よみタイ

軽やかな〈ダメ教師〉から学ぶべきこと──外山薫が読む『白兎先生は働かない』

SNSですさまじい反響を呼んだ、過重労働ハートフルコメディ『白兎先生は働かない』がついに発売!
今回、『君の背中に見た夢は』などの著作で教育問題を描く小説家・外山薫氏による書評を公開します。

現代日本における教育現場の惨状と矛盾

「働き方改革」という言葉が定着して10年が経つ。かつて不夜城を思わせたオフィス街のビル群からは早々に照明が消え、男性の家事育児への参加も当たり前となって久しい。職場と生活は分離され、滅私奉公といった概念は昭和や平成の遺物として風化しつつある。

 しかし、時代や社会が変わる中でも、変化の波から取り残された職業がある。その最たる例が教師だ。授業や部活、生活指導とその業務範囲は広大で、常に完璧を求められる立場は替えが利かない。聖職者という呼称も相まって、その働き方はある種、不可侵のものとされている。

『白兎先生は働かない』では、そんな教師像を真っ向から否定する「白兎先生」がキーパーソンとして描かれる。部活の顧問を拒否し、定時で帰ってパチンコに熱中し、「めんどくせぇ」と口に出す。どこからどう見てもダメ教師だ。しかし、物語を読み進めていくうちに我々は迷う。間違っているのは白兎先生ではなく、一労働者にすぎない教師に対し過度な自己犠牲を求める社会なのかもしれないと。

 定時後や土日の稼働を前提とした部活動、プールの給水栓を締め忘れた教師が個人で賠償する仕組み、非正規でも変わらぬ責任の重さ──。やりがい搾取で成り立つ学校で苦悩する教師たちと、我関せずで飄々と生きる白兎先生の姿は、現代日本における教育現場の惨状と矛盾を容赦なく描きだす。

 数年前に世間を賑わせ、ニュースにもなった「#教師のバトン」プロジェクトでは、教師という職業の魅力を広報したい文部科学省の思惑とは真逆に、窮状を訴える現職教師からの怨嗟の声がSNSを埋め尽くした。もはや、日本社会を支えてきた土台は急速に崩れつつあることは隠しようがない。金八先生やGTOのような教師像が過去のものとなった令和の学校で、軽やかに過ごす白兎先生から我々が学ぶことは多い。

(※本書評は、青春と読書2025年6月号から転載したものです)

笑いと涙の教員コミック

「わたし、部活にはいきません」
絶対に定時で帰る白兎先生と、彼女に振り回される周囲の教師たち。

教員不足、部活未亡人、プールの水流出問題、非正規雇用、管理職の孤独……取材に基づき令和の教育現場をリアルに描く。
SNSで現役教師たちの凄まじい共感を呼んだ、過重労働ハートフルコメディ!

詳細はこちらから

[1日5分で、明日は変わる]よみタイ公式アカウント

  • よみタイ公式Facebookアカウント
  • よみタイX公式アカウント

新刊紹介

外山薫

とやま・かおる●1985年生まれ、慶応義塾大学卒業。単著『息が詰まるようなこの場所で』(KADOKAWA)、共著『本当に欲しかったものは、もう Twitter文学アンソロジー』(集英社)など。
公式ツイッター@kaoruroman
イラスト:モカタナカ

週間ランキング 今読まれているホットな記事