら、意外と購入されたんだよね。でも自分の体験談だけだと数にも限界があるから、増えてきたブログの読者にも体験レポートを書いてもらってそれを買い取って売るようにしてみたの。そしたらそれも結構売れて。毎日1記事を更新できるようになったら、月に5、60万の利益が出るようになったんだよね。本職の給料より高いくらいだよ。でも定期的にちゃんとしたクオリティの体験レポートを書ける人を探すのが一番ネックでさ。君は文章を書くのが得意だから、協力してくれないかなと思って」

彼は網の上で肉を焼きながら、依頼内容の詳細を教えてくれた。メンズエステの体験レポを有料で書くだけで月に5,60万円の利益が出るなんて、夢のある話だと思った。

「今日ここは奢るね。仕事の話だから経費にできるし」

と笑いながら、彼は2万円ほどの焼肉代を奢ってくれた。結局、メンズエステにはそんなに興味が無かったので彼からの依頼は引き受けることはせず、連絡もそれっきりになっていた。

   *

それから2年が経った昨年のことだ。

新宿ではアダルト業界に関わる人が集まる異業種交流会のような飲み会が月に1度開かれているのだが、そこで偶然にも彼と再会した。「最近は何してるの?」と聞いてみると、メンズエステの体験レポートサイトで月に100万以上の利益が出るようになったから、勤めていた渋谷のベンチャーIT企業はやめてしまったということだった。

「すごいね、本業にしたんだ。メンズエステ行き放題じゃん」

と言うと、「いや、もう行ってなくてさ」と言って、彼は続けた。

「自分がメンズエステに行って体験レポート書くのって、利益率がすごく悪いことに気がついて。どうしたら効率よくお金を稼げるか考えた結果、自分はメンズエステに行かずに、体験レポを書ける人を探して育てていった方がいいという結論にたどり着いたんだよね。こういう飲みの場にもライターを探しに来てて…」

以前はメンズエステに通う日々を謳歌していた彼は、経済合理性の観点から、自分はメンズエステに行かないほうがいいと結論づけたようだった。

僕はその話を聞いて、彼は少し滑稽なのではないかと思った。サラリーマン時代には、好きでもない人事の仕事をしながら趣味としてメンズエステに通っていたのに、そのメンズエステの体験レポートを販売することを本業にした結果、好きだったメンズエステには行かなくなってしまい、彼が日々やっていることと言えば、ライターを見つけ、評価し、育てていくこと。そんなのまるで、彼がつまらないと言っていた人事の仕事そのものじゃないか。

「会社員もやめて、好きなことを仕事にして、年収も1000万円越えて。でも結局、人事みたいなことをずっと一人でやってるってこと? それって楽しいの?」

意地悪く聞いてみると、

「まぁ、そうなんだけど。自分でお金稼ぐようになると、なんかサラリーマン時代とは考え方が変わっちゃったんだよね。これといって他にやりたいことも見つからないし…」

と、彼は本当にやりたいことの無さそうな顔をしながら言った。

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新刊紹介

山下素童

1992年生まれ。現在は無職。著書に『昼休み、またピンクサロンに走り出していた』『彼女が僕としたセックスは動画の中と完全に同じだった』。

Twitter@sirotodotei

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